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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第五章 八月 ここにあることの喜び
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四十四 光る剛球

 朝食後、いよいよ光の魔力の扱い方をマルスさんに教わることになった。


「カズヤくんは白のリングと四種のサブリングを使って光の魔力を既に実践で使っている。でも、英雄の魂の第二階層にアクセスするためには、光の魔力、特に『創造の光』を意識してコントロールしなければいけない」


「はい。わかりました」


 これまでは光の魔力を意識して単独で使ってきたことはなかった。


 ほとんどはサブリングで四属性に光の魔力が付加されたものを使ってきたわけだし、メインの白のリングにしても身体や他のサブリングの強化にしか使ってこなかった。


 でも一つだけ疑問がある。


「レイ、なんで最初から光の魔力の存在を教えてくれなかったんだ? 光の魔力さえ使えれば第二階層にもっと早くアクセスできたわけただろ?」


「君がまずやるべきことは魂の第一階層の制覇、すなわちサブリングを全て発動させることだった。光の魔力についてはその後でもいいし、それに僕は光の魔力を使えないからね」


 まぁメインの白のリングと四種のサブリングというただでさえ複雑なものに、光の魔力の扱い方なんて加わったら混乱していたことは否定できない。


 それに英雄の魂による宿命があったにせよ、サブリングの発動がなければここまでこれなかったから、結果としては効率が良かったのだろう。


「カズヤくん。もういいかい?」


「すみません。続けてください」


「じゃあ続けるよ。今更な確認だけど、魔力の基本的な扱い方は知ってるよね?」


「はい。基本は『出力』と『コントロール』の二つですよね。例えば風なら……」


 まずは出力。

 風が渦を作るをイメージしながら丹田で魔力を練る。

 それを指先から放出する。


 次はコントロール。

 回転する風のリズムを掴み、心音とシンクロさせて風と一体になりコントロールしていく。


 この基本を応用させて、風の球体を作り上げる。


「うん、よくできてる。『出力』ならイメージ。『コントロール』ならリズム。この二つが特に重要だ。しかし光の魔力は少しプロセスが違う」


「どう違うんですか?」


「光の魔力は四属性と違って、原則は魔力を変換して作り出すことができない。元々魂にある光の魔力を『開放』させることから始まるんだ」


 これまでは意識せずに光の魔力を『開放』させていたわけだ。


「じゃあ、魂にある光の魔力とはどういうものかというと、淡い光の粒のようなものだ。目を瞑って、胸の奥にそういうものがないか探ってみてごらん」


 言われた通り、目を瞑り、胸の奥を探ってみる。


 しかし、いくら探しても見つからない。


「うーん……プロセスとしては逆になっちゃうんだけど、白のリングを使って、魂にある光の魔力を探してみようか? 発動させて胸に当ててごらん」


「やってみます」


 左手の白のリングを発動させて、胸に当ててみる。


「そのまま目を瞑って光の魔力を探ってみよう」


 目を瞑り、再び胸の奥を探ってみる。


 するとホタルのような淡い光のが一粒こちらにゆらゆらと寄ってくる。


「一粒だけですけど、見つかりました!」


「じゃあ次はそれを丹田に落とし、弾けさせるイメージだ」


 淡い光の粒を丹田に落とす。


 そして、弾けるようなイメージをすると……


 お腹の中が光で満たされるような感覚になった。


「その反応だと『開放』はできたようだね。それを指先に集めみようか。君なら白のリングがある左薬指がいいだろう」


 丹田に満ちる光を左薬指の先に集めてみる。

 すると、丹田から胸、腕、指先に光が走る。


 そして白のリングが光り、宙に白い魔法陣が浮かびあがる。


「その調子だ。どんどん光を指先に集めて」


 すると魔法陣から光の球が出てくる。


「それをあの木に向かって放って!」


 思いっきり、指先に魔力を込めると光の球が発射される。


 光の球が木に当たると一部がえぐれて倒れる。


「威力はイマイチだけど、とりあえず基本はできたね。あとは出力を高めることと、コントロールをして用途を増やそう」


「光の魔力ってどんなことに使えるんですか?」


「基本は他の魔力と同じだけど、とりあえずは魔法としての用途は、攻撃、防御、回復、身体能力の向上、そして固有の力だと思っていればいいかな?」


 防御と回復が魔法使えるようになれば戦闘はもっと楽になりそうだな。


 あとは固有の力か……


「あの、固有の力というのはさっき言ってた『創造の光』というやつですか?」


「君の場合はそうだね。『創造の光』が第二階層のアクセスキーになる。そして、発動させるには二つの条件がある」


「その条件って何ですか?」


「一つは一定レベルまで光の魔力を高めること。二つ目は『創造』の本質を理解し想いを高めること」


「光の魔力を高めることはできそうなんですけど、『創造』の本質というのがいまいち……」


