十四 動と静
スカーレットとの炎魔法の勝負から一カ月が経ち、青葉が繁る五月を迎えた。
レイだけではなくケブやスカーレットにしごかれることで魔法理論についてはそれなりに理解ができ余裕ができた。
魔法科学の授業だけは相変わらずついていくので精一杯ではあるが……
そして白のリングに関してはあれから何度も発動させようとしたが、全く光ることはなかった。
「一体なにが足りないんだよ……」
放課後の屋外訓練場で左手を見ながらぼやく。
「それは激情に任せて発動させようとするからさ!」
「うわぁ!」
後ろからレイが話しかけてくる。
「いきなり話しかけてくるなよ」
「君が油断しすぎなんだよ」
レイはスカートについた土を払って立上がる。
「炎魔法はこの一ヶ月でコントロールできるようになってるのに、どうしてそれをリングの発動に応用しないんだい?」
確かに、炎魔法は赤いサブリングが覚醒したおかげもあるが、心を落着かせてコントロールできている。
「でも、今のやり方が俺に合ってると言ったのはお前だろ?」
「そりゃ君はまだ魔法のコントロールなんてできなかったからね。でも今なら、もっと自然にやれるやり方があるんじゃないかな? 例えばこう」
レイが胸に左手を当てて深呼吸をすると、左手薬指にある黒のリングが紫色にうっすらと鈍く光る。
「君の発動方法が出力に特化した『動』の発動なら、僕が見せたのはコントロールに特化した『静』の発動さ」
「そんなやり方があるなら始めから教えろよ……」
「小手先のやり方を先に教えるより、まず自分にあったやり方で発動させた方が出力しやすくなるんだよ。とりあえずやってみなよ」
「わかったよ」
左手を胸に当てて心臓の鼓動、すなわち心音を確かめる。
以前発動したときの場面を思い出しながら想いを練る。
そして深呼吸をして心音と想いをシンクロさせる。
すると左手の薬指がほんの少し光るがすぐに消えてしまった……
「駄目だ! レイのように持続しない……」
「まぁ、光っただけでも進歩はしたけど、まだ『想い』がちゃんと練れてないね。おそらく君が想う在るべき姿は一時的なもので、また柱になるものがないからじゃないの?」
「柱になるもの……」
始めはヌトのためにひったくり犯を捕まえたいと想った。
次はケブの夢を守るために奮い立たたなければいけないと想った。
どれもその場限りだ。
「少なくとも君の想いは『誰かを助けたい』というのがキーみたいだけど、それは誰かが困ってないと発動できないから安定しないよね。もっと状況に左右されない絶対的な想い、在るべき姿をもたないとコントロールは難しいよ」
「どうすればそんなの見つかるんだ」
「そこは僕に聞かれても困るよ。ただ君はもっと広い視野を持つべきなんじゃないのかな?」
広い視野……
確かにここ一ヶ月、魔法のことばかりで他人について考える余裕はなかった。
「なるほど、もう少し色んな人に接して視野を広めないと、この世界で自分があるべき姿が見えてこないってわけか……」
「そこまで分かってるならあとは自分で考えなよ。じゃあ僕は生徒会の仕事があるから戻るね」
「忙しいのにいつも悪いな」
「なに、これも僕が最初に君に望んだ楽しい時間さ。じゃあね」
レイはそういうと学園に戻っていった。
色んな人と接して視野を広める……
ちょうど居候で肩身も狭かったしあれをやるしかないよなぁ……
今晩、フレイアさんに相談してみよう。