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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第六章 九月 力なき者の怒り
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五十一 合同魔法演習打合せ

 放課後、レイとスカーレットと一緒に二階の空き教室に向かった。来週月曜日に行われる一・二年生の合同魔法演習の打合せに参加するためだ。


 空き教室のドアを開けると、俺たち以外の三人のメンバーが座って待っていた。

 二年生選抜チームで一緒だったアネモイとローレライとティタンだ。


「よぉ、カズヤ! 久しぶりだな」


 緑髪の少年、風の大国ウィンディアの王子アネモイが頬杖(ほおづえ)をつきながら話しかけてくる。


「元気そうだなアネモイ。夏休みは国に帰ったのか?」


「親父に色々と報告をしないといけないからな。そっち随分は鍛えたようだな」


「まぁな。お前も相当追込んだみたいだな」


 筋肉量が増えているのはもちろん、アネモイの顔つきからは自信に裏付けされた穏やかな表情が見て取れる。


「三年生との試合で自分の甘さと目指すべき王の姿が見えた。それにどうせお前は夏休みでさらに強くなってくるから負けていられないからな」


 国を背負う覚悟を持ってるこいつは強い。もし戦うことがあればそう簡単に勝たせてもらえないな。


「スカーレットちゃん! 夏休みにグリットさんのところで特訓してたらしいけど大丈夫だったの?」


 青の髪の少女ローレライがスカーレットの元に駆け寄る。


「ま、まぁ余裕でしたわ。元々自信があったコントロールはもちろん。炎魔法の出力は桁違いになりましたし」


 髪をかきあげて自信満々に見えるように答える。


 今朝、レイに泣きついていたことについては心の中でツッコミを入れておこう。


「スカーレットいいか? お願いがあるんだが……」


 ゴーレムのティタンがスカーレットに申し訳なさそうに話しかける。


「なんですの?」


「その……模擬戦なんだが……俺と変わってくれないか?」


「私は別にこだわりはないから構いませんわ。でも模擬戦のメンバーを決めたのは先生方ですからそちらの了承を得ないと……」


「わかっている。とりあえずお前に変わってくれるか聞いてからフェイ先生にお願いしようと思っていたんだ」


 付き合いは長くはないがティタンがそんなことを言い出すなんてらしくないな。もしかして同郷のセレーネが関係してるのか?


「ティタン、俺からも聞いていいか?」


「なんだ?」


「もしかして一年生のセレーネ・ルーナがお前に模擬戦に出るように言ってきたのか?」


 ティタンが少したじろぎ沈黙する。


「――そうだ。それもカズヤと一緒に出ろと言ってきた」 


俺だけではなくティタンにもすでに接触していたか。


 祖国を守るために身体の大部分を機械に置き換えてしまうこといい、光の魔法を向上させるための行動といい、危ういと思うと同時に凄いと思ってしまう。


 なぜなら、セレーネには俺には欠けている暗い何かがあるような気がしたからだ。


 

「全員集まってるな。打合せを始めるぞ!」


 フェイ先生が入ってきて打合せが始まる。


「来週月曜の放課後、一・二年生の合同魔法演習を屋外訓練場で行う。お前たちには二年生の代表として一年生に魔法の指導をしてもらいたい。その後タッグチームの模擬戦を行う。二年生から参加するのはカズヤとスカーレットだ」


「先生、当日の班分けはどうするんですの?」


「できれば属性で班分けしたい。ただ今回は四十五人の一年生全員が参加する可能性がある」


「そんなに集まるんですか!」


 ローレライが口元に手を当てて驚く。


「お前たちが三年生に勝ったことは話題になっているからな。それに……」


「生徒会メンバーである僕が参加しますしね」


 レイが頭の後ろで腕を組み、先生の話に割り込む。


「そういうことだ。まぁ、属性にもよるが一人あたり八人くらいは受けもつと考えてくれ。あと今回の模擬戦は二年生と三年生の見学も許可している」


「――先生、その模擬戦なんですが……スカーレットの代わりに俺を出してくれませんか」


 ティタンが手を上げて恐る恐るフェイ先生に申し出る。


「これは他の先生方と話し合って決めたことだからなぁ……スカーレット、お前はどうなんだ?」


「私は見世物になるのが嫌なのティタンが交代してくれるのならありがたいですわ」


「うーん……アネモイとローレライは?」


 フェイ先生が困った顔をして二人に尋ねる。


「相手は地の大国のセレーネでしょ? 風の大国の王子である俺が光の兵器とやり合うつもりはありませんよ」


「私もスカーレットちゃんと同じで見世物になるのは嫌ですわ。やる気のあるティタンくんに任せる方がいいかと」


 空気を読んでアネモイもローレライも参加を断るとフェイ先生はさらに困惑する。


「先生、ティタンだって選抜メンバーの一員ですよ。それに模擬戦とはいえやる気のない奴にセレーネと戦わせるのは危険なのはご存知ですよね?」


 レイが先生に迫る。


「そりゃあ、そうだけどティタンは大丈夫なのか? お前を信じてないわけではないが、セレーネとティタンを戦わせると大事になりそうだからな……」


「責任は学園長である母さんが取ると言ってましたよ。当日はもしものために待機してくれるそうです」


 俺とセレーネが戦うであろうことはフレイアさんも覚悟していたのは知ってはいたが、ティタンも認めるって何か考えがあるのか?


「理事長がわざわざ出てきてくださるなら他の先生方も反対できないだろうしな……それにしても今ここで結論は出せんから後日お前たちに伝える」 


「よろしくお願いします」


 ティタンが深々と頭を下げる。



 その後、細々とした事項を確認して打合せは終了した。


「みんな、俺のために模擬戦の参加を断ってくれてありがとう」


 ティタンが再び深々と頭を下げる。


「私はさっき申し上げた通り、今はこのような見世物に参加したくありませんから大丈夫ですわ」


「私もスカーレットちゃんと同じ。まぁ見世物になるなら戦いではなく得意な歌でお願いしたいわ」


「地の大国絡みの面倒くさい案件に巻き込まれたくないだから気にするな」


 三人ともティタンを気づかってフォローをしてくれる。

 いい仲間を持ってよかった。


「ところでカズヤ、お前にセレーネのことについて話しておきたいことかある。時間は大丈夫か?」  


「セレーネと戦うなら彼女のことは少しでも知りたいと思っていた。こちらこそ頼む」  


 自らの身体を機械に置き換えてまで祖国のために尽くす光の魔力を持つ少女セレーネ。


 戦うために必要な情報がほしいのもそうだが、彼女の常軌を逸した覚悟の背景に何があるのかを知りたくなってきた。


 自分に欠けている何かを見つけるために…

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