十七 在りたい姿
激動の三週間のあと、五月もいよいよ下旬に差し掛かっていた。
いつもの通り、放課後に屋外訓練場に行くとレイが先に待っていた。
「やぁ! グリットさんのところで働いて答えは見つかったかい?」
「答えといういうわけではないけど得るものはあったよ。本気であの三週間を過ごした結果、自分にやれることは限られてることを痛感させられた」
「それで君はこの島で『どう在るべき』だと思ったの?」
「『在るべき』というより『在りたい』姿だな。やれることは限られてるとしても、少しでも多くの人と魔族を助けたい。これが俺の今の想いだ。そしてもう一つ気がついたことがある」
左手を胸に当てて、心音を確かめる。
在るべき姿を描き想いを練る。
そしてそれらをシンクロさせ左薬指に集中させる。
ここまでは以前と大して変わっていない。
さらに赤のサブリングを発動させ、その力を薬指の白のリングに集中させる。
すると小指の赤のサブリングから光が流れ、薬指の白のリングに集まる。
白のリングは輝きを失うことはなかった。
「これまでは白のリングを発動させるには白のリングだけでやるしかないと決めつけていた。でもサブリングからエネルギーを供給すれば持続することができるんだ」
「今の自分の限界を受け入れて、他のものに支えてもらうという発想か。なるほど、視野は広がったようだね」
レイがニッコリと微笑む。
「サブリングはメインである白のリングから一方的に力を与えられるものではなく、相互に支え合うことができる。こんなことに気がつけなかったとはな」
「とりあえずこれで第一階層は自由に使えるようになったみたいでね」
「次は第二階層にどうやって行くかだな」
レイは黒のリングを発動させ、黒壊の剣を取り出す。
以前と剣の形状が変わっている。
こいつも成長しているのか……
「僕は会長と副会長に鍛えられてるからね。やっぱり第二階層はより強いものと戦わないと極められないようだね」
「そういえば鍛錬ばかりで実戦はしてないな……」
「戦ってもらえるかは分からないけど、今週、島の防衛の要をやっているウチの兄さんが学校にくるんだ。時間があれば少しくらいは遊んでもらえるかもしれないね」
クレスター一家にはまだそんな化け物がいたのか……
「フレイアさんを通せばお願いできるかな……」
「兄さんは忙しいし無駄な争いは好まないから、母さんのお願いでもきいてくれるか分からないな。でも話だけでも聞く価値はあると思うよ」
「とりあえずフレイアさんと話をしてみるよ」
やはり、第二階層にアクセスして神具を取り出さなければ、レイにどんどん差をつけられてしまう、それでもやれることをやるしかない。
フレイアさんにレイのお兄さんに話でも聞いてもらえるように頼んでみよう。