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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第二章 五月 在りたい姿と輝く石
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二十ニ 英雄の意思と悪魔の記憶

 「ケブくんとスカーレットさんの意志を確認できたところで、カズヤくんが聞きたかった英雄の意志について話そうか」

 

 そうだ。これを聞くのが目的だったんだ。

 

「お願いします」

 

「英雄は消滅する間際に『この島と、近い将来転生してくる俺と彼女の未来を頼みます』という一言を僕に託した」

 

「彼女というのは?」

 

「破壊の悪魔のことだ」

 

 俺とケブとスカーレットはレイの方を見る。

 

 レイは少し考えこむような仕草をして口を開いた。

 

「もしかしたら英雄は彼女を救おうとしていたのかもしれない……」

 

「なぜ英雄は破壊の悪魔を救おうとしてるんだよ。島の人間も魔族も苦しめた敵だろ?」

 

「そう……島からみれば敵であることは間違いない。でもその悪魔を生み出したのはそもそもこの島の人間と魔族だ」

 

「レイ様……どういうことですの?」

 

 スカーレットは困惑した表情で尋ねる。

  

「僕は悪魔の魂の第二階層で彼女の記憶の一部がいくつか『見えた』。だから表に出てない悪魔の事実を知っている」

 

 レイが以前に言っていた「見えた」とは記憶のことだったのか。

 

「当時、この島は大きな壁で人間と魔族が棲み分けがされていた。ここは表の歴史にも出ていることだ」

 

「そうですわね……教科書にも記述がありましたわ」

 

 スカーレットが答える。 

 

 俺はまだそこまで教科書を読んでいないが……

 

「悪魔は人間のとき(・・・・・)、親もおらず名もなくボロクソに扱われた。何度も死のうとしたが宿命がそれを許さなかった……その後、魔族の居住地域に捨てられ、ある魔族にかくまわれた。」

 

「悪魔は元は人間だった? それにある魔族って誰ですか?」

 

 ケブが尋ねる。

 

「当時の魔族の長だ。皆は人間の少女を殺せといったが、彼はかくまった。しかしある日、かくまっていたのがバレてしまった。彼は長を解任させられ、彼女とともに迫害された。結果、心労と病で余命いくばくとなった。優しい彼は、彼女のその後を案じ『血の契約』を交わすことにしたんだ」

 

 血の契約、俺とレイがペアリングを身につける際に交わしたものだ。

 

「血の契約にもランクがあってね……彼の場合は高位の魔族の命を使って契約する最上位のものだ。そして彼女は赤髪、紅眼の悪魔になった。こんな風な感じのね……」

 

 レイは黒壊の剣(こっかいのけん)を出し、床に突き刺すと魔法陣が現れ、赤髪、紅眼の姿になった。

 

 ケブとスカーレットは唖然としていた。

 

「そして彼女はそれまで行方不明になっていた黒壊の剣(こっかいのけん)を発動させた。ここからが本当の悲劇の始まりだ」

 

 レイはそのままの姿で話を続ける。

 

「彼女は強い魔族になって人間をたくさん殺せば同胞として認めてもらえると思った。しかしあまりにも残虐なため魔族からも恐れられ、さらに孤独になった。そのどうしようもない罪と孤独の中で唯一の存在意義を見つけた……」

 

「――人間にも魔族にも平等に恐怖を与え、結託させることで共存の道を開くということか?」

 

 いくら絶望してるからといってもそんなの狂ってる……

 

「そう……そしてその強さは世界各地に広まり魔王ももちろん知っていた。そこで、天敵であった父さんや兄さんたちと彼女を戦わせて戦力の分断をさせることをたくらんだ」

 

「当時は父のアドルと僕が組めば魔王に対して優勢だった。それに異世界からきた後に英雄と呼ばれる彼もいた」

 

 マルスさんが補足をする。

 

