二十一 二人の決断
マルスさんとの戦いが終わり、俺たちは理事長室に戻ろうとしていた。
「それじゃあ、戻ろうか」
マルスさんは虹色の球に魔力を込めると、空間が裂ける。
「マルスさん、それって……」
この前レイが説明してくれた次元移動装置だ。
でも座標が刻まれてない。
「次元移動装置だよ。ただし、レイが君を迎えにいったのとは少し違う。時の狭間から帰還するためのもので、虹色の球に魔力を込めて、赤い本の契約者が承認すれば帰路が生じる」
「なるほど、だから座標がなくてもいいわけですね」
「魔力をつなぐだけだからね。あと時の狭間は僕らのいる世界の近くにあるから移動にエネルギーがそこまで必要ないんだ。じゃあ戻るよ」
俺たちはマルスさんに続き空間の中に飛び込んだ。
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帰還すると、フレイアさんが赤い本を持って待っていた。
時計を見ると出発してから数分しか経っていない。
「みなさん、お疲れ様でした。その様子だと上手くいったようですね」
「レイが動くかはヒヤヒヤしたけどね。それで、お疲れのとこ申し訳ないが、今後のことについて話し合いたいと思うけど、いいかな?」
「俺はいいですけど、ケブとスカーレットも巻き込んでしまってしまって本当にいいんですか?」
「僕と母さんは二人を信用できると判断したから今回あそこに連れていった。ただ、選ぶのは彼らだ。とりあえず情報を提供してから判断してもらう。二人ともそれでいいかい?」
マルスさんは二人の方をみて問いかける。
「カズヤとレイ様がどういう状況にあるのか俺は知りたいのでお願いします」
「私の答えは決まってますけど、情報はいただきたいですわ」
「レイ……マルスはああ言ってますけど、あなたは大丈夫なの?」
フレイアさんは心配そうな顔をしている。
「もう大丈夫だよ。二人の意志を尊重したい」
こうして俺たちは理事長室にある来客スペースでマルスさんとフレイアさんと話し合うことになった。
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「まず、カズヤくんとレイに何が起きてるのか説明する。かつて島の英雄と悪魔の戦いがあるのは知っているよね?」
「はい」
「存じ上げております」
「その英雄と悪魔なんだが、カズヤが英雄、レイは悪魔の転生者なんだ」
ケブとスカーレットが酷く驚いた顔をしている。
「カズヤが英雄の生まれ変わりで、レイ様が悪魔の……」
「そんな……」
レイの方をみると落ち着いて彼らの方をみている。
「そして、レイに関してはこのまま行けば悪魔の魂は来年には完全覚醒する。そうなると殺すか封印するしかない。それでも転生は避けられないから先送りでしかないけれど……」
「何か、レイ様を助ける方法はないのですか!」
スカーレットは泣きそうな顔で訴える。
「極めて成功する可能性は低いがあるにはある。相反する二人の魂が極限までぶつかりあい転生システムそのものを破壊することだ。そうすれば二人は英雄でも悪魔でもなくなり生き残れる」
「そんな神様みたいなことが可能なんですか?」
「でもそうしないとレイ様は生き残れないんですよね?」
「これは賭けだ。もし失敗するようなら僕と父さんが責任を持ってレイを殺す。先延ばしにはなるけど島には迷惑をかけられない」
ケブとスカーレットがレイの方を見る。
レイは物悲しげに微笑みながら二人に語りかける。
「いいんだ……もし失敗して殺されても前世でやった罪が重すぎるから今世で精算できるほど甘いと思っていない。悪魔の魂の覚醒が進むと宿命が僕を孤独にするしね……」
長い沈黙がながれる――――
「――俺は前世とか宿命とかよくわからないけど大切である友人であるレイ様を死なせませんし、カズヤだけに無茶はさせねぇ!」
ケブが立ち上がり声を荒らげる。
「私は元よりレイ様のためなら地獄の果てまでお供する覚悟でしたわ! それに私を変えてくれたカズヤも放ってはおけません」
スカーレットも必死に訴える。
「ありがとう。二人の覚悟はよくわかった……それで母さんと兄さん、二人のご両親にはどう説明するつもりなんだい?」
レイはフレイアさんとマルスさんに問いかける。
「お二方のご両親には前もって、お話をさせていただきました」
まずはケブの方を見る。
「ケブさんのご両親は『あの子が夢のために進むなら私たちは止められないでしょう』と」
「父ちゃん、母ちゃん……」
次にスカーレットを見て話しかける。
「スカーレットさんのお父さまには厳しいお叱りを受けました。『大切な一人娘なんです。殺したり封印できるのならばそうすればいいでしょう!』と」
「お父様ならそういうでしょうね……」
スカーレットはうつ向いて呟く。
「そして、スカーレットさんのお母さまは『私は娘の決断を尊重したいです。それに私も娘を持つ母親。母親が島のために娘を殺す辛さは想像を絶するものだと思うのです』と。最終的にはスカーレットさんに任せるいうことになりました」
「お母様……」
「もし結論が出ないのならば後日でも結構です。いきなり選べということが酷なのですから……」
「俺は両親の言うとおり自分の夢のために親友を助けたいです。ここで逃げたら英雄になんてなれません」
「私も名門ブーゲンビリア家の名に恥じぬよう。そして私自身に恥じぬよう二人の友を支えたいです」
「……本当にありがとうございます。あらためてお二人のご両親にはお礼のご挨拶に伺いたいと思います」
フレイアさんの方をみると目に涙が溜まっていた。
出会って二ヶ月の友のために決断できる二人を尊敬し、そしてとても感謝した。