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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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対峙した過去

「本当にすまんかった」


 エリゼオが深々と頭を下げて謝った。他意はなかったとしても、一人の命を危険にさらした、ということでらしい。

 エリゼオは続ける。


「事を説明せずに実践実践でやろうとするのはワシの悪い癖でな。アルフィオにも言われてたんだが…」


 顎髭をなでながらエリゼオは続ける。


「スターカの種は一時的に力を高める薬だ。だからあんたらの想像以上に高く飛べたり、重いものを持てるようになったりしたんだ」


 やっとなされた説明に、レストリーはそうかと頷く。


「だろうな。自覚があったか分からないが、ルーチャを助けに行ったギリーの速度は人のそれじゃないと思うぐらいには速かったし」

「それで間に合うはずもないと思ってたのに間に合ったわけか」


種を食べ、違和感を感じてから「把握しているはずの自身の運動能力」とそれによって「引き起こされる結果」が一致しなくなっていた。

それは種の効果によるものだったということなのだろう。


「だからさっき万が一ギリーが間に合わなかったとしても、ルーチャはなんとかなってただろうな。力が増すのなら、とち狂って頭突き出すような真似でもしない限りは大丈夫なはずだろうし」

「そうは言っても危なかったことには変わり無い。あれはワシの適当さが生んだミスだ。すまん」


再び謝るエリゼオ。少し時間を置いて落ち着いたルーチャが口を開く。


「ボクは無事だったんだし、大丈夫!ただ、ちょっと驚いただけ。あんなにあっさり切れるとは思わなかった...」


どうやらあの木を切り倒すのは一瞬だったらしい。エリゼオに切ってみろと言われいろいろと疑問はあったものの、とりあえずえいと一振りしたら目の前にあった木はあっという間に切り株になっていたのだ。その後、木が自身の方向に倒れてきて驚いた結果、腰が抜けたと言うことらしい。


「随分と恐ろしい効果を持ってるんだな。これを使えば怪物だろうがなんだろうが倒せるんじゃないのか?」

「前回挑んだときはワシとエリゼオたった二人だった。それでだな。だが、今回は多人数で挑む。上手くいくと信じよう」

「たった二人で…?」

「ああ。というより、計画的にやったわけじゃない。怪物に初めて遭遇したのがワシらだったってだけだ」

「それ、よく生きて帰ってこられたな…」

「不幸中の幸いってやつだ。一切怪我もなかったしな」


 怪我一つなく帰ることが出来た、とは言うもののかなり危なかったと話を続ける。


「奴が現れるまでは平和だった。だからこの森にもエリゼオの他にワシの家族も一緒に来ていたんだ。採集に出かけていてな。突然地響きが聞こえた。この森でそんなことはこれまで一度もなかったから、大いに困惑したんだ。最初は大木が朽ちて倒れたのかと思ったが、その音のなった方向からたくさんの動物や虫が逃げてきていたんだ」


 鮮明に覚えているのか、当時の記憶がすらすらと語られていく。


「あまりにも普通とはかけ離れたその状況に平和な世界に慣れていたワシらでも危険だと察した。家族は連れてくべきじゃないと判断したワシは、すぐに妻と子供たちに住居区へと非難するように指示した。エリゼオと共に採集用のナイフと小袋に詰めたこの種を持ってその場所へ行ったんだ」


 話しているエリゼオの表情が曇る。


「そこにいたのは『大きな動く木』だった。この世界にはいくつもの伝承が残っているが、そんな木の怪物が出てくるような話はない。空想上の生物どころか『想像だにしない事象』が目の前にあった。…それだけならよかった」


 エリゼオの高い声が一気に沈む。話を聞く三人は思わずつばを飲み込んだ。


「その木の足元、いや、根元には動物の死体があった。肉食獣に首を噛み切られたわけでもない、罠にかかったわけでもない、その動物を死に至らしめた原因は一目で分かった。撲殺だ。それもただ頭を殴られたわけじゃない。頭と尻側は見る影もなくぺしゃんこの潰れて臓器がぶちまけられ、我々エルフたちの住まうこの森の緑の絨毯は辺り一面真っ赤に染まっていた」


 語られるのは凄惨たる光景。


「ワシとエリゼオは危険だと判断するや否や、種を齧った。後方には家族が逃げているから立ち退くことは出来ない。そもそもどのくらいの速さで追って来るのかが分かってないまま逃げるのは危険すぎる。それにこの種の力さえあれば、採取用のナイフでも十分に戦えると思ったんだ。木を真っ二つにするのは慣れたもんだからな」


 謎の木と対面した二人は交戦体制を取った、が。


「木の怪物が倒れかかってくるのも大した速さじゃない。見切って躱して、切って終い。そうして木の上部と下部を思いっきり切り離してやったワシらはふと、一息ついたんだ。その時だ。切って切り株となったその化け物の切断面から芽が生えたと思ったら、みるみるうちに成長していった。それと同時に周囲の植物があっという間に枯れ果てていき、そこに倒れていた動物の死骸も根で包み込んで吸収していった。その姿にあっけに取られていたワシらはこのままではまずいと判断して、住居区の反対側、遠く、遠くへと逃げ回った。その後、すぐに住居区へ戻り、状況を報告。即座にその怪物の見張り部隊を結成して今に至る、というわけだ」


そうして、エリゼオは説明を終えたのだった。


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