四十七 神の魔法と神樹の門
「僕に銀守の剣の力を発動させるとは大したもんだ。それにコンビネーションも抜群だった」
マルスさんはいつもの笑顔になってその場で座りこんだ。
息も少し荒くなっている。
「お疲れのところ申し訳ないんですけど、あの門とそこから出てきた柱って一体どういったものなんですか?」
俺の「物質の創造」の力と、レイの「物質の破壊」の力が拮抗したとき、あの門の姿が脳裏に浮かんだので創造したわけだが、結局なんだったのだろうか。
「おそらくあの門は『神の魔法』によって発生したものだろう。そして柱はその門の中にあったものが召喚されたというところかな」
「神の魔法?」
「創造と破壊の神具の力が拮抗したとき、神の魔法が発動することがある。これまでの歴史の中で発動したのは、君達の前世の英雄と悪魔が対決したときくらいなんだけどね」
これまで英雄と悪魔は転生し続けて何度も対立していたのならば、その力が拮抗することは何度もあったはずだ。
それなのに神の魔法が発動しなかったのは、他にも厳しい条件があるからなのだろうか。
「ところでレイ、転生システムの破壊は神の魔法を発動させることで成し遂げると考えていいのか?」
「うーん……神の魔法がどういったものなのかよくわかっていないから『そうだ』とは言えない。僕としては神の魔法を発動させるというより、拮抗したエネルギーを破壊の力でコントロールするつもりだったし……」
レイは神の魔法に頼ろうとしていた訳ではなく、自身の破壊の力で転生システムを破壊しようとしていたわけか。
「それと今回の結果から、創造の力と破壊の力が拮抗したときのエネルギーを安易に利用すると、神の魔法が発動して想定外のことが生じるかもしれないのは不安だよね……」
レイは顎に手をやり、目線を下に落とす。
ただでさえ、勝算は高くないんだから不安要素はなんとかしないといけないな……
「まぁ、父さんが僕の案に反対しなかったから間違いではないと思うし、一度父さんに相談してみるよ」
「アドルさんってそんなに神の魔法について詳しいのか?」
「四十六年も神具を使ってるからか、神の魔法も含めて神具関係のことは詳しいんだよ」
四十六年?
アドルさんって現在も世界最強の英雄なんだよな?
「ちなみにアドルさんが神具を発動させたのって何歳のときなんだ?」
「確か、十九歳のときとか言ってたような……」
つまり現在は六十五歳。
年齢で強さを考えてはいけないけど、やっぱりクレスター一家はおかしいだろ……
額に手を当てて唸ってると、マルスさんが肩を叩いてきた。
「話が脱線してるから戻していいかい?」
「あっ……すみません」
「神の魔法とは直接関係があるかは分からないけれど、あの門はデザインからして『神樹』に関係すると思うんだ」
確かに、あの門の柱や門扉は木のようなデザインだったな。
上部についていた目を引くレリーフも神樹とやらが関係しているわけか。
「神樹はあらゆる世界を支えるとても生命力の強い大樹。そんな神樹に関する門が神の魔法で創られるのはあり得る話だ。そして『神樹の門』に関して伝説がある」
「伝説?」
「『神樹の門は撰ばれし戦士のみがくぐることを許される。その先にあるのは宿命を定めるための戦いの間』。あくまで伝説だから本当にそんなものが存在しているとは思ってもなかったけれど……」
撰ばれし戦士。
宿命を定めるための戦い。
そのような場所に通じる門を俺が発生させたなら、英雄と悪魔の宿命を司る転生システムと神樹の門が無関係とは思えない。
「レイ、お前は神樹の門についてどう思う?」
「カズヤが考えていることおそらく同じさ。転生システムと関係があるだろうね……とりあえずは父さんに相談してみるよ」
結局はまだ判斷材料は足りないわけか。
「何かわかったら教えてくれ」
「うん。なるべく早く父さんを捕まえて相談するよ」
アドルさんがこの場にいてくれたらもっと色々聞けるんだけど、世界最強の英雄はそんなに忙しいのだろうか。
というか今どこにいるのだろうか――――
「とりあえずこれで夏合宿はこれで終わりだ。夏休みは残り数日しかないけどゆっくりと休んでくれ。今回の件については僕が母さんと生徒会メンバーに報告しておく」
「大変お忙しい中、俺たちのために一ヶ月近くも付き合ってくれてありがとうございました」
「本当はもっと早く僕が君を鍛えるべきだったんだから申し訳ないくらいだよ。それよりこれから一緒に食事に行かないか? 二人とも頑張ったから何でもご馳走するよ」
「やった! 兄さん大好き!」
レイがマルスさんに抱きつく。
マルスさんは自分の妹のことを分かってて「何でも」なんて言えるのだろうか?
どれだけ稼いでるのかしらないけど、飢餓状態のレイに奢ったら財布からお札が何枚消えるか想像もしたくない……
この後、テイルロード島に戻ると色んな料理店を回った。
回った店の数もそうだが、一件一件が値段の高い料理ばかりの店で、とても申し訳なく感じた。
それでも、マルスさんは妹のレイが美味しいそうに料理を頬張る姿を笑顔で愛おしいそうに見ている。
やっぱりこの人は凄いな。
俺もいつかはこの人みたいな優しくて器の大きい大人になりたいものだ。




