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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第三章 六月 道を切り開くための風
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二十三 雨の休日

 六月に入って初めての休日、外は雨が降り屋外訓練場は使えそうにないので、久しぶりに一日休むことにした。

 

 この世界の気候はわからないけど、これからは雨が続くとなると訓練メニューも見直さないといけない。

 

 そんなことを考えていると部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「カズヤ、今日は暇かい?」

 

 レイがドア越しに語りかけてくる。

 

「雨で学園の屋外訓練場が使えないし、今日は一日休もうと思ってる。マルスさんにもたまには休めと言われてるからな」

 

 ドアを開けて目を輝かせながらレイが入ってきた。

 

「じゃあ、今日は出かけようよ!」

 

 すでに出かけられる準備ができているようだ。

 

「外は雨が降ってるぞ? それにお前だって生徒会で忙しいんだろ?」

 

「仕事なら休みのために全て終わらせてあります!」

 

 得意気に胸を張る。

 

 レイが俺に何か提案してくるときはこちらの出方を読んで準備してくるんだったな……

 

「それともそんなに僕と出かけるのが嫌……かい?」

 

 今度は瞳をウルウルさせながら上目遣いで問う。

 

「こっちの反応をわかっててそういうことやるのやめてくれよ……それでどこに行くんだよ?」

 

 少し動揺したが冷静になって尋ねる。

 

「ちょっと散歩してからフォーン通りで食事とかかな?」

 

 まぁフォーン通りなら屋根がついてるし雨でも問題ないだろ。

 

「わかったよ。それで傘ってどこにあるんだ?」

 

「そんなもの使わなくていいよ?」

 

 レイは指か傘の形の風を出す。

 

「魔法は私生活でも当たり前に使えるようにしないと上達しない。風魔法は便利だからカズヤはもっと使いなよ」

 

 これは一里ある。

 

 魔法だけではなく、剣術と体術の動きも私生活から意識していかないといざというとき自然と使えないからな。

 

 前の世界にいたときは朝起きてるから寝るまで野球の動きのことを考えていたものだ。

 

「じゃあ行こうよ! 玄関で待ってるから」

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 外に出ると相変わらず雨は降り続いていた。

 

「じゃあ、風で傘を作ってみようか。風の魔法はもう授業で習ってるよね?」

 

 確かに魔法演習の授業で風魔法の出力とコントロールの基本は既に学んでいる。

 

 出力は、風が渦を作るをイメージしながら丹田で魔力を練る。 

 

 その渦巻いた魔力を指先まで流す。

 

 すると指先が勝手に回転をし始めるのだ。

 

「そう、そして指先の回転を徐々に小さなものにしていって、魔力を放出するんだ」

 

 指先から小さな竜巻がでてくる。

 

「ちょっと小さいけどこれを傘にしてみようか。回転してる風の幅を大きくして、どんどん平たくするんだ」

 

 コントロールは回転する風のリズムを掴み、心音とシンクロさせる。


 そして竜巻を押しつぶすようにして幅を広げ平たくする。

 

「最後に、中心部を盛り上げて完成さ」

 

 平たくなった竜巻の中心部を盛り上げると小さな傘ができた。

 

「――これじゃあ、びしょ濡れだよな……」

 

「でも基本はできてるから後は反復するだけだね。今日は僕が作るよ」

 

 レイは一瞬で二人分の風の傘を作った。

 

「これどうやって動かすんだ?」

 

「魔力を使えばいいよ」

 

 魔力を頭上に放出すると、風の傘がこちらにきた。

 

「さて、雨の中のお散歩をしようか」

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 クレスター邸から少し歩いたところでレイはいつもと違う道を曲がった。

 

「どこに行くんだよ?」

 

「僕が好きなところさ」

 

 しばらく歩くと島を一望できる岩場についた。

 

「晴れてる日はいつも誰かしらいるんだけど今日は雨だから他に人はいないよ」

 

 晴れていたらもっと綺麗な景色が見えたんだろうな。

 

 レイが俺に背を向けて語りだす。

 

「――あのねカズヤ……」

 

「ん?」

 

「みんなは僕をクレスター一族というけど、正確にいうとそうではないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「僕はこの島で母さんの娘として産まれたわけではなく、外国で父さんに拾われて家族として迎え入れられたんだ」

 

「でもフレイアさんはお前のことを娘だと思っているし、マルスさんを妹ととして大切にしているだろ?」

 

「それはそうなんだけど……僕が幼い頃は名前もなくスラムでさまよっていた。この前話した破壊の悪魔のようにね」

 

「そうだったのか……」

 

「僕を見つけだした父さんはすぐに血の契約をした。世界最強の英雄が破壊の悪魔と契約なんて前代未聞だよね……」

 

「でも理由はあるんだろ?」

 

「うん、父さんの血は特殊でね。悪魔の魂がもたらす宿命を抑えこむことができるんだ。ずっとは無理だけど」

 

「そのおかげで今日まで普通の生活を送ることができてたわけか」

 

「それも来年には終わりを迎えるけどね……」

 

 レイはしゃがみ込む。

 

「なぁレイ……お前は今幸せか?」

 

「――うん。尊敬できる家族がいて、信頼できる友人もいて、そして君がいる」

 

「それならその幸せを信じ続けろ。もし悪魔の宿命がお前の幸せを破壊しようとしても、英雄の宿命で幸せを創って真っ向から対抗してやる」


 今度こそ大切な人と向き合い続ける。

 理不尽な悪魔が邪魔をしても逃げない。

 

「……ありがとう」

 

 レイは袖で目を拭う。

 

「せっかくの休日に湿っぽい話はもう終わりだ。フォーン通りに行ってなんか食べようぜ」

 

「今日は甘いものがいいかな」

 

「そうだ、ケブとスカーレットも呼ぼう。ケブはともかくスカーレットならお前が呼べば飛んでくるだろ」

 

「ふふっ……そうだね」

 

 

 フォーン通りに着くと、腕輪型デバイスでケブとスカーレットを呼ぶと、予想通りスカーレットが息を切らして一番に飛んできた。

 

 その後しばらくして、ケブが妹のヌトちゃんと一緒にきた。

 それならこっちもアイビーを連れてこればよかったな……

 

 早速、五人で色々なスイーツのお店めぐりをする。

 個人的には瓶詰めプリンが一番美味しかった。

 

 久しぶりの休日はあいにくの雨だったけど、明日から頑張ろうと思える心が晴れ晴れとした日になった。

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