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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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ひととき

「レストリーはどんな本を読んでたんだ?」

「ん?ああ、推理小説だ」


 瞬間、レストリーの目が泳いだような気がするが、まさか…


「で、ホントのところは?」

「…官能小説。な訳あるか!何で爺さんの目の前でそんなもの読まなきゃなんないんだ!」


それには同感だ。レストリーはあそこの爺さんと近い距離におり、それで堂々と官能小説を読んでいたりなんかすれば筋金入りの変態だ。変態を仲間に引き入れたつもりはない。


「推理小説か。そういうのが好きなのか?」

「何事もなかったかのようにするな!そっちこそ、そういうのを読んでたんじゃないのか?」


 今度はギリーがうろたえる。当たりだ。そういうのを読んでいた。


「いやあ?読んでないぞ?」

「嘘だな。ギリーは嘘をつくときに左眉が上がる癖がある」

「マジかよ…ああ、見てたよ!見てたとも」

「へえ、なら買おうぜ。俺も見つけたの買うから、交換しようぜ!」


 ん?


「まさかお前!」

「そうカッカするなって。嘘をついたのは謝るからさ」

「やっぱりそういう本を見てたのか…」

「それとギリーが嘘をつくとき…ってのも嘘だ。そんな癖は俺も知らない」

「やられたな…」


きれいに嘘をつかれた。やられたとしか言いようがない。


「で、どんなのだった?」


 思いのほかこの話に興味があるようだ。


「レストリーはあれか。むっつりスケベ、とかいうやつか?」

「違わい!いや、どうなんだ…?」


 そこで悩まないでくれ。


「まあそれはともかくとして…どうなんだ?ルーチャに言わないからさ」


 そのルーチャが見てたんだよ…

よく考えるとあれは読まされたといってもいいのではないか。あの時、本を開いてめくっていたのはルーチャだ。なら、あれを読んでいたのはルーチャだ。オレじゃないな。


「分かった。今度その本を紹介するから…ただ、交換条件が『例のブツ』って書いてあったから何と交換すればいいのかが分からないな」

「例のブツ?なんだそれ」

「オレも分からん。交換札を取るために店主を通してあるはずだから、まともなもんだとは思うが…」

「あの店主も男だな。爺さん、よく分かってる」


 褒められる店主の爺さん。勝手極まりない男どもの話は続く。


「ああいうのって偽造したりする可能性はないのか?交換札だけもらっておいて、別の本に交換札を挟むとか、交換札の中身を見せずにあそこに置くとか」

「そういうのはないと思うぞ。あの爺さん、暇なときはあそこに並べられた本を見たりするそうだし、大体把握してると思う」


 すなわちあの本は爺さん公認の本ということだ。怪しんだりはしなくてもいいのかもしれない。


 そうして他愛ない話に花を咲かせていた二人の元に声が掛けられる。


「お風呂、上がったよ~」


 そう言いながらルーチャがやってくる。次はギリーの番ということで席を立つ。



 風呂場に入ると使用した直後のため、湯気に包まれている。より蒸した室内からは木の香りが強くなっている。シャワーのハンドルをひねると、すぐに湯が出てきた。

体にこびりついていた砂や土を払い落とし、目を瞑る。眠気の差していたからだが温められ、血が巡っていくような感覚が体に走る。すべて洗い流した後、ギリーは浴槽にまだたまっている湯を見る。手を入れてみると、まだ十分に入れるほど温かい。


「少し入るか」


 湯船につかる。砂漠で散々歩き回ってきた足が一気にほぐれていくような感覚を得る。体全体が一気に温まり、全身がぬくもりに包まれる。


「幸せだ」


 ただ一人で過ごす、優雅な時間。再び襲ってくる眠気と戦いながらも、しばしの間、ギリーは体を癒していた。




 入浴が終わり、部屋を見ると二人とも既にベッドの方へ移動していた。さすがにベッドは骨組みだけかと思ったが、なぜか布団が敷かれている。


「こんないいもの、持ってたか?」

「ううん。最初から敷いてあったよ」


ベッドに寝転がりながらルーチャは言う。鳥籠の世界と同様、ここも二段ベッドが二つあり、ルーチャが上、レストリーが下に陣取っている。ギリーはもう一方のベットの上下がどちらでも選べるようになっていた。気遣いなのか、自然にそうなったのかは分からないが。


「最初からあった?」

「うん。もともと住んでたところを開けたからかも」

「誰か住んでたのか」

「あくまで推測だけどね。ずっと放置されてた住居だったならこんなにきれいにしてるってことはないと思うし…」


 確かにそうだ。誰も住んでいない場所だったのであれば、こちらの転移直後にエルフたちは何らかの場所で自身らを見つけた後、わざわざここを掃除して運んだということになる。もともとそういった掃除の機能を持った植物なのかと言えばそこまで便利な訳でもないし、村人に箒を持って室内を掃いていたものもいたため、それはないだろう。

 加えてここのエルフたちの様子を見ていると、どうにも犯罪に手を染めるようなものなものはいない。皆基本的には穏やかであり、誰とでも友好的に接したりする。うまく協力し合っているがゆえにここでの生活の仕組みが成り立っているものもある。

例えばツケ払いのシステム。ルーチャはそのシステムに驚いていた。すごく出来た、というよりその雑さにだ。それで成り立っているわけだから、ちゃんとツケたものは後で払っているわけだし、みなそういった約束はきちんと守っているようだった。


「全く、至れるつくせりだな。彼らに感謝しないと」

「だね」


 そう言ってギリーも空いているベットの下の方に倒れ込む。


「また明日、頑張ろう」

「そうだね。おやすみ」

「「お休み」」


 皆、疲れが一気に押し寄せ、久々となる立派な寝床の感触を堪能しながら眠りについた。


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