二十六 試合開始
試合までの数日間、放課後に可能な限り、連携の確認を行った。
スカーレットはマルスさんとの戦いから大幅にレベルアップしていた。
アネモイの風魔法による高速移動には、白のリングとサブリング一つでついていけそうなので移動でガス欠にならなくて済みそうだ。
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そうして、二年生選抜と三年生選抜の試合の日になった。
この日も相変わらず雨が降っており、室内訓練場で試合は行われる。
ただし、今日はフレイヤ様が防壁を張るので存分に力を出せるだろう。
俺たちがウォーミングアップをしていると、三年生たちが入ってきた。
「やぁ、二年選抜の諸君。今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いしますわ。現役三年生トップのクラウン・アリスティア先輩」
スカーレットがクラウン先輩にニコリと挨拶をする。
「生徒会メンバーの三年生のお三方に比べたら僕なんてヒヨコみたいなものさ。それに二年生のレイさんが出ていたら試合にもならないしね」
この人が現役三年生最強……
物腰は柔らかいが、マルスさんみたいにいきなり化物になる可能性があるので決して油断してはいけない。
「あらあら、これは現役学生ナンバーツーの炎使い、スカーレットさんではありませんか。私の水と地の魔法で育てた可愛い植物たちが燃やし尽くされないか心配だわ」
「アルラウネ・カサブランカ先輩、お久しぶりですわね。それでは可愛くない植物なら全て燃やしても構わないということでしょうか?」
「まぁ! あなたは私が必ず潰してあげるわ」
アルラウネ先輩は緑色の長い髪に薔薇のような赤いスカートを履いていた。この人は魔族かな?
「やあ! 君が噂のカズヤくんっスね!」
どうやら俺のことを知っているようだ。
それにしてもどこかで見た顔だ。
「父からはいつも君の話を聞いてるっス。マオ・サルビアっス。よろしく!」
フェイ先生の息子さんだったのか。
それにしてもその口調は母親似なのか?
フレイアさんが皆を集めルールの確認をする。
「それではみなさん揃いましたね。ルールの確認をいたします。勝利条件はそれぞれの陣地にあるフラッグを取るか、全員を気絶させること。もしどちらも達成されなければ、最後に立っている人数が多いチームの勝ち。よろしいですか?」
両チームの生徒が「はい」と返事をする。
「制限時間は三十分、もし命の危険があるようなことが起きた場合はすぐに試合を中止にします。それでは、それぞれ自分の陣地で準備をしてください」
それぞれが自分のポジションに着く。
二年生はフラッグを奪う前衛が俺とアネモイの二人、フラッグを守る後衛がスカーレットとティタンとローレライの三人。
三年生は前衛がアルラウネ先輩とマオ先輩、後衛がクラウン先輩だ。
「それでは二年生選抜チームと三年生選抜チームの試合を開始いたします。始め!」
フレイアさんが消えると試合がはじまった。
試合開始と同時に俺は白のリングと赤のサブリングを発動させる。
アネモイは全身を風魔法で包む。
二人で一気にクラウン先輩のところまで突き進む。
「へぇ……先手必勝というわけか。でもそれは悪手だし、僕たちのことを舐め過ぎかな?」
クラウンさんは双剣を抜き、俺たちを止める。
「二人がかりだぞ?」
アネモイが動揺する。
「君たちは作戦ミスを二つしている。まず、二人がかりなら僕からフラッグを奪えると思っていること。そして三人ならフラッグを守れると思っていること。ほら、見てご覧」
振り向くと、ティタンはアルラウネ先輩が出した巨大植物が絡み動けなくなっていた。
スカーレットは高速移動するマオ先輩を捉えられずに苦戦していた。
「ティタンがやられたらまずい! アネモイ! ここは頼むぞ!」
「チッ! しょうがねぇな!」
そのときクラウン先輩は不敵に笑いながら俺たちに指摘する。
「君たちは僕の忠告を聞かずにまたミスをしようとしている。二人一緒に戻らないとすぐにフラッグは奪われるぞ? 口で言ってわからないようだから手を貸してあげよう」
クラウン先輩が双剣で突きを繰り出し、俺たちがそれを受け止めると自分たちの陣地まで押し戻される。
