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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第一章 三月・四月 旅立ちの火
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三 フォーン通り

 レイに案内され、山頂にあるクレスター邸から三十分ほど歩くと、水道沿いにある商店街にたどり着いた。

 

「ここはフォーン通り。一・二キロくらい続く商店街だよ。島ではここで一通りのものは手に入るかな」

 

 建物は西洋風だが、アーチ状の屋根がついており日本の商店街に似ている。石畳みの道幅は十メートルほどはあり、ゆったりと歩けそうだ。


 もしかしてこの世界は俺が思ってる以上に発展してないか?

 

 自分がイメージしていた異世界とは異なり少し困惑する。


 今日は休日ということもあり、多くの買い物客が来ていた。人間だけではなくオークやゴブリン、ミノタウロス、ハーピィなどもいる。

 

「人間と魔族が仲良く共存してるんだな……」

 

「そうだね。二十年前に人と魔族との争い終結してから共存の道が世界各地で模索されたけど、ここまで共存できているのはこの島くらいだ……まぁここもまだまだ問題はあるけど……」

 

「でも殺し合いをしてた奴らがここまで共存できるのはすげぇよ。そういやフレイアさんの屋敷には魔族はいなかったな?」

 

「今日はたまたまお休みだったんだ。まぁ君が住むことになったから母さんは若い男の使用人を雇おうかなとも言ってたけど……」

 

「そんな気を使わなくてもいいのに……むしろここまで援助してもらって申し訳ないからこちらが働かないといけないくらいだろ……」

 

 むこうの事情で連れて来られたからといはいえ、自分は恵まれ過ぎてるような気がした。

 

 そして、フレイアさんに貰ったサイフの中を見るとはいくらかわからないけど、結構なお札が入っていた。

 これから居候をさせてもらうんだから最低限でいいのに……

 

「やっぱり君は真面目だねぇ……こっちの事情で誘拐したようなもんなんだから慰謝料としてはこんなの少ないくらいだよ」

 

 レイは呆れた顔をして言う。

 

「うーん……で、これからどこに行くんだ?」

 

「とりあえず、お昼までまだ時間があるから君が興味のあるとこでいいよ」

 

「それなら本屋と雑貨屋がいいかな。学園に入る前に初心者向けの魔法教本とか歴史書とかほしいし。それと魔法がある世界の雑貨屋なんてワクワクするだろ?」

 

「学園に入ったら僕がフォローするつもりなのに君は……まぁ雑貨屋には僕も用があるからそっちはいいけど」

 

 

 

 少し歩くと本屋に着いた。

 二階建の古そうな建物だ。

 

「レイ、魔法教本と歴史書ってどれがオススメなんだ?」

 

「どれって……僕は幼い頃から母さんに直接教わってたから学園でやる内容なんて九歳で全て習得してたしなぁ……」

 

 冬月(とうげつ)の顔でこんなことを言われると凹む。

 俺が戦わないといけない宿命の相手はとんでもない化物だった。

 

 とりあえず『子ども向け魔法教本』と『一から学ぶテイルロード島の歴史』を購入した。

 

 そういえばあまり気にしていてなかったが、なぜ異世界の言葉を理解できて文字を読めるのだろうか。

 

「なぁ、俺はこの世界の言葉や文字を勉強したことがないのに理解できるんだけど……」

 

「そりゃあ、君は英雄の魂が解放されたからねその影響だろう。僕は君を迎えに行くから翻訳機付きの次元移動装置を父さんからもらってたけどね」

 

 なるほど、前世の英雄の魂が解放されたことで無意識にこちらの言葉を理解し、文字を読めるようになっていたのか。

 

 左手の白いリング模様を見ながら、異世界転移してきた前世の英雄は苦労したんだろうなぁと思った。

 

 というか……

 

「さらっと次元移動装置とか言ったけどそれで俺は元の世界に戻れないのか?」

 

「無理。この装置は父さんの能力でしかエネルギーを補充できないし、父さんはエネルギーを補充できるほど能力を今は使えない。それに前回と同じ座標を使って戻ると、転移する前の僕らと鉢合わせになるだろ? 」

 

「時間の座標だけずらせないのか?」

 

「この装置は任意に座標を刻むことはできないんだ。魂を感じ取りその座標を割り出し刻まれる仕組みなっている。だからこれまで迎えにいけなかったんだよ」

 

「へぇ……なんであの日に英雄の魂が漏れ出したんだろうな」

 

「それはこっちが聞きたいよ……さぁ、買うものも買ったし、雑貨屋に行くよ」

 

 

 

 しばらく歩くと雑貨屋に着いた。

 こちら建物は古いというよりあえてレトロな感じにしててオシャレだと思った。

 

 店内は生活雑貨もあるけど用途がよく分からないものも多々あった。

 この綺麗な四色の球とか何に使うのだろうか。

 

「やぁ、アスさん。頼んでたものはあった?」

 

 レイが三十代くらいの女性店員に話しかける。

 

「入荷したわよ。ウチじゃないとこんなもの手に入らないわ」

 

 店員はレイに小包を渡す。

 

「流石アスさん、ありがとう。それとこっちは母さんの従兄のカズヤ」

 

「カズヤ・ヴァンです」

 

「雑貨屋クレセント店主のアス・ゲンゲツよ。今後もよろしくね」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「しかし、あのフレイアさんに甥なんていたんだ。てっきりレイちゃんの彼氏かと思っちゃった」

 

「いやそんなことは……」

 

 俺が即否定しようとすると……

 

「そんなことは?」

 

 レイが鋭い目つきでこちらを見てくる。

 

 言葉に詰まっているとアスさんがレイをなだめるように言った。

 

「お二人がとても仲がいいことはわかったわ。それで今日の用事はこれだけ?」

 

「いや、カズヤが雑貨屋をみたいと言ったからもう少しいるよ」

 

「あらそう? じゃあ、ごゆっくり」

 

 色々物色したけど、どれもすぐに買おうとは思えなかった。

 それよりあの四色の球が気になる。

 

「レイ、この四色の球って何に使うんだ?」

 

「あぁ……これは魔録球だよ。地火風水それぞれ四属性の魔法を記録して再現できるんだ」

 

「すごい便利な道具だな」

 

「まぁ、再現できる魔法なんて大したことないし、こんなのに頼るのは魔法を使えない人だけだよ」

 

「いや、それでも今の俺にとっては魅力的だ。これを買うわ」

 

「一応言っておくけど、そんなオモチャに頼ってるようじゃ僕と勝負にならないからね……」

 

「そんなことわかってるよ。持ってて損はないだろ」

 

 こうして俺は魔録球を購入した。

 アスさんはオマケで持ち運び用のホルダーもつけてくれた。

 あと、新しくできたレストランの割引券もくれた。

 

「さて、俺のほしいものは買ったし。そろそろ昼ご飯でも食べにいくか?」

 

「そうだね。オススメの店はたくさん知ってるよ? 食べたいものがあったらなんでも言ってよ!」

 

 待ってましたと言わんばかりにレイは興奮している。

 

「いや。さっきアスさんのお店で新しくできたレストランの割引券を貰ったからここにしないか?」

 

「あのさぁ……女の子と昼ご飯を食べにいくのに割引券があるからという理由で決める?」

 

 レイは少し失望したような顔でこちらを見ている。

 

「いやいや! 新しくできたとこだから面白そうだろ?」

 

「はいはい、まぁ新しい店をリサーチするのも確かに面白いから、そこで我慢するよ……」

 

 こうして俺たちは昼ご飯を食べに新しくできたレストランに向かうことになった。

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