三十八 破壊の悪魔
「まずは黒壊の剣を出すね」
レイの右手にある黒のリングが紫色に強く光る。
髪と瞳が紅く染まる。
そして胸の中から漆黒の剣を取り出す。
「この黒壊の剣の力を開放させて本当の悪魔の力を君に見せる」
剣を地面に突き刺し、柄頭の上に両手を重ねる。
目をつぶり一呼吸をすると、黒のリングから禍々しい紫の光が大量に漏れ出す。
「いくよ!」
目を見開くと紫の光は拡散する。
そして俺の眼前に、漆黒の二本の角と羽を持ち、禍々しい紫の光で覆われているレイがいた。
「これが本当の悪魔の姿……」
「まだ完全体ではないけどね。さぁ、構えなよ。破壊の悪魔の力で絶望させてあげる」
剣を構え、赤のサブリングに全てのリングの力を集中させ、至近距離から全力の光炎を放つ。
いくらなんでも身長を遥かに超える光炎を至近距離で浴びせ続ければ……
しかし、左手で簡単に止められゆっくりと押し返えされる。
「この程度でなら剣で受け止める必要もない」
右手にある黒壊の剣を振るうと光炎を高さをゆうに超える紫色の剣圧が俺の横を通り過ぎる。
剣圧だけでこれかよ……
そしてレイが目の前に立つ。
「考えている余裕はないよ。まずは『物質の破壊』からだ。君を守るその剣を破壊しよう」
紫の光に包まれたレイの剣が俺の剣に当たると、剣身にヒビが入る。
まずい折れる。
そのとき、白のリングが光り、剣身を修復する。
「一体これは?」
自分で白のリングを発動させたわけではないのに……
「流石は兄さんの『聖流の剣』だ。そう簡単には折らせてくれないようだね」
とにかくこの剣ならレイに対抗できるようだ。
「でも剣があっても力がなければ意味がない。次は『力の破壊』だ」
レイが纏う紫の光が鎖となり俺を拘束する。
さらに、どす黒い光が流し込まれ身体から力が抜けていく。
「僕が練り上げた特殊な魔力は筋力と魔力を奪う。もちろん、死なないように生命維持に必要な筋力は奪ってないよ」
力を奪われ膝から倒れ込む。
「はぁはぁ……今日の日のためにこれまで積み重ねてきたんだ。ここで終わらねぇぞ!」
「そう……積み重ねがあるから力がなくても希望を見いだせる。だから、その積み重ね、すなわち『記憶の破壊』をするんだ……」
レイは悲しそうな顔をして俺の頭に手を乗せる。
「まさか……本当に記憶を消すんじゃ……やめろ!」
頭の中に先程のどす黒い魔力が流される。
これまでの思い出が破壊されていく……
「ごめんね……」
俺は誰だ?
なぜこの悪魔のような少女はなぜ俺に謝る?
ここはどこなんだ?
「なぁ、お前は誰だ? 苦しそうだぞ?」
少女は呼吸を荒くしている。
「――大丈夫、最後は『繋がりの破壊』だよ……黒い光が君を外界から完全に隔離して永遠に孤立させる」
少女が俺に手のひらを向けると黒い光が俺を包み込んでいく。
「おい! 何をする気だ! この化け物!いや、頼む! やめてくれ!」
「――僕が化け物……いや、覚悟を決めたんだ。やらなきゃ……僕がやるべきことなんだ! うっ!」
突然膝をつき苦しみ始める。
「う……うわぁ……何で? 何で? まだコントロールできるはずなんだ。父さんの血が僕を……」
少女が纏う紫色の光が暴走し始める。
「待ってくれ……まだやりたいことがあるんだ!」
少女は頭を抱えて震えだす。
「レイ! まずい……悪魔の力が暴走している。このままでは破壊の悪魔が完全に覚醒するぞ!」
知らない男性が現れひどく慌てている。
「マルス! 悪魔の魂の完全覚醒はまだ先だったはずなのではないのですか?」
今度は知らない女性が駆けつけてくる。
「レイ様! お気を確かに!」
金髪の少女も駆け寄ってくる。
というか少女の名前はレイというのか。
「カズヤ! お前もボケっとしてないでレイ様に呼びかけろ。お前は何のためにここに来たんだ!」
「何のためって……記憶がねぇよ……」
とりあえずこのオークの言葉から、俺はカズヤという名前で、レイという少女は俺のために何かしようとしてたのか?
「記憶がなくてもお前はお前だろ? レイ様を見てどうしたい?」
どうって……
あまりに突然の出来事に俺は混乱していた。
苦しみ悶えるレイと呼ばれる少女。
こいつは俺から光は奪い孤立させようとした。
俺を絶望させようとした敵なのに何をすればいい?
でも「まだやりたいことがあると」と泣いて苦しんでいる。
そんなレイの姿を見て、心の奥で何かが開こうとしてた。




