四十三 神具
「痛て!」
目を覚ますとレイの足が俺を蹴っていた。
広くはないテントとはいえ、こいつの寝相は悪すぎだろ……
また蹴られたくないので、テントの外に出るとマルスさんが座ってお湯が沸くのを待っていた。
「おはようございます」
「おはよう。カズヤくん早いね?」
「えぇ……テントで寝たことがあまりないのでよく眠れなくて」
レイの寝相が悪いから出てきましたなんて、兄のマルスさんに言えるわけがない。
「この世界に来るまでどんな生活をしてきたのかわからないけれど、少なくとも野宿をする経験はあまりなかったようだね」
「あちらも平和だったので……」
一応は小学生の頃に家族でキャンプをしたくらいの経験はある。
でもキャンプ場と無人島は全然ちがうよな……
「そうか……僕はこの島に来る前はずっと旅をしてから野宿は当たり前だった。まぁ仲間がいたからそれも楽しかったけどね。コーヒーを飲むかい?」
「はい、いただきます」
インスタントではなくちゃんと豆から挽いているのか。
もしかしたらコーヒーに拘りがあるのかもしれない。
「はい、どうぞ。砂糖はいるかい? 悪いけどミルクはもってきてないんだ」
「いえ、ブラックで大丈夫です」
マルスさんが淹れてくれたコーヒーはとても美味しかった。
缶コーヒーかインスタントのものしか飲んだことがない俺でも違いがわかった。
「ところでカズヤくん。レイには神具についてはどこまで聞いているのかい?」
神具とは魂の力を具現化したものである。
レイが持つ黒壊の剣と俺の白創の剣が対になっている。
それぞれ付随の固有能力があり俺の場合はサブリングである。
具現化をするには魂の第二階層にアクセスする必要がある。
以上のことをレイから教わっているとマルスさんに伝えた。
「なるほど、二人の神具については基本的なことは聞いているようだね」
「二人のって、もしかして他にもあるんですか?」
「そうだよ。今のところ君たちのものを含めて四つのものが確認されている」
俺たち以外にも神具を扱うものがいるのか……
「まぁ、残りの二つは僕と父さんが持ってるからね。僕のものはレイとの対決のときにも見せてはいるだろ?」
レイとの対決のとき?
そういやマルスさんは「僕にはこいつがある」と腰に下げてる銀色の剣を見せてくれたな。
「僕の神具は『銀守の剣』この世界に安寧をもたらす『神の盾』とも呼ばれている」
「『神の盾』ですか……」
「これがあるから魔王の攻撃から島を守れた」
銀色の剣を見せてくれる。
でもちょっとまてよ。
いつもこの剣を腰から下げてないか?
「あのマルスさん。もしかして常時具現化してるんですか?」
「君たちみたいに複雑な能力ではないから燃費がいいからね。それにずっと使ってきたからもう身体の一部みたいなもんさ」
俺たちのものとは少し異なるのか。
それより気になっているのは……
「アドルさんの神具ってどんな能力を秘めているんですか?」
「うーん……それはね……」
「兄さん! 父さんの神具の能力は島のトップシークレットだろ。いくらカズヤでも許可なく話していいものではないだろう」
レイがテントから出てくる。
「もちろん然るべきときが来るまでは言わないさ。それよりお前はコーヒー飲むか? 砂糖は?」
「飲むよ。砂糖たっぷりで」
山盛りの砂糖をコーヒーに入れる。
こいつは本当にコーヒーを飲みたいのだろうか。
「ところで兄さん、カズヤに教えるべきなのは神具の具現化と発動方法だろ? あとは光魔法についてだ」
「お前が起きてきたらにしようと思ってたし、そろそろ教えようか」
コーヒーを飲み干し、カップを置く。
「神具の具現化方法はカズヤくんが知っての通り、魂の第二階層にアクセスする必要がある。レイとの対決では魂に黒壊の剣を突き刺して無理矢理こじ開けたけどな」
「正規のやり方があるんですか?」
「そうだよ。光の神具の場合は、固有の光の魔力が魂の第二階層の鍵となっている。君の場合は『創造の光』だ。そして白のリングに光の魔力を集中させれば第二階層にアクセスできる」
「僕の闇の神具は『破壊の闇』という闇魔力を使うから少し違うけどね」
レイが補足をする。
「とりあえず、まずは光の魔力を扱えないと白のリングを通じて取り出せないわけですね?」
「そういうことだ。だから具現化をするにはまず光の魔力を扱えるようにならなければいけない。発動方法は具現化ができてから教えよう」
とにかく夏休み中には神具の発動までたどり着かなれければいけない。
「まぁ、光の魔力の扱い方については朝食後にしようか」
このあとマルスさんがレモンサバサンドを作ってくれた。
レモンによってサバの臭みが消えてて美味しかった。
腹ごしらえも済んだのでいよいよ光の魔力の扱い方をマスターするための特訓が始まる。