十六 激動の三週間
授業が終わると、制服から動きやすい服に着替えてすぐにグリットさんの事務所に向かった。
グリットさんから三週間のシフト表を受け取ると、労働時間が平日は五時間、土日は十時間、休みが金曜日のみの週四十時間となっていた。
高校生のときはずっと部活動をしていたのでこれが人生で初めて働くこととなる。
渡された地図を見ながら依頼主のところに駆けつける。
初日の月曜はペットの散歩、草むしり、店内の清掃、家の補修の手伝いと四件の仕事をこなした。
一つだけならそこまでキツくはないが自転車など用意されてないので、移動は全て走っていかなければいけない。しかもこの島は坂道にたくさん家が建っているのだ……
仕事が終わったのは二十二時手前で、フレイア邸に戻るとシャワーを浴びて夕食を食べるとベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまった。
もちろん鍛錬をサボることもできないので朝四時に起きて、魔法と剣術の訓練をした。
授業中に眠りそうになるとレイとケブが起こしてくれた。
そして昼休みにはレイとスカーレットに魔法のアドバイスを受けた。
ケブに心配されたけど、レイは「死にそうになったら僕が回復させるから限界まで追い込んでも大丈夫だよ」と悪魔のような笑顔で微笑んでいた。
仕事休みの金曜日も放課後は苦手な魔法科学で分からないところをレイかスカーレットに教えてもらっていた。
そんな生活が二週間続いたとき、仕事をこなせる量も増え、島の人たちに顔と名前を覺えられるようになっていた。
たった二週間だけど島中を走り回った意味はあったわけだ。
そして、三週間目の日曜までたどり着いたとき事件は起きた。
日曜は休日なので、すぐに事務所に走って向かう。
何か身体がおかしい。
そしてグリットさんの事務所にたどり着いたとき、倒れ込んでしまった。
病院で起きたときには夕方になっていた。
最後の最後で仕事をこなせかった。
グリットさんや依頼主に迷惑をかけてしまった……
自分から頼んで無茶苦茶な仕事をして、それを達成できなかった……
ぼう然としていると、グリットさんが病室に入ってきた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません……」
「……それで何か得るものはあったか?」
「皆さんにご迷惑をかけただけです」
「でもな。お前が倒れたのは俺が労務管理をできていなかったからだ。申し訳なかった」
グリットさんが頭を下げる。
「そんな……頭を下げられることなんて……」
「あのな……俺は無茶だとわかっててお前にやらせた。それはお前に何か掴んでほしかったからだが……だとしてもお前を病院送りにしたことは完全に俺の責任だ」
「でも今日の仕事は……」
「レイちゃんと、お前の友人たちが駆けつけてあっと言う間に終わらせたよ。流石は魔法学園のエリートたちだ」
レイとスカーレットと、ケブが……
「いい仲間をもっててよかったな……ちゃんと礼を言っておけよ」
「はい……」
「それとこれは、常連さんたちからのお前への見舞いだ」
フルーツの山盛りをグリットさんが手渡す。
「三週間弱しか働けなかったけど、少しは皆さんに信頼されたんですかね……」
「さぁな……フレイアの甥と思われてるからかもしれねぇな。でも『元気になったらまた頼むよ』とは言ってたぜ。あと『無茶はさせるな』とも怒られたぞ」
「すみませんでした」
「とりあえず辛気臭いのはこれで終わりだ。で、これは労働の報酬だ」
封筒を厚みから明らかに多めに入っている。
「グリットさん、こんなに……」
「これはお前の頑張りに値する額だ。黙って受け取れ」
「はい……」
「てか英雄とか言われてるお前の前世も無茶しすぎなんだよ。少しは仲間を信じろ」
グリットさんは前世の英雄を知っているのか。
「それでもう一度きくけど、この三週間で得たものはあったか?」
「ありました」
「それならやった意味があったな。お前なら白のリングは使いこなせるよ。前任の英雄の生き様を見てきた俺が保証する」
「ありがとうございます。頑張ります」
「じゃあ、俺は帰るよ。ゆっくり休みな」
「グリットさん!」
「なんだ?」
「また、事務所に行ってもいいですか?」
「お前がやるべきことをやった後ならな」
こうして激動の三週間は幕を閉じた。
なお、いただいた報酬は後日レイたち(主にレイ)にご飯を奢って全てなくなった。