十一 今愛おしいもの
二限目は遅刻をしてしまったけどフェイ先生が受け持つ授業だったのでそこまで怒られなかった。
その後はレイとケブがフォローしてくれたおかげで午前の授業は無事に乗り切ることができた。
そして、昼食の時間はレイが食堂に誘ってくれた。
せっかくだからケブも一緒に食べようと誘ったがレイが不満そうな顔をしたのでケブに断られてしまった。
「ここが食堂だよ」
内装は前世界にあった学生食堂と大差はない。
もしかしたらメニューも変わらないと思ったけど、ラーメンやライスはなかった。
「券売機が見当たらないけど、どうやって注文するんだ?」
レイに尋ねると、
「この腕輪型のデバイスで注文するのさ」
手首につけている液晶付きの腕輪を見せる。
「そんなもの全生徒が持ってるのかよ。というか俺は貰ってないぞ」
「君のも用意してたけど、朝はドタバタしてたから忘れたんだろうね。向こうのカウンターで注文と支払いはできるけど、今日は僕が注文するからいいよ。食べたいものを言ってよ」
「うーん、オススメは?」
「超大盛りメガフライ定食かな?」
うん、こいつに聞いたらそうくるよね……
「このハンバーグランチセットでいいよ……」
「君は昨日の晩も今日の朝も食べてないのに大丈夫なのかい?」
「こういうのはまとめて食べると胃によくないからいいんだよ」
「ちゃんと食べないと身体が強くならないよ? まぁいいけどさ……」
レイが注文する。
「それでスカーレットとの勝負に勝算はあるの?」
「勝負? 炎魔法を見せるだけだろ? ペアリングを通じてお前の炎魔法を出せば終わりじゃん」
「彼女は性格はともかく、炎魔法は僕に次ぐ成績だよ? つまりこの学園で授業に出てる生徒の中では二番目に凄いということだ。そしてそんな出力を出せるようにペアリングは設定していない」
「魔力はあるんだから制限する必要ないだろ?」
「出力できてもコントロールできないと危険だろ? でも彼女はそれくらい危険な炎魔法を操れるんだよ。だから彼女が満足するような魔法を出せるか聞いているんだ」
「そんなの出せるわけないじゃん」
「じゃあ、どうするつもりだよ」
「やるだけやって負けたなら、笑い者になるさ」
「うーん……そんなことされたら僕がフォローにいかないいけなくなるじゃないか……放課後は仕事がたまってるんだよ」
レイが額に手をやる。
「実はスカーレットに挑発されたときに左手がこれまでにない反応を見せたんだ」
「これまでにない反応?」
「小指が燃えるように熱くなるような感じかな。もしかしたら彼女との勝負で何か掴めるかもしれない」
左手を見る。
「なにも土壇場でそんなことしなくてもいいじゃないか……」
「白いリングは想いと力のコントロールで発動する。それならこういうときにこそ覚醒のチャンスはあると思うんだ」
「まぁ……君がそういうなら僕はフォローしないよ。でもたとえ覚醒しても無茶はしないでね?」
「わかってるさ」
ピー、ピー!
レイの腕輪がなる。
「料理ができたようだし取りに行こうか」
レイと食事を取りにいくと、一際目だつフライの山があった。
やっぱりあんなもの注文しなくてよかったと思いながらハンバーグランチセットを受け取り席に戻った。
レイが席につき、ナイフとフォークを握ると、フライの山があっと言う間に胃袋の中に消えていく。
それにしても美味そうに食べるな。
食べることが本当に好きなんだろう。
そんなレイの姿を見るとなんだか愛おしく見えてくる。
最初は冬月に似た顔ばかり気にしていたけど、レイは俺が憧れていた冬月とは違う。
それでも今レイを愛おしいと思えるのは彼女と向きあえているからだろう。
レイという少女はこれからもっと色んな姿を見せてくれるのだろうか。
そして、自分も変わっていくのだろうか。
午後は、魔法科学と体術の授業があった。
魔法科学は指示通りやればよかったので、多少のミスはあったものの特に困ることはなかった。
体術の授業は高校の野球部で身体の使い方を探究していたおかげか、先生には筋がいいと褒められた。
これからは実戦を想定したら魔法だけではなく、体術も剣術も極めていかなければいけない。剣術も先生に頼んで教えてもらおう。
とはいえまずは炎魔法を自由に使えるようにならないとお話にならないな……