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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第五章 八月 ここにあることの喜び
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四十一 夏合宿開始

 レイとの初対決の翌日、俺とレイはマルスさんに連れられてテイルロード島から六キロメートルほど離れた、カロカイ島という小さな無人島に来ていた。

 

 ここに来た目的は、八月の間、俺とレイを徹底的に鍛えるための合宿を行うためである。

 

 合宿といえば、こちらの世界に来る前に野球部に所属していた際には、ちょっとした旅行みたいで楽しみにしていたものだ。

 

 まぁ、練習は地獄のようなものではあったが……

 

 そういう経験があるので今回も大丈夫だろうという自信はあった。

 

「二人とも、昨日はお疲れ様。今日から夏休み期間、この合宿で徹底的に鍛えるからよろしく」

 

 マルスさんはいつも通り優しそうな顔をしているけど、信じてはいけないことはよく分かっている。

 

 というかこの無人島に来て一つ気になることがあった。

 

 周囲にはどこにも宿泊できるようなロッジがない……

 

「あの……一つ質問いいですか?」 

 

「なんだい? カズヤくん」

 

「俺たちはどこに泊まるんですか?」

 

「そりゃ野宿に決まってるじゃないか。そうでなければ無人島ではなく学園でやってるよ」

 

 何だかとても嫌な予感がする……

 

「あの……食事は?」

 

「最低限の水と食料と調理器具は持ってきてあるよ。本当は水と食料も現地調達してもらいたかったんだけど、そうやって追い詰めるのは今回の目的ではないからね」

 

 まぁ、夏だし水と食料さえあれば死にはしないだろう。


 ただ、「そうやって追い詰めるのは」という言葉が気になるが……

 

「懐かしいね。この島にはよく父さんに連れて来られたもんだ。あのときは水も食料も現地調達だったから兄さんはやけに甘いね」

 

 レイが木の実を摘み食いをしている。

 

「心配しなくてもいい。可愛い妹のためにすぐに鬼になってやるさ……」

 

 そう言い終えるやいなや、とてつもない殺気が身体を貫く。

 

 慌てて後方に退避すると、いつの間にかレイがマルスさんの剣から俺を守っていた。

 

「よく止めたなレイ。今のお前では止められないように動いたんだけど成長したのか? それとも……」

 

「カズヤが殺されると感じた瞬間、勝手に身体が動いていた……」

 

 どういうことだ?

 

「悪魔の魂はコントロールできていても、受け継いだ悪魔の記憶に行動が引っ張られてるようになっているか?」

 

「記憶に引っ張られてるって」

 

 かつて破壊の悪魔と呼ばれた女は、英雄との死闘の末、「英雄と普通の生活をしたい」と願った。

 

 その記憶をレイが受け継いでいることは知っているが……

 

「おそらく今のレイは君を殺せると認識したものに対して限界を越えた動きで守ろうしている。それも無意識に……」

 

「――違う……これは僕の想いによるものだ! 彼女の記憶に引っ張られたりなんかしていない」

 

「レイ……どちらにしても、今のお前はこの先本気でカズヤくんとぶつかり合いができるのか? 自分がカズヤくんを殺してしまうと感じたとき、彼を守ろうとして無意識にブレーキをかけるんじゃないか?」

 

「それは……」

 

 なんで言い返せないんだよ?

 

 まさか本当に……

 

「それとカズヤくん。僕が殺気を出したときすぐに逃げたよね? この程度の殺気で逃げているようでは完全覚醒した悪魔の力に立ち向かえないよ?」 

 

 白創の剣(はくそうのけん)を出したときは恐れずに立ち向かえていたが、あのときのレイはまだ不完全な覚醒ではあった。

 

「つまりこのレベルの殺気に慣れろということですか?」

 

「違うよ。殺気に立ち向かう闘争心を見せてほしいんだ。それがレイへの信頼にも繋がるし、今後君が強くなるために必要不可欠なものだ」

 

 確かに慣れてない殺気を放たれから逃げてるようではキリがない。

 

「とはいえ闇雲に殺気に立ち向かうのも愚かなことだからね。

まぁ、今のカズヤくんはそんなことを気にするレベルではないから問題はない。それとレイには今後のためにどれだけ自制心があるか証明してもらうぞ」

 

「兄さん、何をやろうとしてるつもりなんだい……」

 

 レイが冷や汗をかいている。

 

「何簡単なことさ。殺気を出しながらカズヤくんを理不尽に攻撃し続ける。それをお前が見ているだけさ」

 

「見ているだけ?」

 

「そう。カズヤくんがちゃんとした闘争心を見せるまで攻撃はやめない。もちろん死なないように適度に回復はしてあげるけどね。ただし、お前がカズヤくんを守ったりアドバイスをしたりすることは禁止する。もちろんカズヤくんから目をそらすことも駄目だ」

 

「マルスさん、レイを追い詰めすぎて絶望させると昨日みたいに覚醒がしてしまうんじゃ……」


 悪魔の力の根源はどうしようもない状況における絶望だ。


 それにレイが絶望的な状況に遭遇すればするほど覚醒しやすくなると俺に教えてくれたじゃないか。


「そのリスクは当然ある。でも、それなら尚更レイには絶望的な状況下で自分を制御できるのか証明してもらわなければ、学園に通わせることはできないんだよ」


「もし……レイが制御できなかったら、それこそ孤立させて絶望させるだけじゃないですか!」


「――カズヤ。兄さんの言うとおりだ。身体が無意識に動いている以上、絶望的な状況下で本当にコントロールできるのかはちゃんと証明しないといけない。それに今回は君が魔力を供給してくれているから大丈夫」


 レイは笑顔で右手のペアリングを見せる。



 合宿初日でいきなり俺たちの今後を左右する戦いが始まる。


 そして二人の物語はここから新たなステージへと突入した。

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