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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第四章 七月 共に生きるための涙
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二十九 期末テスト

 七月に入り、今月最初の試練である期末テストの日を迎えた。

 試験は、初日に筆記試験が五科目、二日目に実技試験が三科目行われる。

 

 二年生選抜チームに選ばれていたんだ。

 そんな俺が赤点なんてとったら馬鹿にされる……

 

 ということで、先月末から一週間ほど睡眠時間を削って勉強に励んできたわけだ。

 

 もちろんテストの前日も寝てはいない。

 

「あのさぁ……大丈夫かい?」

 

 レイが俺の顔を心配そうに覗き込む。

 

「一週間前程度の徹夜は経験してきた。それに完全に寝てないのは昨日だけだ」 

 

 前の世界にいたときはテスト前の徹夜なんて当たり前だった。

 赤点を取れば部活の練習に参加できなくなるのでそれはもう必死だった。

 

 ケブが教室に入ってきた。

 目にクマを作ってフラフラと歩いている。   

  

「おはようケブ。お前……大丈夫か?」

 

「おはようカズヤ。レイ様の特訓を受けたあとに徹夜で勉強しただけだから問題ない……そういうカズヤも酷い顔してるぞ?」

 

「お前に比べたらどうということはないさ。――というかテスト前までレイと特訓してたのかよ……」

 

「おいおい僕は無理に特訓させたわけじゃないよ? ケブがどうしてもやりたいというから……」

 

「だからってテスト前日までやるかよ……」

 

「だいたい君たちは普段から勉強してないから徹夜なんてするんだろ?」

 

 それを言われるととても辛い……

 

 でもこれまで全く勉強してなかったわけではない。

 役に立ちそうな科目しかやってこなかったんだ。  

 

「レイ様のおっしゃる通りですわ。普段から偏りなく勉強してれば慌てることなんてありませんもの」

 

 スカーレットが現れ、横から口を挟む。

 

「レイ様、おはようございます。今回のテストこそ負けませんからね」

 

「君はいつも詰めが甘いからね。今回は引き分けになるように期待してるよ」

 

「もちろんです。今回こそ全教科満点でレイ様と肩を並べてみせますわ!」

 

 赤点回避に必死な奴の前でする会話じゃねぇよ。

 この天才と秀才め……

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆  

 

 こうして期末テストは始まった。

 

 一限目の「魔法理論」、ニ限目の「魔法科学」、三限目の「古代言語」。これらは以前からスカーレットに教えてもらっていたので、ほぼ全ての問題を解くことができた。

 

 そしてここからが本当の勝負。

 徹夜の成果を見せるときがきた。

 

 四限目の「社会基礎」は、前の世界でいうところ政治経済の科目に相当する。

 世界が制度の細部は変わるので、暗記をし直すところが多く面倒だった。

 しかし予想外に簡単だったので七割くらいは解けた自信がある。

 

 そして、昼休みを挟み五眼目の「歴史(島史)」の時間になった。

 ケブ曰く、この科目の試験ではマニアックな問題が出題されるということなので、特に力を入れて勉強した。

 そのおかげでなんとか六割は解けた手応えがあった。

 

 初日の筆記試験が終わり、赤点を回避できそうなのでホッとしていると、なんだかとても凄く眠くなってきた。

 

 今日は晴れてるし中庭のベンチで少し仮眠をとっていこう……

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ――――カズヤさん……カズヤさん……もう夕方ですよ?

 

 俺を呼ぶ声がする。

 とても魅力的な声だ。

 

 目を開けると隣に羽が生えている長い青髪の女性が座っていた。

 この耳の形はどこかで見たことがあるような……

 

「あなたは……?」

 

「私はセイレーン・ワルツ、ローレライ・ワルツの姉です」

 

 なるほど、二年生選抜チームで一緒だったローレライのお姉さんか。

 

 それにしても声だけではなく見た目も凄く美しいな……

 でもどこか油断してはいけないという怖さを感じる。

 

「先日は妹がお世話になりました。ありがとうございます」

 

「ローレライが血の束縛魔法を発動してなければ俺たちは全滅していました。妹さんは素晴らしい力をお持ちですね」

 

「いいえ、妹は血のリングを使わなければマオ程度を束縛できないようではまだまだです」

 

 マオ程度?

 この人は三年生選抜チームにはいなかったよな?

 

「マオ程度ってどういうことですか?」

 

「そのままの意味ですよ? 彼女はまだ水魔法を使いこなしていない。だからマオ程度に苦戦してしまう。それにあの力も……これではまだまだ私の後を任せられませんね……」

 

 私の後?

 

「おーい! カズヤ! そこにいたのかい? もう帰らないと明日も試験だよって、セイレーン先輩……」

 

 レイの表情が少し強張っている。

 

「あらあらレイさんじゃありませんか。それじゃあ今日はこのくらいで……また近いうち(・・・・)にお会いしましょうね」

 

 セイレーン先輩はニッコリ微笑むと、羽を広げて飛び去っていった。

 

「レイ……セイレーン先輩って何者だよ。マオ先輩を血のリングを使わずに束縛できるようだけど……」

 

 顎に手を当てて少し考えこんでいる。

 

「――――まさかこんなに早くカズヤに接触するとはね……あの人は『永遠の生徒会』の会計、つまりこの学園で四番手の強者だ」

 

「『永遠の生徒会』の会計って……」

 

「そう、君が夏の終わりまでには届き得るだろうと言ってたあの会計さ。セイレーン先輩は水魔法のスペシャリストかつある特殊能力を持っている。その先輩がこのタイミングで接触してきた意味はわかるよね?」

 

 残りのサブリングは水のリング。

 

 サブリング発動の試練は、これまでの傾向からおそらく今月。

 

 そして、水魔法のスペシャリストであるセイレーン先輩の接触……

 

「セイレーン先輩が最後のサブリング発動に絡んでくる可能性があるってことか?」

 

「戦いになるかは分からないけど、関係はしてくるだろう……まぁとにかく今日は休んで明日の実技試験に備えなよ」

 

「そうだな……」

 

 赤点回避という試練が終わった直後に接触してきた「永遠の生徒会」メンバーのセイレーン先輩……

 

 最後のサブリングである水のサブリングの発動をするためには、これまでとは次元が異なる試練が待ち受けているだろう。

 

 そしてそれは近いうちにやってくるのだ。

 

 厳しい試練になるとは覚悟していたが、いざ大物が出てくると怖くなってしまう。

 

 その恐怖をかき消すためにも少しでも強くならないといけない……

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