「おーい! 僕は君たちの陣地には攻めないから、その二人をどうにかできたらこっちにおいで!」
「これがクラウン先輩……」
「おい、カズヤ! ボケってしてんじゃねぇぞ!」
「え?」
マオ先輩の拳がみぞおちに当たる。
「ウゲぇ……」
「汚いっスね……それにしても俺は眼中にないとは余裕っスね」
クラウン先輩のことばかりて周りが見えてなかった。
「今ので目が覚めましたよ……」
「じゃあ君の相手は俺っスか?」
「いいえ? 二人ですよ!」
後ろからアネモイが、前から俺が斬りかかる。
「惜しかったっスね。でもそれでは届かない。二人とも本気でくるっス」
どうする? ここで消耗したらクラウンさんのところでガス欠になる。でも出し惜しみしていては……
「カズヤ! アネモイ! 一旦こちらに集まって!」
スカーレットが俺たちを呼ぶ。
マオ先輩の方をチラリと見る。
「いいよ。待っててあげるっス」
マオ先輩を警戒しながらスカーレットの元に戻る。
スカーレットは俺たちが戻ると念のために炎の防壁を出してマオ先輩に備える。
「カズヤ。アネモイ。あなたたちをできるだけ消耗させないようにローレライがサポートをする。私はアルラウネ先輩をティタンと相手しますわ」
ティタンに絡む植物を燃やしながらスカーレットが話す。
「カズヤくん。アネモイくん。私が一瞬だけマオ先輩の動きを止める。だからその隙に仕留めて!」
「でもあのすばしっこいのをどうやって止めるんだよ」
「いいから、私に任せて突っこんで」
ローレライは真剣な目でこちらを見る。
「わかった。アネモイいくぞ!」
「俺に命令すんな」
「おっ! 戻ってきたっスね。何を仕掛けてくるか楽しみっス」
仕留めるとしたら、剣に光炎を収束させるしかない。
光炎を出して剣に収束させとき、先輩が血のリングで束縛される。
「なんっスかこれ。こんなものすぐに……あれ?」
「血の捕縛は水の捕縛の比にならないくらい強固よ! 問題はこれを使うと私が気絶しちゃうことだけ……ど……ね」
「くらえ!」
血のリングが解けた瞬間、先輩を斬りつける。
やったか?
「はぁ……はぁ……危なかったっス。地の魔法で硬化するのがあとコンマ一秒遅れてたら負けてっスね」
「まだ終わってねぇぞ!」
「残念だけどそんな単純な斬撃は受け止められるっスよ」
「確かにそうだな。でも、あんたが受け止めれば動きが止まるのはわかってたよ」
アネモイはマオ先輩を羽交い締めにする。
「今だカズヤ! やれ!」
とはいっても光炎を収束した剣は硬化されてダメージが通らなかったし……
そうだ!
まずは再び、剣に光炎を収束して斬りつける。
「同じ手は効かないといったはずっス」
マオ先輩が硬化魔法を解いた瞬間。
脚にダイヤモンドを纏わせ、股に蹴りを入れる。
「うぐぁ!」
マオ先輩、こうするしかなかったんです。
すみません……
「き、金的とか卑怯っス……」
「うるせぇ! 勝てばいいんだよ」
アネモイが後ろから殴って先輩を気絶させる。
隣を見ると瀕死のティタンがスカーレットを庇いながら地魔法を繰り出し戦っていた。
「スカーレットさん! 隠れてないでそろそろでてきたらどうかしら? あなたの火力では私までは届かないでしょうけど」
アルラウネ先輩が挑発しているが、スカーレットは目を瞑って集中している。
「やる気がないならこちらから行きますよ!」
巨大植物でティタンをなぎ倒しスカーレットに迫る。
「スカーレット! 逃げろ!」
そのとき、スカーレットの杖がキラリと一瞬赤く光り、巨大植物とアルラウネ先輩を燃やしながら切り裂いていた。
「一体何を……?」
アルラウネ先輩が瀕死の状態で尋ねる。
「『刀』に炎を収束させて斬っただけですわ」
「あなたは刀なんて持ってなかったはず……?」
「先輩。令嬢が仕込み杖なんてもっているとは予想できませんでしたわね。あと炎を武器に収束させるのはカズヤの専売特許ではないのですわよ……」
そう説明するとスカーレットは倒れる。
「――スカーレットさん……私はあなたのことを甘く見ていたようね……今回は私の負けよ。グフッ!」
アルラウネ先輩は気絶をする。
「あの二人を倒すとは流石は二年生の有望株だ」
クラウン先輩が向こうで拍手をしている。
「あとはクラウン先輩だけですよ」
「今度こそあんたに勝つぜ」
「いいよ。二人できなよ!」
今度こそ二人でクラウン先輩からフラッグを奪って勝つんだ!