三十 実技試験
期末テスト二日目。
セイレーン先輩の件が不安で早く起きてしまった。
『永遠の生徒会』の四番手という大物が早くも接触してくるなんて、英雄の宿命は俺の成長スピードに不満なのだろうか
……
とにかく、今日の実技試験に集中しなければいけない。
その後にまた鍛え直そう。
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まずは一限目のコミュニケーションの実技試験だ。
この科目はリーディング、ライティング、スピーキングの三つが中心になる。
今回の実技試験はこれらの応用として、あらかじめ伝えられていた課題を元に資料を作成し、十五分間のプレゼンテーションを行うというものである。
課題は一ヶ月前から伝えられていたので、資料はスカーレットに助言をもらいながら資料は先月すでに作っていた。
あとは授業で教わった通り、時間内にプレゼンテーションを行えばいいので、緊張さえしなければ問題はない。
とは言ってもやはり本番は結構緊張した。
それでも事前にしっかり準備をしていたので、少し噛んだこと以外にはミスもなく、無事に時間内に終えることができた。
次は体術の授業の実技試験だ。
これはもともと先生から筋がいいと褒められており、日々の訓練をしていたので、難なくこなすことができた。
そして、昼休みを挟んで最後の実技試験、魔法演習の時間がきた。
この科目の試験は魔法の出力とコントロールを見せるものだ。
試験会場の室内訓練場に呼ばれると、担当の先生が待っていた。
「カズヤ・ヴァンくん、これから魔法演習の実技試験を行う。君に見せてほしいのは魔法の『出力』と『コントロール』だ。必要であれば詠唱や魔法陣も使用しても良いが、魔法の難易度によっては減点となる」
「わかりました」
「それでは、向こうにある六つの的を破壊してくれたまえ。何か質問はあるかな?」
「魔法の属性は二つ使っても大丈夫ですか?」
先生が怪訝な表情を浮かべる。
「構わんが、撃てる魔法は一種類だけだぞ?」
「わかっています。かけ合わせを試して見たいんです」
一つの属性だけでは魔法の威力やレパートリー限界がある。
それならば二つの属性をかけ合わせて新たな可能性が見つかるかもしれない。
「それではカズヤ・ヴァン、いきます!」
まずは白のリングと緑のサブリングを発動させ風翼を出す。
「ほぉ……緑光の風翼か」
「次はこれに炎をかけ合わせます」
次に赤のサブリングを発動させる。
風翼に光炎が纏い、赤く輝く翼となる。
「ここから出力を上げます!」
さらに黄のサブリングを発動させ、その力を赤と緑のサブリングに流しそれぞれの出力をあげる。
そして光炎翼を六枚に増やす。
「では、的を破壊してもらおうおうか」
六枚の光炎翼の先に魔力を集中させる。
すると、それぞれの翼に炎の竜巻が生じる。
「燃えろ!」
同時に放たれる六つの炎の竜巻は、六枚の的を消し炭にする。
「そこまで! 素晴らしい。ここまでの出力とコントロールをできるものは三年生のクラウンか生徒会メンバーだけだろう」
そうか……
やはりこの程度ではクラウン先輩すら越えられないか……
「どうかしたか?」
「いえ、そのような素晴らしい評価をいただけるとは思っていなかってので……これからも精進します。ありがとうございました」
一礼をして、室内訓練場を後にする。
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廊下ではレイが待っていた。
「お前は試験が終わったのか」
「うん。終わったよ」
「そうか、じゃあな……」
「待ちなよ!」
レイが肩をつかみ呼び止める。
「今日はもう試験が終わったから帰ってもいいはずだ。俺はこれから鍛錬をする。離してくれ……」
今のままではレイどころかセイレーン先輩の足元にも及ばない。
けれど時間はもうない。
少しでも強くなる方法を探らなければ……
「――今の君は焦り過ぎていて危うい。放っておけないよ」
「いつセイレーン先輩と戦うか分かんねぇんだぞ? それこそ今日かもしれない……」
そうだ。
セイレーン先輩は「近いうちにお会いましょう」と言った。
近いうちとはいつとは分からないのだ……
「だからといって、今の君では先輩の水魔法には太刀打ちできないことはわかってるんだろ? それに先輩には音を操る特殊能力があって、これは魔法を発動させることを阻止できるだけでなく、人の感情を操ることもできるんだ」
「そんな化け物ならなおさら休んでなんかいられないだろ。魔法が駄目なら剣の腕を磨いて倒す。感情を操るなら精神力を鍛えて乗り越える」
「ハッキリいっておこう。そんな付け焼き刃でセイレーン先輩は倒せない。というか水のサブリングを覚醒させるだけなら君がセイレーン先輩を倒す必要もないだろ」
そうはいっても、水のサブリングの発動トリガーが何か分からない以上、それをあてにできない。
「水のサブリングが発動できなかったらどうする?」
「僕と君の仲間が発動させるさ。今までも君は仲間のために戦ってサブリングを発動させてきた。僕らが身体を張って耐えれば必ずチャンスはあるはずだよ」
確かにセイレーン先輩より格上のレイが守ってくれれば、ケブもスカーレットも安全だし、発動のチャンスを待つことができる。
でも、そんなのでその後にレイと戦える強さを得られるのか?
「だめだ。やはり今回はケブやスカーレットは巻き込めない。生徒会メンバーは次元が違う……それに今俺が一人でセイレーン先輩を倒せなければ、より格上のお前に挑んでも死ぬだけだ……」
そのとき、レイに頬を平手打ちされて吹き飛び壁にぶつかる。
「痛っえなぁ……何するんだ!」
「――僕が君を焦らせて追い込んでしまったことは謝る。でも、一人で戦ってどうやって水のサブリングを発動させるのさ? それに君はケブとスカーレットがどんな覚悟で君と僕に付き合うと決意したのか忘れたのかい!」
「それは……」
「確かにセイレーン先輩が本気を出してくるなら二人を巻き込むのは危険だ……それでも、二人は命と夢を、僕らの未来に賭けてくれたんだ。それを信じてやりなよ……」
レイは涙を目に浮かべ訴えかけてくる。
そうだった。俺たちの未来はもう二人だけのものではない。
ケブの、スカーレットの夢でもあるんだ。
「ごめん……悪かった」
「セイレーン先輩が何を企んでいるのか分からない。でも本気で君と仲間を潰しにくるようなら、『永遠の生徒会」三番手の僕が容赦はしない。――だから一人で背負わず僕を信じて……」
レイはしゃがみ込んで俺を抱きしめる。
こいつだって近いうちに戦う敵なのに……
温もりで恐怖が薄らいでいく……
「ありがとう……お前は敵である以上に大切な……仲間なんだよな。けど、お前が本当の力を発動させるのは俺と戦うときだ。みんなで水のサブリングを発動させる。それでいいよな?」
「うん……約束する」
「じゃあ、試験も終わったし帰るか」
「お腹も空いたしね」
俺にはまだまだ力が足りないし、経験も足りない。
予想外の困難が起きる怖さもある。
そんな中でも信じたい人たちがいることに感謝をしなけれぱいけないと思った。




