四 昼下がりの暴走
アスさんからもらった割引券の裏に地図が描いてあったのでレストランには迷わずつくことができた。
これまでのレトロ調な建物とは異なり明るい木目調の外壁で暖かみを感じられる。
店に入り席に案内されるとさっそくメニューを見た。
パスタが色んな種類あるな。とりあえず無難にオススメ海鮮パスタにするか……
「俺は決まったぞ。レイはどうする?」
「え、全部頼むよ?」
は?
全部?
「お前全部食えるんだろうな……」
レイは自信満々に、
「当たり前じゃないか! 残すなんてそんな失礼なことするわけないだろ! それに初めての店をリサーチするのは面白そうだと言ったじゃないか」
と答える。
そりゃあ言ったけどさぁ……
まさか全メニュー頼むとは予想できないだろ……
そんなことを口にだせるわけもなく……
「わかったよ……すみません注文お願いします!」
店員が注文を取りに来る。
オススメ海鮮パスタを注文したあと、レイが店のメニューを全部注文すると、当然店員は唖然としていた。
しばらくすると二人分のオススメ海鮮パスタがきた。
この世界の海鮮パスタはどんなもんだろうと思ったけど見た目は案外普通だ。
でもこのイカはなんか美味いな。
「海鮮パスタに入っていたテンタクルス美味しかったね」
レイの皿はいつの間にか空になっていた。
テンタクルスが何か聞きたかったけど、レイの食べるスピードに比べたら些細なことなのでやめた。
その後、レイは驚異的なスピードで皿を空にしていった。
ふと、外を見るとオークの少女が紙袋を抱えて歩いている。
お使いか。偉いなぁ。
すると、後ろから若い男が少女にぶつかり紙袋をひったくって逃げていった。
「レイ! サイフはここに置いていくから支払いを頼む!」
「え? 僕はまだ食べてるんだけど!」
積み重なった皿の間から困惑した顔で答える。
「店員さん、すいません! 支払はあっちの女性がしますのでよろしくおねがいします!」
突然のことに驚く店員をしりめに店を飛び出し、ひったくり犯を追いかける。
高校の野球部で鍛えられた脚力を舐めるなよ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
逃走する男を追いかけるがかなり差があったのでなかなか追いつかない。
せめて一瞬でもひるませることができれば……
そういやさっき買った魔録球があったな
ホルダーから魔録球を取り出し、ステップを踏んで、下半身の力を左手の指先に伝えたとき、薬指の白いリング模様が光る。
すると身体がこれまでにないくらい軽く感じた。
「うりゃあ!」
放たれた球はうねりを上げて一直線にむかっていく。
あれ? なんかいつもより速すぎないか?
五十メートルほど距離があったが、球はあっという間に男の後頭部に辿り着こうとしている。
やばい! 危ない!
後頭部に当たる直前、黒い影がいきなり現れて球を掴みとる。
そして、もう片方の手でひったくり犯を魔法で拘束したあと、紙袋をキャッチする。
「僕に支払いを任せて出ていったと思ったら、ひったくり犯の頭を魔録球でかち割ろうとしている。これはどういうことだい?」
顔は笑っているが額に青筋が立っていて、明らかにキレている。
「いや……俺はオークの少女から紙袋をひったくった男を捕まえようと……」
「オークの少女とは彼女のことかい?」
風でできた球体に包まれたオークの少女がこちらに着き、レイの側に降ろされる。
「食事中に置いてかれたことの文句はあと聞いてもらおう。それより君がこんな球をあの速度で人に向かって投げたら死ぬかもしれないということがわかってなかったようだね……」
「確かに危ないとは思ったけどひるませるつもりで当てるつもりはなかったし……」
「でも、現実は僕が受け止めなかったらこの男の後頭部に直撃していたわけだ」
「……本当にごめん……」
レイの言うとおりだ。
ヒーロー気取りで人を殺してしまうかもしれなかったのに言い訳なんてしてはいけない……
「はぁ……僕が君の力について教えてなかったことに落ち度があるから今回は許すけど、あまり無茶はしないでくれよ……それでこの男はどうするの?」
さて、この男をどうしようか……