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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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風呂

「さてと、後は…」

「お風呂に入って寝る」

「そうだな。使えれば、だけどな」


 「風呂に入って寝る」これはルーチャと過ごしていてギリーにもついた習慣だ。もともとギリーが島で暮らしていた際はそう言った習慣はなかったが、鳥籠の世界においてはバーディやマドリーもそうして過ごす方が当然であったため、そのような生活に合わせていた。レストリーの世界においてはそのような設備がなかったために村での一日でもそうして生活していたが、体を洗わないまま寝ることに少し違和感を感じた時には驚いた。これまでそのように感じることはなかったが、ギリーの体がそう言った習慣になじんでいる証拠だった。

この世界は形こそ全く違うが、バーディやマドリーのいた生活における様々な行動に対応した設備があるとみている。なので鳥籠の世界と同じような過ごし方が出来るのでは、と考えた。


「風呂か」

「そういえばレストリーは知ってるのか?」

「温水につかるだけなら日中にできるからな」


 確かにそうだ。燃やすための素材がないため、あの世界では火を見ることはなかったが、それがなくとも十分に水を温めることのできる気候であった。


「ただ、寝る前ってのはなかったな。もしかしたら、トルゼーデではあったのかもしれないが」


 トルゼーデ。レストリーの祖父が住んでいた場所であり、彼が生まれ育つ可能性があった場所。結果はそうならず、山と砂漠に囲まれた小さな村で生まれ育つこととなったのだが。


「へえ、なら人生初の夜風呂、是非味わってもらいたいね!」


この部屋は見た感じだと生活するのに必要な設備がある程度揃っている。改めて部屋にあるものを確認すると、エルフの男たちのいた側には机一つと椅子四つ、木の下からものを受け取るための受け取り口と入口がある。そして自身らの部屋には机と二段ベッドが二つ、大きな洗面台が一室にある。これだけの家具が入る分、部屋の大きさは三人で過ごすのには十分だ。

そして別室としてトイレと風呂場というものもある。牢屋というにはあまりにも豪華で、もともとはそう言った用途ではなく、生活空間としてあったもののような気がする。そんな勘を裏付けるかのように、二つの部屋を隔てているドアにとってつけられたような閂をかけられる穴があるだけで、一方がもう一方を閉じ込められるような形にはなっていない。


さっきの方法でほかの部屋の明かりを灯しながら、ギリーはトイレの目の前で止まる。ルーチャが洋式と言っていたが、うちに入っている水だけは違うらしい。こんなに汚れたような色ではないと言っていたが、そんな見た目に反して、においはひと際さわやかな香りを放っている。


「いったいどうしたもんだか…」


使い方を聞いておけばよかったと後悔する。試しに引っ張れと言わんばかりのレバーがあったので押してみると、普通の水が勢いよく流れた。なるほど、分からん。

そうしてギリーがトイレらしきなにかの扱いに難儀していると…


「出た!お湯だ!」


 隣の部屋からルーチャの声がする。ひとまずトイレのことを置いておくことにして声の元に駆け寄ると、一気に暖かな空気と木の香りに包まれる。木がシャワーとバスタブを形作っている。シャワー前とバスタブ隣に捻り手が二つずつあり、ルーチャがバスタブ側の片方をひねるとバスタブに木の蛇口から水が流れ出す。出ている水に手を当てると熱い。


「すごいな、これ…」


 ここの植物というのは随分と謎だ。ここまで都合よく人の生活に役に立つ形を寸分違わずとるものがあるのだろうか。こういったものがあるのなら、人と自然は永遠に共生することが出来そうな、そんな気がする。もしかしたら、この世界における植物たちにとっての生存戦略の一つなのかもしれない。


「順番、どうしようか」


 三人いると、風呂に入る順番決めというのはなかなかに面倒だ。砂漠を歩いてきた手前、体中がお世辞にもきれいな状態とは言えない。

考えると、服屋であの店員はよくぞ試着を許してくれたものだ。ルーチャが身なりを綺麗にしていた、というのもあるのだろうが。もしギリーやレストリーが言っていたら断られたのだろうか。

いや、今考えるのは順番だ。


「オレは最後で良い。シャワーだけで済ますつもりだし」


夜の気温は砂漠程冷えるということはなく、夜風が心地よい程度に暖かい。そのため湯につかって体を温めるというよりは洗うということが先決だ。


「俺はとりあえず軽く湯につかってみようと思うけど、ルーチャはどうなんだ?」

「長いからあとでいいよ。レストリーが最初でどうぞ」

「了解」


 そうして三人は机を囲んでくつろぐ。風呂が入るまでは特にすることはない。


「そういや、あのトイレについてなんだが、誰か使い方わかるか?」

「あ、知ってるよ。バーディーたちのいた世界と同じ使い方でいいらしいよ」

「へえ、そうなのか。というか、何で知ってるんだ?」

「服屋のお姉さんに聞いたからね。あの底にある褐色の水にはこの世界の微生物がいっぱいいるんだって。用を足したものだけじゃなくって食べかすでもなんでも一瞬で分解するからゴミ箱も兼ねてるとか」

「それ、かなりヤバい奴なんじゃないか?」

「まあね。手でも突っ込んだらお釈迦になるって言ってた。利便性の代償みたいな感じだね」


 何もかもこちらにとって都合よくできているものではないらしい。


「そろそろかな。風呂が焚き上がったと思うから、レストリー、行ってくる?」

「分かった」


そう言ってレストリーは立ち、風呂場の方に向かって行った。


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