一 春の別れと出会い
「昔からずっと好きだった……付き合ってくれ!」
今日俺は人生で初めての告白した。
冬月怜佳とは、保育園からの幼馴染だ。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、何をやっても華やかで、憧れの存在であった。
そんな冬月は東京の有名大学に進学し、俺は地元の大学に進学するので離れ離れになる。
だから、卒業式の今日、勇気を出して告白することにしたのだ。
「春日くんは真面目で優しいから、私よりもっといい人がいると思うよ……」
一瞬だった。
春日一矢十八歳、人生で初めての失恋である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
自宅に帰り自室に戻ると、失恋の瞬間を何度も振り返る。
『春日くんは、真面目で優しい――』
その言葉で片付けられてしまう自分が情けなかった……
幼馴染だと思ってたのは俺だけで、冬月にとっては昔からの知り合いでしかなかったのかもしれない……
高校では勉強はそこまでできなかったけれど、野球部の練習は死ぬ気で取り組んでレギュラーとして結果はだしてきた。
これだけ頑張ってきたのだからもしかして奇跡は起きるかもしれない。
そんな必死な自分を見ていてくれたかもしれない。
しかし、そんな甘いことはあるわけもなく、真面目で優しそうな知り合いでしかないのだ――――
結局は憧れてばかりで冬月のことを知るため、冬月に自分を知ってもらうための努力ができなかった結果だ。
いずれにせよ、もう終わったことだ。来月からは大学生活が始まる。そこで新たな出会いがあるはずだ。
そんなことを考えながら机に突っ伏していると、後方からズズズッという音がしたあと、部屋が闇に包まれた。
部屋は真っ黒な空間となり、そこには白いローブを着た少女が立っていた。
顔はフードを深く被っていてよく見えない。
「な、なんだよ。これは……」
何が起きたのか分からず椅子から転げ落ち後ずさりしていると、少女はつぶやいた。
「ようやく……ようやく……見つけた」
「お前は誰だよ?」
「僕の名前はレイ。君を迎えにきたんだ」
「迎えにきた?」
「そう、君がいるべき場所に連れていくためにね。でも無理矢理連れていくことはしたくない。だから選んでほしいんだ」
「いきなり選べって……何のためにどこに連れて行くんだよ」
「僕と君が楽しい時間を過ごし、最後に殺し合うための場所さ」
「殺し合う? そんなところに行くわけないだろ。だいたい家族の許可も必要だし」
「そうか、残念だよ……」
レイは少し沈黙した後、すっと近づき……
唇を重ね合わせる。
「えっ……」
ローブのフードに隠れていたレイの顔が見える。
赤い髪に緋色の瞳。
そして……
「嘘だろ?」
そこには目に涙を浮かべた冬月怜佳の顔があった。
髪の色や瞳の色が違っても顔は瓜二つだ。
今日俺を振った冬月が俺にキスをして泣いている?
確かに俺は振られたはずだ。
「振られちゃったね……でもそれが君の選択なら仕方ない……時間もないしもう帰るね……」
レイは俺に背を向ける。
冬月に振られたシーンがフラッシュバックする――――
こいつはおそらく冬月ではない。
でも、まだ俺は選べるんだ。
冬月の側にいられない世界と、冬月と瓜二つのレイがいる世界――――
「待てよ」
レイは振り返る。
「俺はお前が振られた女にそっくりだからという理由で選ぼうとしている……そんな身勝手で最低な理由で選ばれてもいいのか?」
レイは微笑み答える。
「僕は『僕が信じる君』を好きになり、身勝手で最低な提案をしている。お互い様だろ?」
もしかしたらレイは俺を騙そうとしているのかもしれない。
家族に許可もとっていないのでこんなことをしたら大騒ぎになる。
でも冬月にそっくりな少女レイについてとても大切なことを忘れているような気がする……
それにこんな最低な俺と向き合ってくれるこいつとならば、新しい世界で自分を信じられるようになれるかもしれない……
いや、俺から本気で向き合って、こいつと自分自身を信じられるようにする。
「どうせこの世界にいても今以上にワクワクすることなんてないんだ。連れていけよ」
レイは涙を拭い笑顔を向ける。
「こんな僕を信じてくれるなんて君ってとってもお人好しなんだね。でも本当にありがとう」
レイの左薬指にある黒いリング状の模様が、紫色に鈍く光り、胸の中から漆黒の剣を取り出す。
「おい! 何をする気だ?」
「本当の君を目覚めさせる。僕を信じてほしい」
レイはそういうと漆黒の剣で俺の胸を貫いた。
胸から白い光が漏れ出し全身を包み込む。
光は左腕に集まり、薬指に白いリング状の模様ができる。
「意識を失わないうちに向こうの世界に飛ぶよ! もう時間がない」
レイは懐から虹色に光る玉を出す。
そこには座標のようなものが映し出されている。
その玉を宙に投げると空間が裂け、レイはその中に入る。
「さぁ、行くよ!」
差し出された手を握ったところで、俺は意識を失った。