「魔王のたくらみは見事に成功し、英雄である彼を悪魔とともに消滅させ、マルス兄さんを島に縛り付けることができた。まぁ、結局は父さんと仲間たちが魔王を倒したんだけどね」

 

 ここまで聞いてもまだ肝心なことが見えてこない。

 

「とりあえず、悪魔が元は人間だったのはわかったし、悪魔になったのは人間と魔族の迫害によるものだと言うのもわかった。話を戻させてもらうと、英雄はなぜ破壊の悪魔を救う必要があるんだ? 確かに可哀そうなところはあるけど彼女のしたことは許されることではないだろ」

 

「もちろん許されるわけがない。だからこそ彼女は自分を倒してくれる英雄の登場を喜んだ。ようやく宿命から開放してくれるのだと……しかし、互いの全てを出し切る死闘の末に、彼女は夢をみてしまった。『生まれ変わって、この人と普通の生活がしたい』と――――」

 

 夢か……

 

「その先の記憶はまだ見えていない。ただ、英雄も死闘の末に彼女と同じ夢を見てしまったのなら、彼女を救うために兄さんに転生後の二人を託したというのは合点がいく。気になるのはどうして英雄が近い将来転生できることを知っていたかだけど……」

 

「まぁ、結局はカズヤくんが英雄の魂の第二階層にアクセスをできないと真実はわからないな」

 

 マルスさんが俺の左薬指の白いリング模様を見て言う。

 

 

「あの……それで私達はこれから何をすればよろしいのでしょうか? カズヤにはレイ様に追いつけるように協力すればいいけれど、私達がレイ様にできることは?」

 

 スカーレットがマルスさんに問う。

 

「少しでもレイの悪魔の魂が覚醒することを遅らせる。そのためにはまずレイを孤独にさせないことだ」

 

 マルスさんが答える。

 

「でもレイは『この力を極めるためには一人で戦い抜かなければいけない』と言ってましたよね?」

 

「確かに悪魔の魂はより孤独になることでより効率よく力を極めることができる。前任の悪魔も一人で戦い抜いたから脅威のスピードで力を極めた」

 

「それじゃあ、俺たちがレイ様にできることはないじゃないですか……」

 

 ケブの表情が絶望で歪められる。 

 

「そもそも悪魔の魂に宿る力の根源とは何か。それは『どうしようない状況への絶望』だ。だから孤独になれば、そのような状況に多く遭遇できて効率よく極められる。でも効率よくやりすぎれば、悪魔の魂は想定より早く完全覚醒してしまう」

 

 そうだ。俺の英雄の魂が完全覚醒する前に覚醒したら意味がないじゃないか。

 

「だから、俺の英雄の魂が完全覚醒するまでは、悪魔の魂の覚醒は遅らせる必要がある。すなわち、レイを独りにさせないということですね?」

 

「今の段階だとね。ただレイも言っていたが、覚醒が進むと悪魔の魂による宿命が強制的に孤独にさせるから簡単な話ではないが……まぁ、レイは自分と君を鍛えることばかりで完全覚醒の時期を調整することを考える余裕がなかったわけだ」

 

「いいや、カズヤなら僕のペースについてこられると信じていたただけだよ」

 

 レイが拗ねた顔で言う。

 

「とにかくレイの今やるべきことは肩の力を抜いて自分を追い詰めないこと。それにちゃんと友人との学園生活を楽しめてないだろ? カズヤくんも鍛えることも当然大切だがたまには休まないと続かないぞ」  

 

 休むかぁ……

 そういや、今月は色々あって全然休んでないな……

 

「みなさん、おつかれでしょうし、今日はこのくらいにしておきましょう。また何かあれば学園長室か私の屋敷にお呼びします。マルスも今日はありがとうね」

 

「今後は、何かあったら何でも相談に乗るよ。みんなに連絡先を渡しておく」

 

 こうして、俺たちは英雄の意思と悪魔の記憶の一部を知ることができた。

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