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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第三章 六月 道を切り開くための風
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二十七 先導の風翼

 マオ先輩とアルラウネ先輩を倒し、残りはクラウン先輩一人だ。

 

 ただし、このまま逃げ切れば、残りの人数で俺たちの勝ちだが、クラウン先輩はそんなことは想定済みだろう。

 

 相手の出方がわからない以上、一気に倒すつもりでいかなければ、本気を出されて即全面ということは十分あり得る。

 

 全てのサブリングの力を白のリングに集中させ、身体能力を極限まで高める。

 

 ここで決着をつけるんだ。

 

 アネモイも同じことを考えていたらしく、最大出力の風魔法で全身を覆っているようだ。

 

「二人ともようやく本気を出してくれたようだ。こちらも力を見せないと失礼だね」

 

 クラウン先輩は地魔法で、三メートルくらいの岩人形を五十体ほどあっという間に作り出す。

 

 それだけではなく、俺たちの頭上に巨大な炎の剣を出す。

 これを落とされたらひとたまりもない。

 

 これだけの高度な魔法を同時に繰り出すなんて……

 まさに地獄のような光景だ。

 

「さて、時間切れになりそうなら頭上にある炎の剣を即落とす。もし空中から仕掛けようとしても魔法で撃ち落とす。君たちは地上から正面突破するしかないわけだ」

 

 チラリと壁の時計を見る。

 

 残り七分を切っている。

 

 いくら身体能力を上げたとはいえ、こいつらを一匹一匹倒している余裕はない。

 

「岩人形程度なら俺の風で貫いて突き進んでやらぁ!」

 

 アネモイは最大出力で風のドリルを作り、一点突破を試みるも岩人形を三体貫いたところで止められる。

 

「なんて硬さだ。普通の岩人形じゃねぇ……」

 

 最大出力の光炎のビームならば、まとめてなぎ払えるかもしれないが、そこまでの持続力はない。

 

 ビームを一点に集中させればクラウン先輩のガードを貫けるかもしれないかが、それだと細くて俺たちが通れる道にならない……

 

 ならば……

 

 赤のサブリングに全てのリングの力を集中させる。

 

「これならどうだ!」

 

 最大出力の光炎砲を放つと、次々と岩人形を破壊し、一直線にクラウン先輩の方に向う。

 

「ほう……これは凄い威力だ。でも……」

 

 水魔法で作られた五連の巨大な盾で、光炎砲はすぐにかき消され、道も岩人形たちに塞がれ、通ることができない。

 

「道を作ってもフラッグを守る僕をどうにかしないと結局駄目だよね。もっと一点集中して、道を作るよりまず僕を仕留めにくると思ってたけど中途半端な攻撃だな」

 

 もし一点集中してビームを撃っていたとしてもあの水の盾に阻まれていただろう……


 これが現役三年生トップの力。

 格が違いすぎる……

 

 再び時計を見ると残り五分。

 今からこの岩人形を蹴散らす方法なんて――――

 

 呆然と時計を見ているとアネモイが静かに語りかけてくる。

 

「――カズヤ、俺はウィンディアの王になる男だ。どれだけ絶望的でも希望のために道を切り開くのは諦めねぇ……」

 

「アネモイ……」

 

 そうだ――

 

 俺もレイに英雄の魂の持ち主として、悪魔の魂の宿命に真っ向から対抗すると誓ったんだ。

 

 そのためにはもっと困難状況でも道を切り開いて行かなければいけない――――

 

 左手にある白のリングを胸に当てて、アネモイが諦めずに戦っている姿をイメージして想いを練る。

 

 そして、想いを心音とシンクロさせる。

 

 リングよ、俺たちに希望の道を切り開く力を!

 

 白のリングが強く光る。

 

 光は手のひらに魔法陣を描き、人差し指に緑色のリング模様を浮かびあがらせる。

 

 新しい力……

 

 緑のサブリングを発動させると、背中に緑光の風翼が生える。

 

 クラウチングスタートのような姿勢を取り、全てのリングの力を緑のリングに集中させる。

 

 すると翼は広がりブレード状になる。

 前方は四角錐のバリアで覆われている。

 

「アネモイ! 俺が突っこんだら後から全力で付いてこい!」

 

「分かった任せる!」

 

 アネモイは戦うのを一旦やめて待機する。

 

「まだ奥の手があったのか? いいだろう、こい!」

 

 想い込めて地面を強く蹴ると、翼から竜巻が射出され、クラウン先輩の方に一直線に突っ込む。

 

 岩人形はバリアと風翼のブレードに当たり次々と粉々になり、通った後には一本の道ができる。

 

 その後ろにアネモイが続く。

 

「これで最後だ!」

 

「こい!」

 

 クラウン先輩は双剣に切っ先に風魔法を集中させ待ち構える。

 もの凄い魔力だ。

 

 双剣の切っ先とバリアがぶつかると、クラウン先輩の両腕は弾かれ、俺のバリアは割れてしまう。

 

 ならばと右手を後ろに出して光炎を射出し、さらにブーストをかける。

 

「何! まだに加速できるのか?」

 

 クラウン先輩は驚き、一瞬の隙ができる。

 

 その隙を見逃さず、クラウン先輩を左手で抱え込み、右手の光炎を下向きに最大出力で射出し急上昇する。

 

「アネモイ今だ! フラッグを!」

 

「そうはさせない!」

 

 アネモイがフラッグを手にしようとしたとき、クラウン先輩が剣を投げる。

 

 そのとき大きな黒い影がアネモイを覆い剣を弾く。

 

「ティタン! 気絶してなかったのか!」

 

「かろうじてな……」

 

 アネモイがフラッグを手にする。

 

「そこまで! 二年生選抜チームの勝ちです!」

 

 フレイヤさんが宣言すると、力が抜けて俺とクラウン先輩は急落下する。

 

 クラウン先輩が俺を風魔法の球体で包み、自分はそのまま華麗に着地をする。

 

「全く……君はなんて無茶をするんだ……」

 

「こうでもしないとフラッグは取れませんでしたから……」

 

「君たちの諦めない気持ちは想像以上だった。今日は完敗だよ」

 

 優しく微笑みかけてくれる。

 

「でも、先輩たちが最初から本気できてたら一瞬で勝負は決まってましたよ……」 

 

「ただ勝つのなら三年生のトップが二年生と試合をする意味がないだろ?」

 

 試合では勝ったけどこの人にはまだまだ勝てないや。

 もっと強くならなければ……

 

 こうして二年生選抜チームと三年生選抜チームの試合は二年生選抜チームの勝利で幕を閉じた。

 

 ちなみに試合中の負傷はフレイアさんが治しているので、試合後は、全員無事に帰宅した。

 

 自室に着くと、足を引っ張らなくてよかったと安堵して、ベッドに倒れ込んだ。

 

 クラウン先輩がこれだけ強いなら、それより格上のレイは実際どのくらい強いのか?


 これまで自分が目標にしていたレイの背中が急に見えなくってきてしまった……

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