 創造って何かを作り出すことだろうけどピンとこないな……


「これは英雄だった彼から聞いたことだけど『創造の本質は希望、希望とは望みを(こいねが)うこと』だそうだ。こればかりは君が答えを見つけるしかないね」


「望みを(こいねが)うですか……何かを作りだしたいと強く願うことなんでしょうけど、望みがわからないですね……」


 何のために何を作り出したいか。

 さらに漠然としてきたな……


「まぁ、君は在りたい姿というのは決めてるんだろ? それが基点になれば自ずと答えは見つかるんじゃないか?」


 在りたい姿。


 少しでも多くの人と魔族を多く助ける。


 そのために何を作り出すのか……


 今は神具(しんぐ)白創の剣(はくそうのけん)だよなぁ。


「答えは見つかりそうですけど、もう少し考えてみます。ところで光の魔力の出力なんですけど、もっと上げられそうな気がするんで見てもらっていいですか?」


「いいよ。どうするんだい?」


 リングの使い方には静と動の発動があることはこれまで学んできた。


 つまり今こそまた動の発動を試すべきだ。 


 ただそれには雰囲気を高めることが大切だと思う。


 少し離れたところにバッターボックスとホームベースを木の棒で描く。


「レイ! この四角い枠の中に立って。剣を構えてくれないか?」


「え……こうかい?」


「違う。俺に向かって構えるんじゃなくて、身体はボックス内の細長い線と平行に構えてくれ」


「よくわかんないけど、これでいい?」


「オーケー! ばっちりだ」


 これでバッターができたわけだ。


 そして約十八・五メートルほど離れて……


「じゃあ、マルスさん行きますね」


「これ何かの儀式かい?」


 動の魔力の使い方は下半身から力を連動させて、指先に力を集中させる。


 元野球部の俺としては一番慣れてるのは投球という動作というわけだ。


 死ぬほど投げ込んできたこの左腕より信用できるものはない。


 まずは先ほど同様に光の魔力を開放し魔法陣を発動させ、光の球を作り出す。


 ここから右足を上げて左の軸足に力をためる。


 そして右のお尻から体重を移動させ、右足を踏み出し、左の軸足から指先まで力をスムーズに伝える。


 左腕はしなり指先の光の球はどんどん大きくなる。


「うりゃあ!」


 放たれた光の球はレイの大きさを超えるほどに巨大になり、さらに大きくなる。


 あっ……


 このままだとレイが危ない!


「レイ! 避けろ!」


「もちろん、そのつもりさ!」


 レイが後方はギリギリで後方に回避する。


 巨大な光の剛球は木々を消し去り、物凄い勢いで空に消えていった。


「カズヤ! 僕を殺すつもりかい!」


「ごめんレイ! ここまで大きくなるとは思ってなかった。コントロールはできていたんだ」


「カズヤくん。そういう問題ではないよね」


 大切な妹を殺されかけたマルスさんも怒っている。


「すみません……」


 以前も似たようなことがあって反省していたはずなのにまたやってしまった……


「それはそれとして、その大きなフォームでは実践では使えないな。まぁ、高い出力を出す感覚を掴めたということは大きな前進だね。あとは動作を小さくしていくか、他の方法を探るべきだ」


 他の方法……


 メインとサブリングを使ってみるか……


 結局はサブリングが必要だったというわけだ。


「こっちも試行錯誤してしみます……」


 レイが顔を真っ赤にしてこちらにやってくる。


「あのさぁ……君は前にも同じようなことをしてアイビーの頭をかち割るところだったよね」


「本当にごめんなさい……」


「僕でなければ回避できなかったよ。ただ、この威力は凄いね。第二階層にアクセスしてたらと思うとゾッとするよ」


 光の剛球により木々が消し去られた後を見る。


「それでレイはこれからどうする? お前もカズヤくんと一緒に特訓するかい?」


「ごめん兄さん、ここからは僕は一人で集中したい。もちろん無茶はしないさ」


「お前がサボってたらクォーツ副会長に怒られるのは僕なんだからな?」


「何の成長も見せずに帰ったら、僕はだって会長と副会長にあわせる顔をがないからもちろん必死にやるさ。それに今はカズヤを信じてるからこそ一人になりたい」


 レイは真剣な表情でマルスさんを見つめる。


「――わかったよ。お前を信じる。どうせこの島は狭いからお前が何をしてるかなんていつでも感知はできるしな」


 確かに狭いけど無人島全体を把握するとかできるのか……


「じゃあカズヤくんは僕と一緒にたっぷりと鍛えようね」


 マルスさんが悪魔のような笑顔を浮かべる。


 

 この後は本当に本当に地獄のような特訓をうけた。


 こんな地獄があっていいのかと何度も泣いた。


 それでも死ぬ気で耐え抜いて八月も下旬に差し掛かかっていた。


 

 地獄のような特訓が続く中、そろそろ夏休みは終わる。


 はたして俺は『創造の光』を身につけ、第二階層にアクセスし、白創の剣(はくそうのけん)を自由に扱えるようになるのか。

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