十二 情熱の光炎
放課後になり屋外訓練場に行くと、大勢の生徒が集まっていた。
一年生も三年生もいる。
みんな理事長特別推薦枠で編入してきたコネ野郎に興味があるのだろう。
訓練場の中央にはスカーレットが腕組んで待ち構えていた。
「よく逃げずにきましたわね」
「どうせ逃げても明日つきまとってくるだろ。それでどんな炎を見せればいい?」
「私より大きく美しい炎を見せてくだせれば結構ですわ」
スカーレットの手の平から蝶を形どった炎がいくつか飛び立つ。
「わかった。それでいい」
「その前に一つ約束してほしいことがありますの」
「なんだ?」
「私を満足させられなかったら、今後学園内ではレイ様に近づかないでくれます?」
「わかった。俺は近づかないよ。その代わり、お前を満足させたらケブに謝ってもらう」
「『俺は近づかない』という言い方はムカつきますわね……まぁ負けたら約束は守りますわ」
スカーレットが両手に黒い手袋をはめる。
「この手袋は特注品でして私の炎を倍増させますの。それでは、いきますわよ!」
スカーレットの両手からドンドン炎が溢れ出てくる。
その炎は五メートルいや十メートルまでの高さになる。
「ただ大きいだけではないのですよ!」
両手の指が複雑に動きドンドン炎の形を整えていく。
そうしてできたのが……
巨大なレイだ。
「どうです! これが私が求める最高の美! 強く、気高く、美しい、レイ様への想いですわ! さぁ、あなたの炎を見せてくださいませ!」
確かにレイへの信仰心はよく表現されてるな。
俺にはこんなものは作れない。
でもやれることはやろう。
左手のペアリングを通じて出せるだけの炎を出す。
出せてニメートルくらいか……
さて、炎のコントロールだが、今朝読んだ子ども向けの魔法教本によると二種類あるらしい。
一つは炎を出す前にコントロールする方法。もう一つは炎を出してからコントロールする方法だ。
より大きな炎を出すには先に出してしまう方がいい。
初心者が炎をコントロールするためには、炎が揺らめくリズムと自分の心音を合わせ、イメージ通りの形になってくれるように指が動かされる感覚を身につける必要がある。
つまり炎に主導権があるのだ。
より具体的で強い想いを持っているものをイメージすれば指は動いてくれるらしいが……
ここで白のリングが発動するか試してみるが全く光らない。
ならば炎にイメージを委ねるしかないか……
「これが俺の炎だ」
「これが……あなたの炎?」
美味しいそうにご飯を食べるレイを形どった不格好な炎がスカーレットの眼前にあった。
大きさも美しさもスカーレットの足元にはとても及ばない。
でも今最も具体的に強くイメージできるのはこの姿だ。
訓練場にいる生徒たちは陰口を叩いたり、笑ったりしている。
「あなた……私を舐めてますの? ショボい炎を出すだけならともかく、こんな醜いレイ様を見せるなんて許せませんわ……」
「別にあんたのレイへの憧れを侮辱するつもりはない。俺がレイと一緒にいて愛おしく、美しいと思ったのはこの姿だっただけだ」
「うるさいですわね……私のレイ様を侮辱したことは絶対に許さない! そうだわ。私のお父様に頼んでお友達のケブさんが学校にいられなくしましょう。あなたのせいで彼は英雄の夢を立たれるのですよ!」
「ケブは関係ないだろ!」
「いいえ。ケブさんを学校にいられなくしないという約束はしてませんからね。覚悟しなさい!」
レイがこのことを知ったら多分どうにかするだろう。
でもそれを頼りにしてはいけない。
ケブは英雄という夢を掲げて俺を守ってくれたのに、その夢を守るためにここで燃えられないのならば、英雄の魂を持ってる意味がないだろ!
目を瞑り、夢を掲げて俺を守ったケブの姿をイメージして想いを練る。
左脚に体重を乗せ、右足を踏み出す。
力と想いを左の薬指に集中させる。
友のために心を燃やせる力を!
すると、左薬指の白のリングが強く光り出す。
光は手の平まで伸び魔法陣を描く。
そして左の小指に赤色のリング模様を浮かびあがらせる。
「何が起きてるんですの?」
突然の出来事にスカーレットが驚く。
左薬指を突き上げると三十メートルほどの火柱が立つ。
その火柱は光を纏いキラキラと輝いている。
見物をしていた生徒たちはその美しさに見惚れている。
「光る……炎?」
「この炎は火柱しか作れないけどこれでもまだ不満か?」
肩で息をしながらスカーレットに問う。
「こんな炎見たことない……この私が炎魔法で負ける? そんなこと許されるわけないでしょうが!」
スカーレットは両手から目一杯の炎を出そうとしたときだった。
「もう、君の負けだよ!」
レイが現れてスカーレットに宣告する。
「そんなレイ様! 私はまだやれます! こんなもんじゃないんです!」
「知ってるよ。君の炎は大きくて綺麗だ。でもね。周りを見てご覧」
見物をしていた生徒たちが怯えている。
「そんな……私が炎で負けた……?」
レイがスカーレットをそっと抱きしめて言う。
「もういいんだ。君の想いは十分伝わったよ。ありがとう」
「うぅ……レイ様……ごめんなさい……」
スカーレットが膝から崩れ落ちる。
「さて、カズヤ。その火柱をおさめなよ。終わりだ」
「結局フォローされるのかよ……」
火柱をおさめると身体中の力が抜ける。
嘘だろ? 魔力は枯渇しないんじゃなかったのかよ……
倒れそうになったとき、大きな腕が俺を支える。
「ケブ……」
「ありがとなカズヤ……俺のためにここまで」
「だから自分の理想のために勝手にやったんだって……」
そういうと意識を失なった。