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異世界へ  作者: 馬子友也
序章 小さな島 アルジャフ
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宴の幕引き

 ギリーの後ろにいた兵士たちは皆捕らえられ、その場で縛られた。


「みんな、聞いてくれ」


ルーチャが呼びかけると、全員の目が一斉に彼女の方へ向く。


「彼は、姿こそ違うが、ギリーだ」


ゆっくりと紡がれた言葉に島民たちは皆、目を丸くする。

ギリーが続く。


「銃で撃たれ、オレは一度死んだ。だが、この体になって甦ったんだ。理由はわからない。だが、オレは生きている!」


怪訝な目を向ける島民にギリーは話しかける。


「疑ってるな?リード、お前、ジーナとは上手くいったか?」


話しかけられた顔の彫りが深い男はたじろぐ。


「それは…ギリーにしか相談したことがない話だ」


皆がざわめくのを尻目に長身の男に話しかける。


「レグル!腕相撲でもやるか?いつも俺が勝ってたが…10年たった今なら勝てるかもしれないぞ?」

「ギリー!ギリーなのか?」

「ああ!」


笑顔で頷く緑髪の男に、歓声が上がる。



「ギリー!」


群がる者たちをかき分け、一人の男が歩いてくる。


「親父…」


レザフだった。


「よくぞ、生きていてくれた。どんな姿であっても、お前はワシの息子だ」


髪色の違う親子は、静かに拳を交わした。



 再会のほとぼりも冷め、ギリーが懐から鍵を掲げる。


「地下階のカギだそうだ」

 

鍵を受け取り、大通りと屋敷をつなぐ木製の橋を歩いていく。ギリーは屋敷のドアを開けた。全体を金に装飾された部屋は見ていて疲れそうなほどに豪華だった。大きなテーブルが2つ。ソファに囲まれたものと8つの椅子が並べられているものがある。右には厨房があり、トマトのように知ったものもあれば、見たこともない青い実も置いてある。袋に詰められた小麦粉がいくつもあり、この屋敷に籠ろうとしても、当面の食料には困らなさそうなのが分かる。左手には階下、会場に向かう階段があり、先に地下に向かう。

 地下はじめじめとしており、丸いガラスの中に灯された火は、暗闇を照らすには心もとない。いくつもの小部屋が鉄格子によって隔たれており、一部屋に一人、島の若い女性が閉じ込められていた。一人ひとり鍵を開けて解放し、すべての部屋を空にしていく。空いた部屋には兵士たちが押し込められ、しっかりと錠が掛けられた。


その夜、石壁の中に再び明かりが灯った。

島の人々は自由を喜び、歌い、笑いあった。ルーチャはギリー、レザフとともに「英雄」とうたわれ、ともに解放を喜んだ。

宴は日が昇るまで行われ、島に平穏が訪れる


はずだった。



「ささ、どうぞ」

ガタイの良い島民の男に案内され、ギリー、ルーチャ、レザフの3人は屋敷の3階に案内された。

1階と同じく金色にあふれた部屋だが、テーブルは1つ、ソファ2つと椅子4つが向かい合い、比較的簡素なつくりとなっている。窓は大窓が1つあるだけだ。

いつ用意したのか、テーブルの上には赤、黄、緑と色とりどりの野菜が飾り付けられたサラダや人の頭ほどある大きなパン、そして酒がなみなみとつがれたジョッキが並んでいた。

各々が席につく。ほかの島民もあがってきて、部屋はぎゅうぎゅう詰めになる。


「ええい、お前らはあっちで騒いでろ!」

「いいじゃねえか、減るもんじゃないし」

「アンタらが来てこの場所が減ってんだ!ほら帰った帰った!」

「ぶーぶー」


ずいぶんと賑やかになった部屋を見て、ルーチャが笑う。


「キミの島の人たちは楽しそうな人がいっぱいだね」

「ああ、お陰で毎日飽きないぞ。やかましいのが難点だが」

「ああもう…では島長!音頭をお願いします」


突如しんと静まり返る。


「皆の衆、今日までよくぞ生きていてくれた。こうして生きていてくれたからこそ、こうして皆で笑いあえる今がある。この素晴らしき日に、乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱ~い」


音頭を皮切りに再び皆が一斉に騒ぎ始めた。


「英雄に乾杯!」

「ねえねえ、髪きれいだね!」

「踊るぞー」

「ギリー!リードがジーナに告るってよ!」

「まじか!?行こうぜ!」


野郎どもが集まり、どたばたと階下へ降りていく。


「全く、あのバカ息子は…」

「ははは、おじさんはいかなくていいの?」

「おじさんではない!まだまだ十分若いわ!」


皆、10年間の鬱憤を晴らし切るように、思い切りはしゃぎ、笑った。



「いや~よかったなあ」


野次馬となっていた英雄は10年ぶりの友との再会を喜びながら、階段を上っていた。


「お、それ美味そうだな!」


子供の運んでいる料理皿には様々なフルーツが盛り付けられたパンがのっていた。


「ちょっと頂戴」

「いいよ!ママと一緒につくったんだ!」


ギリーが一部をちぎって口に運ぶ。


「おお、こりゃ美味いな…ウッ!」

「おい、どうした!?」


ギリーはその場にばたりと倒れる。


「グッ…ウウウ」


呼吸が出来ず、喉をかきむしる。その時、ギリーは不思議な感覚を覚えた。

…この苦しみを知っている?なぜ?


「おいだれか!ギリーが倒れた!」


屋敷は騒然となり、宴は予期せぬ終幕を迎えた。


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