十五 仕事
帰宅後、執事にフレイアさんの今晩の予定を聞くと、運良く予定は入っていないとのことだった。
フレイアさんが帰宅するとさっそく部屋を訪ねる。
「フレイアさん、今、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。入ってください」
ドアを開けると部屋にはフレイアさん一人しかいなかった。
いつもならレイが先回りして座っていそうな気がするが……
「レイなら生徒会の関係で出かけていますよ」
「未成年がこんな遅くに外出しても大丈夫なんですか?」
「まぁ会長と副会長が一緒にいるならこの島で一番安全でしょう」
「それもそうですね……」
確かにあの三人が揃って何か危険なことが起きるなら俺が心配しても無駄だろう。
「それでどういったご用ですか?」
「実は短期の仕事をしたいと考えているのです」
「仕事? 金銭的な支援は十分にいたしてると思うのですが?」
「むしろ多過ぎるくらいで申し訳ないです……お金の問題より、自分の視野を広げるために、島の人達がどのように生活しているのか働きながら見てみたいのです」
フレイアさんは少し沈黙して応える。
「白のリング発動のためですか?」
やはりこの人は何でもお見通しなんだな……
「そうです。この力を発動させて一ヶ月。未だに自由に使いこなせていません。それは俺がこの島でどう在るべきか明確になってないので、場当たりに的にしか想いを高めることができないからだと思います。」
「だから、島の人々のことを知り視野を広げることで、自分がこの島でどう在るべきかを見極めたいということですか?」
「そうです。学園内にいるだけではこの島の人々がどのような暮らしをしてるかよく分かりません。だから一緒に働いて、少しでもこの島の人々のことを理解したいんです」
「カズヤさん、島の皆様は生きるために仕事をされています。私に保護されているあなたがそこに行っても本当の顔を見せてくれるとは限りません。それどころか邪魔者扱いをされて嫌いになるかもしれん。それでもよろしいのですか?」
俺の覚悟を確かめるようにじっと目を見てくる。
「それでも今のままでは何もつかめません。やれることはやりたいんです」
フレイアさんは机にある紙を俺に渡す。
「私の昔からの仲間が仕事を紹介する会社を経営しています。事務所の場所はその紙に描いてあります。学業に支障がない程度でしたら三週間だけ働くことを認めましょう」
「ありがとうございます」
「カズヤさん、分かっていると思いますが、たった三週間働いただけで島のことを知れるほど甘くはありません。それでもあなたを紹介するのは、あなたが何かを掴めると信じているからです」
「フレイアさんのお気持ちに応えられるよう頑張ります」
そういうと、一礼をしてフレイアさんの部屋を出た。
島のみんなと働けば島のことを知り視野が広くなるなんて浅はかなのかもしれない。
でも、何もしなればきっかけがつかめないのも確かだ。
明日の放課後に紹介してもらった事務所に行ってみよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後、紙に書いてある地図を頼りに会社を探した。
地図の場所に行くと古びた二階建ての建物があった。
どうやら一階が酒場で二階に事務所があるようだ。
酒場のマスターに紙を見せると年齢を聞かれた。
この島の法律ならば十六歳ならギリギリ大丈夫ということで、二階の事務所に案内された。
ドアをノックすると、赤髪のガッシリとした体格した男性が迎えてくれた。
「兄ちゃん、なんでこんなところに来たんだい? ウチみたいなところは魔法学園の生徒がくる場所ではないとフレイアに言ってあるはずなんだが?」
しまった。制服を着替えてくるのを忘れていた。
「学園長からは許可をもらっています。どうか仕事を紹介してください」
「別にいいけどさぁ……途中で逃げたりされたら困るんだよね……大丈夫?」
これまで感じたことのない威圧感を出して問いかける。
「大丈夫です……頑張ります!」
「まぁ、お前が白のリングを使いこなせなくて、俺がレイちゃんを殺すことになるのも嫌だからな」
なんでそこまで知ってるんだ。
てかレイを殺すって……
フレイアさんの知り合いとは聞いていたけど……
「俺の名前はグリット・フェルド。フレイアとその夫アドルとは昔一緒に旅をしていた仲間だ。よろしく」
「カズヤ・ヴァンです。よろしくお願いします!」
フレイアさんたちと旅をしていた仲間……
さっきの威圧的からしてもグリットさんはとんでもなく強いのだろう。
「本来ならお前に付き合うつもりはないが、フレイアがここに寄越したということは、お前にはそれなりの覚悟があるわけだから余計なことは聞かねーよ」
「ありがとうございます」
「とりあえず学業に支障がない仕事をリストアップしといたから好きなの選んでよ」
庭の草むしり、ペットの散歩、配達、機材搬入の補助……
「とりあえず上から全部やります」
「は? お前仕事舐めてんのか?」
「この島を少しでも知るのなら選んでるよりこれを全部こなした方が早いと思ったからです。選べる知識も経験もないですし」
「なるほど、やっぱりフレイアは俺を紹介して正解だったな。俺じゃなきゃ、こんな馬鹿の世話はできねーわ」
「一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします」
明日から激動の三週間が始まるのであった。