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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第四章 七月 共に生きるための涙
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三十七 孤高の力

 七月の末日、ついにレイとの初対決の日がきた。


 窓を開けると空は灰色の雲に覆われている。

 今日は雨が降りそうだな……


 セイレーン先輩との戦いでレイと一緒に戦ったが、魔法なしで本気ではなかった。


 ただ、あの決戦で一度だけレイは力を開放しそうになったがとてもおぞましいものを感じた。


 あれを俺にぶつけてくるのか……


 左手を白いリング模様を見つめる。


 全てのサブリングは揃った。

 これまで死ぬ気で鍛えてきた。


 やれることはやったんだ。


 そう自分に言い聞かせて奮い立たせる。


「カズヤ、起きてなよ!」


 いつもはアイビーなのだが、珍しくレイが呼びにくる。


 ドアを開けるとレイが穏やかな表情で立っている。


「いよいよだね……」


「そうだな」


「朝ご飯はちゃんと食べなよ?」


「お前ほどではないけどしっかり食べるよ」


 朝食を食べた後、二人で魔法学園に向かった。


 理事長室の扉を開けると、理事長のフレイアさんはもちろん、ケブもスカーレットもマルスさんも、セイレーン先輩もすでに来ていた。


「みなさん、おはようございます。お待たせしてすみません」


「いや、君たちはもっとゆっくりしててもよかったんだよ。それより、カズヤくんにこれを渡しておく」


 マルスさんが一本の剣を手渡す。


「この剣は?」


「この剣は『聖流(せいりゅう)の剣』、僕がかつて使っていた剣だ。この剣ならばレイの黒壊の剣(こっかいのけん)に折られることはないだろう」


 いつも使っている剣より軽くてしっくりとくる。


 剣には詳しくない俺でもとても高価なものなのはわかる。


「ありがとうございます。マルスさん」


「それでは、二人とも少し早いですが準備はいいですか?」


 フレイアさんは俺とレイに問う。


「僕はいつでもいいよ」


「ちょっとまってください」


 ケブとスカーレットの元に行く。


「二人ともの今日まで本当にありがとう。二人と出会えてよかった」


 二人に礼をする。


「何を言ってんだカズヤ、この戦いは通過点だろ?」


「まるで今日でお別れみたいなこと言うのは縁起が悪いですわ」


 二人は呆れ顔でいう。


「もちろん、今日の戦いは通過点にすぎない。でも今日という日が俺とレイにとって一つの区切りになる。だから戦う前にちゃんとお礼は言っておきたかったんだ」


 そうだ。

 二人がいたから今日までこれたんだ。


「じゃあカズヤ、もう大丈夫かい?」


「あぁ、行こう」


 時計の針が予定の時刻を指す。


「それでは、時の狭間の入口を出します」


 フレイアさんが赤色の本に魔力を込めると、本が光だし、扉が現れる。


「セイレーン、帰りは頼むわね」


 フレイアさんが赤色の本をセイレーン先輩に手渡す。


「わかりました。みなさん、どうかお気をつけて……」


「大丈夫、私とマルスが守るわ。では、みなさん、参りましょう」


 フレイアさんに続き、俺たちは扉をくぐった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 扉の先には、青と黒のマーブル模様がグニャグニャと揺らめく空間が広がる。


「さて、打ち合わせ通り母さんにはケブくんとスカーレットさんを防壁で守ってもらうね。母さん頼むよ」


「わかったわ」


 フレイアが二人の前に立ち、ドーム状の防壁を張る。


「マルスさんは防壁を張らなくていいんですか?」


「万が一なにかあったらあったらレイをすぐに止めないいけないからね。それに僕にはこいつがある」


 腰に下げている銀色の剣に手を置く。


「そうだカズヤ、ペアリングはお互いに外しておこう。もう君はもう僕の魔法を借りなくても四属性の魔法は人並みに使えるし、僕に供給している魔力は戦いに使った方がいい」


 俺たちは中指のペアリングを外し、マルスさんに預ける。


「じゃあ始めようか。以前、君に力の使い方を教えたときに君と僕の神具(しんぐ)にはそれぞれ付随の固有能力があると言ったよね?」


「俺の場合はサブリングだな」


「まずは僕の固有能力を紹介するよ」


 レイが右手の薬指にある黒のリングが紫色に鈍く光る。

 

 すると、薬指以外の指にそれぞれ異なる黒いリング模様が浮かび上がる。


「こいつは『ロフティネスリング(孤高の指輪)』といってね。君のサブリングと違って単独の発動しかできない。けれど四種のリングそれぞれが孤高の強さを持っている。それじゃあいくよ!」 


 とりあえずメインとサブの全てのリングを発動させて備える。


「まずは『冷厳の黒炎(れいげんのこくえん)』からだ!」 


 レイの右小指のリングが赤く光る。


 右手を上にかざし黒い炎で巨大な球体を作り、こちらに投げつける。


「最大出力の光炎の刃で一刀両断してやる!」 

  

 全てのリングの力を赤のサブリングに集中させ、剣に光炎を纏わせる。


 すると、天まで届きそうな光炎の刃が現れる。


 やはり全てのサブリングを揃えた光炎の出力は以前の数倍はある。


 これならあの程度の黒炎の球を一刀両断どころかかき消せる!


「甘いよ。この炎は全てを無情に食らい尽くす。」


 巨大な光炎の刃と黒炎の球が衝突したとき、光炎の刃は吸収され、黒炎の球をさらに巨大になりこちらに向かってくる。


「くそ!」


 緑のサブリングを発動させ、風翼を出し、空中に退避する。


「次いくよ! 『万障の狂嵐ばんしょうのきょうらん』だ。雷、岩、氷……あらゆる障害を含んだ嵐が君の行く手を阻む」


 レイの右人差し指のリングが暗緑色に光り、雷が鳴り、岩や氷が舞う巨大な竜巻が前報に出現する。


「こんなの大災害だろ……」


 これに飲み込まれた即死だ。


 全力で後方に逃げ着陸すると、レイが目の前で待ち構えていた。


「逃さないよ。『淘汰の渇水(とうたのかっすい)』…… これは弱者を干上がらせる選別の力だ」


 右腕をつかまれるとレイの右中指のリングが紺色に光り、右腕はミイラのように干からびていく。


「うわぁ! 離せ!」


 慌てて剣を振り回すと、レイは軽やかにかわし、


 すぐに青のサブリングを発動し、癒やしの輝く雨を降らせ、右腕を元に戻す。


「次が最後だ。これは全力で避けてね。『離別の星石(りべつのほしいし)』、全ての繋がりを消し去る天から巨石だ。これはセーブをしないと僕も危険だから、手加減しておくね」


 レイが右手を上げると右親指のリングが金色に光り、上空に魔法陣が浮かび、炎を纏った巨石が落ちてくる。


 忠告通り、すぐに風翼を出して空中に退避し、黄のサブリングを発動させダイヤモンドの盾も出して備える。


 しかし、巨石が地面にぶつかると大爆発が起き、その余波で盾ごと吹き飛ぶされてしまった。


「みんなは?」


 随分遠くまで吹き飛場されてしまったのか、みんなの姿が見えない。


「大丈夫。みんなは無事だよ。母さんと兄さんが守っているからこの程度で傷なんてつかない」


 レイがこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。


「これが悪魔の力か……」


「いや前座だよ。ここからが黒壊の剣(こっかいのけん)、すなわち悪魔の力を開放させる。これまでみたいド派手なショーと違って本当の破壊の力さ」


 ついに始まったレイとの初めての直接対決。


 いよいよ本当の悪魔の力が開放される……

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