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異世界へ  作者: 馬子友也
序章 小さな島 アルジャフ
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運命の夜

2人の顔を眺め、ルーチャが言う。


 「さて、これからについてだけど」

 「ああ、作戦通りで大丈夫そうだ」

 「決行は夜だな」


 軽く確認を取り、収容所にいる仲間たちを見渡す。

 幸いにも「建国記念日」だけは収容者の休みの日となっていた。前夜祭、本祭をまたぎ、準備は兵士たちが行うためだ。そのため、収容所から人が出てこなくても、異変は疑われない。

 昨晩、3人が寝ている間に襲われることはなく、無事に朝が過ぎた。交代の日ではないが、万が一兵士が来た時に備え、軍服を着た島民が収容所を守っている。兵士たちの軍服は露出が少なく、帽子をかぶってしまえば判別はつきづらい。そのため、傍から見るだけでは「いつもと変わらない」収容所となっていた。

 問題は島民の数が数人、屋敷に連れ去られていたこと。数人欠けていることに気づいたレザフが島民に聞いたところ、数日前に若い女が数人、選ばれていったそうだ。無事であることを祈るしかない。

 

 捕らえた兵士たちは皆、生きている。昨晩の兵士は皆気絶させられたか、眠らされていた。これは「誰一人殺さない」というルーチャの意向によるものだった。

ルーチャが持っていたのはスタンガン2丁と狙撃銃。狙撃銃の弾は薬の入った「チューシャキ」なるものだった。中身は森に生えていたベーゼの根をとってつくっていたらしい。ベーゼの根は島のものは皆知っていたが、毒草とされていた。そんな植物の液を打ち込み、生きているのは随分と不思議だったが、本人曰く「用法・用量を守れば大丈夫」らしい。そうして誰も死なない作戦が立てられたのだった。


作戦会議をしたとき、最初は決死の突撃で道を切り開くしかないと考えていた。だからルーチャの作戦を聞いたときは半信半疑だった。兵士の銃よりも遠くから攻撃をする方法なんてないと思っていた。彼女のもつ武器は異常だ。狙撃銃、狙撃と言っているが、これまで生きてきて、そんなことは聞いたことも見たこともなかった。スタンガンもそうだ。「デンキ」とは一体なんだ?ルーチャはなぜあんな優れたものを持っているのだろうか?聞けば「すべてが終わったときにでも話すよ」と言っていた。今はただ、信じよう。


 さて、過去を振り返るのはここまでだ。今夜、主を倒す。10年間続いた悪夢に幕を下ろすんだ。

 

 3人で島民たちに作戦を伝える。目的は王を倒すことと市民を追い払うこと。町の出入り口は西側と南側だけだ。祭りには主自身が出てくる。ルーチャは単独で王を狙撃。混乱に乗じて、皆は西側から出て、陽動を行う。市民が南口から出るようにし、港まで追い込む。そうすれば兵士以外は皆、船で出ていく。残りは消耗戦で降伏を狙う、といった手はずだ。

 注意すべきは「兵長」。5人いるが、主を倒した後、指揮をとるであろう彼らが戦うのか、逃げるのかによって状況は変化する。


 ギリーの思いをよそに、太陽はいつも通り、ゆっくりと沈んでゆく。もう一度、運命の夜が始まる。万事順調。全て予定通りに事は進んでいる。この夜を越えれば、オレはきっと心の底から笑えるんだ。


「気分はどうだい?」


髪を再び黒に染め、マントを身にまとったルーチャがギリーに話しかける。


「最高さ」

「ずいぶんと強気だね」

「ああ、これで地獄とはおさらばだ。一度は死んだ命に恐れるもクソもないさ」

「えっ?!」


ルーチャが目を丸くする。変なこと言ったか?


「ルーチャが来なければ死んでたからな」

「あ、ああ。だけど死ぬ気でってのはやめてくれ」


ルーチャは続ける。


「いいかい?目的を達成するのはもちろんだけど、命あっての物種だ。もしキミが恩を感じているのなら、どうか、何が何でも生き延びてくれ。ボクはそれを望んでるんだ」

「ああ、分かったよ」

「約束だよ?」

「約束だ」


二人は言葉を交わしながら、ゆっくりと先頭を歩いて行った。


 夜が始まった。石壁の中から明かりが漏れ始める。本祭に参加する人々の笑い声が聞こえてくる。

西入口の兵士二人を狙撃し、島民が静かに門の前に押し寄せる。石壁の上には兵士がいないため、よじ登りさえすれば狙撃が出来る。偵察を行う島民とともに登っていく。

王はこの後一時間ほど後にスピーチを行うはずだ。皆が位置につき、門の外は静寂に包まれていた。


「皆の衆、よくぞ遠路はるばる参られた!…」


主はスピーチを始める。ルーチャは震える手を抑えながら、静かに照準を合わせる。

パアン!

大きく銃声が響き、男の腕に命中する。

主はばたりと倒れ、祭りに参加する人々の中から悲鳴が上がる。

それとほぼ同時に西の門が開き、島の民がなだれ込む。

正面には兵士は見当たらない。ギリーが手を上げ、耳をふさぐ。

皆兵士から奪ったマスケット銃の撃鉄を引き、空中に向かって撃ち放った。


いくつもの鈍い音が空中を駆け巡り、辺りは煙に包まれる。

そんな中、先頭にいたギリーはこちらを向く銃口に気づく。


「みんな、戻れ!」


ギリーの叫びを聞き、島民は門から外へ引き返していく。

兵士の一人が近づいて駆けてくる。銃口は親父の背を向いている。まずい。


ギリーがレザフを突き飛ばしたその瞬間―――


殺意に満ちた銃声が響く。


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