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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第四章 七月 共に生きるための涙
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三十一 歌姫姉妹からの招待

 実技試験から二日後の放課後、掲示板に上位成績十名の名前が張り出されていた。

 

 一位は全教科満点でレイとスカーレット、二位は二点差でアネモイ、三位は三点差でローレライとハイレベルな接戦となっている。

 

 それ以降は結構な差がついているがティタンも六位にいるし、やはり二年生選抜チームの面子は勉強もできるのだろう。

 

 そして俺は四十五人中の十九位と赤点を気にしていた割には健闘した方だなと思った。

 

「残念だったな……」

 

 ケブが気を遣ってくれる。

 

「いや赤点を回避することが目的だったから気にはしてないさ。レイと選抜チームのみんながどれだけのものか気になっただけだし」

 

「でもカズヤは魔法演習の実技試験で満点だったらしいじゃないか? 今回は三人の満点が出たって噂になってるぞ」

 

 レイとスカーレットも満点か。

 二人はどんな魔法を見せたんだろう。

 

「ありがとう。それでお前はどうなんだケブ?」

 

「二十位だったから真ん中より少しいいくらいだ」

 

「俺は十九位だし似たようなもんだな。お互いあのコンディションの中でよくやったと思うよ。さぁ帰ろうぜ」

 

 掲示板に背を向けて歩きだす。

 

「なぁカズヤ、少しだけ話さないか?」

 

 ケブが俺を呼び止める。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 中庭のベンチに二人で腰掛ける。

 二メートルもあるケブには少し窮屈そうだ。

 

「話ってなんだ?」

 

「レイ様から水のサブリングについて聞いたぞ。そしてお前が実技試験の後に言っていたことも」

 

 そうか、レイはケブに話していたか。

 おそらくスカーレットにも……

  

「その……悪かったな……」

 

「何がだ」

 

 ケブは険しい表情で前を向いている。

 

「お前やスカーレット、そしてレイを信じきれなくて一人でなんとかしようとしてたこと……」

 

「――本当なら怒るところなんだろうけど、今の俺にはその資格すらない。レイ様と特訓して改めて自分は図体がデカいだけのオークと思い知らされたよ。お前が焦るのも仕方ないと思う」

 

 視線を落とし力のない声で呟く。

 

「あんな化け物を前にしたら無力なのはお互い様だ。それでも俺たちには夢があるから強くなるしかないんだろ?」

 

「そうだな。お前とレイ様が目指す未来の守った先に、俺が英雄になれる道があると信じて頑張るよ」

 

 ケブの表情はとても穏やかになっていた。

 

「やっぱり僕の言うとおり信じるべきだっただろ?」

 

 レイがいきなりベンチの後ろから話しかける。

 

「お前、いつからそこに……それにスカーレットまで」

 

「カズヤ。私は心が広いから許しますけど……レイ様を悲しませるようなことしたら次は許しませんわよ?」

 

 スカーレットは腕を組みながら笑顔で俺を脅してくる。

 とても令嬢がするポーズには見えない。

 

「ははは……肝に銘じておくよ……」

 

 そんなやり取りをしていると、向こうから青髪の少女が駆け寄ってきた。

 

「こんなところにいたのね。スカーレットちゃんとカズヤ、探したわよ」

 

「そんなに慌ててどうしましたの? ローレライ?」

 

 ローレライ・ワルツ。

 二年生選抜チームで一緒に三年生と戦った仲間の一人だ。

 

 そしてローレライの姉は、『永遠の生徒会』会計のセイレーン・ワルツ。

 水魔法のスペシャリストであり、さらに音を操る特殊能力をもっている。

 この学園全ての生徒の中で四番手の強さを誇る猛者だ。

 

「あのね……選抜チームの話をお姉ちゃんにしたらぜひ会ってみたいから、ワルツ家に招待しましょうということになって……」

 

 やはりきたか。

 

 水のサブリングを発動させる試練はやはり今月にくるんだな……

 

「あれ? みんな怖い顔をしてどうしたの?」

 

 ローレライが不思議そうな顔をしている。

 

「いやぁ、あのローレライ先輩がカズヤとスカーレットを家に招待するなんて意外過ぎて驚いているんだよ。同じ生徒会メンバーの僕でも招待されたことがないしね」

 

「そ、そうですわ……私はあの試合でセイレーン先輩に評価していただけることなんてしていませんし……」

 

 レイとスカーレットがその場を取り繕う。

 

「そんなことないよぉ! スカーレットちゃんはあのアルラウネ先輩に勝ったらしいじゃん。私はその前に気絶しちゃったけど……」

 

 ローレライが少しいじける。

 

「僕は直接見てないけど君も大活躍だったとカズヤから聞いているよ。それはそうと、僕とケブも二人と一緒にお邪魔したら駄目かな?」

 

「レイ様に褒めていただけるなんて光栄です! レイ様なら姉が断る理由はないと思います。しかし、そちらのケブという方は……」

 

「ケブは僕の大切な友人であり愛弟子なんだ。それに歌姫とも呼ばれる君とお姉さんの隠れファンなんだ。だから何とか頼むよ」

 

「え? レイ様?」

 

 ケブがレイの方を見て困惑する。

 

 友人というだけで十分だろうに……

 

「姉はともかく私が歌姫だなんて……レイ様がそこまでおっしゃるのなら姉も断われないでしょう。それではいつ頃いらっしゃいますか?」

 

「そうだね…… 明日の放課後なんてどうかな? ちょうど生徒会の仕事も片付いているんだ。みんなはどうだい?」

 

「もちろんレイ様のスケジュールに合わせますわ」

 

「俺もどちらにせよ、レイ様に特訓してもらうつもりだったし……」

 

 二人ともなに即答してるんだ……

 

「それでカズヤは明日では都合が悪いかな?」

 

 断われない雰囲気にしやがって……

 どうせウジウジと考える余裕を与えないつもりだろう。

 

「明日で構わない……」

 

「それじゃあ、明日でよろしくたのむよ。ローレライ」

 

「わかりました。姉に相談して決まりましたら皆さんのデバイスに待ちあわせの場所などをお伝えしますね」

 

「うん、ありがとう」

 

 こうして、俺たちは歌姫姉妹の家に招待された。

 

 夕方になると腕輪型のデバイスに明日の待ちあわせの場所と時間が通知され、正式にワルツ姉妹の家に行くことになった。

 

 最後のサブリングである、水のサブリング。

 それを発動させるにはどんな試練が待ち受けているのだろうか。

 

 試練について分かっていることは自分一人の力だけではサブリングが応えてくれないことだけだ。

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