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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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切ってみろ

「それはいいとして…そろそろだな」


 エリゼオがルーチャとの話を切り、三人の体を一瞥する。


「兄ちゃんはともかくとして、そうだな。嬢ちゃん、力はあるほうか?」

「ううん、全く」


 即答するルーチャ。回答を聞いてエリゼオは頷く。


「それじゃあこれを渡そう」


 エリゼオは腰に提げている草の剣をルーチャに手渡す。少女の体の半分ほどある大きな剣を渡され、ルーチャは受け取ったのち、不思議そうに剣を軽く宙に放ったり、鞘から抜いて刀身を見ている。


「軽いね。これって見た目からして剣だと思ってたけど、ちゃんと切れるものなの?」

「ほう、気になったか。ならあそこの木を切ってみてみればいい」


 そう言って指さしたのはこの広場から少し行ったところにある木だ。住居区間で見た大木程ではないが、大人一人分ほどある立派な一本。どう考えても、目の前にいるこの少女の細腕で切れるような代物ではない。


「切ってみればいいって、ボクは木を切り倒したことなんて一度もないんだよ?切り方なんてわからないし、そもそも分かったとしてもあんな太い木の幹なんて切れるわけが…」

「まあ物は試しさ。やってみな」


 笑いながら、エリゼオは出来ないと言い張るルーチャをあしらった。しぶしぶルーチャは示された木の元へ歩いていく。

 ルーチャに同感だ。ギリーですら、あんな木は切り倒せと言われたってできないと答えるだろう。それにあの剣は木を伐りやすい形状をしてはいない。解体に使うナイフ、武器といった用途に使うようなものであり、それで木を切ろうとして上手くいったとしても木の幹に多少の切込みが入る程度だろう。


「無理、だよな」

「そうだな。オレにだってあんなのを切り倒すのは一苦労するってのに…」


 そうして歩いていくルーチャを見ながらレストリーと話していると、次第に体に違和感を感じ始める。


「なあ、ギリー。体に違和感を感じるんだけど俺だけか?」

「いや、オレもだ。体が軽くなってる気がする」


 その場で軽く跳ねるレストリー。軽くなったと思ったのは当たっているのか、ギリーの腰ほどまでレストリーの足が上がっていた。


「よくそんなに高く飛べるな」

「いや、これ…」


 レストリーが口を開いて答えようとした瞬間、突如ルーチャの歩いていった方角から木々の揺れる音が聞こえる。

 二人が音のする方へと目を向けると、今まさにルーチャの目の前に木が倒れかかろうとしていた。


 腰を抜かして座り込んでいる少女の手元には草の剣が放られている。瞬間、ギリーの頭に一つの仮定が浮かぶ。ルーチャの予想とは裏腹に、何らかの力によって木を切ることは出来たものの、自身の方向に切った木が倒れてきた、という想像。

 それと同時に、ギリーは少女の方へと駆け出した。普通なら到底間に合う距離じゃない。ただ、行かなければ後悔する。助けようと動くこと。そこに躊躇いの付け入るスキはない。


 気づけばルーチャのすぐ後ろ。間に合った?

倒れかかる木。世界がゆっくりと動いているように見える。オレの力ならこの木を止められるはずだ。そう思って倒れかかろうとする木に手を伸ばす。


 耐えられるか?


 そんな一抹の不安を抱えるギリーの手に木の感触。直後に訪れるずしりとした感覚…が来ない。


「ん?」


 ギリーが怪訝な表情を浮かべ、声を上げる。ルーチャはもう終わりだと言わんばかりに目を瞑り、顔を下げ、両手を頭の前に掲げている。

 傍から見れば、倒木を何とか支えている青年と、その青年に守られている少女。間一髪で耐えているという危機迫った状況。


 そんな緊迫感あふれる状況の真っただ中にいるはずのギリーが困惑していた。


 軽い。目の前に倒れかかっている木の中身は空洞なのではと思うほどに。


 腕に力を入れているとはいっても全力ではない。本来なら、ずっしりとした木の重みを手に感じ、それに応じて支えようと必死になるはずのレベルの重さはあると思っていた木だ。


 見て得られていた情報と体の感覚とが一致していない。試しに腕にもっと力を込めてみる。青年の両腕はあっという間に木を押し返した。そのまま脇に放る。


 木はドシンと音を立て、二人の隣に倒れた。地面に倒れた木の音と感覚が全く一致していないが、そんなことよりも先にすべきは。


「ルーチャ、大丈夫か?」


 目の前でへたり込んでいた少女に声をかける。ギリーの声を聞いてはっとしたように辺りを見渡した少女はきょろきょろと辺りを見渡す。

 少ししたのち、状況を飲み込んだルーチャが答えた。


「ありがとう!助かったよ、ギリー」


 へたり込み、立ち上がらぬままにギリーの足元に両腕を回した。ギリーの両膝に顔をうずめ、ウウウと唸っている。泣いているというよりは、突然の出来事で受けたショックを鎮めようとしているのだろう。歩けなくなっているが、そのままにしておくかと思ったギリーは顔を上げ、キッとエリゼオの方を睨みつけた。


「すまん、大丈夫か?木が倒れてくるのは想定外だった」


 エリゼオが駆けつけてくる。気づけばレストリーもすぐ近くにいた。実践実践とエリゼオが言って行動だけをとらせた結果がこれだ。


「とりあえず、説明してくれないか?」


 強い口調でないものの、ギリーの声には圧が混じっていた。


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