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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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食後

「そういえばこれ…」


 一足先に食べ終わったルーチャが水筒を取り出す。ギリーもレストリーも料理箱の方に夢中になっており、誰も開けていなかった。これには名前を書いた紙ははせられていないため、名称が分からない。簡素な筒状の植物に液体がいれてあり、上側にコップとして使える木の器が蓋としてかぶせてある。


「どんな飲み物なんだろうな」


 そう言って蓋を取ると、紙がはせてあった。ワソーという気の抜けた漏れ声のような名称らしい。おばちゃん、抜かりないな。

 動物の乳や蜂蜜、果汁を混ぜたものにトウモコロシの粒、雑穀、豆を粉末状にしたものを混ぜることによってできるパワードリンクだそうだ。

 蓋を開き、そのまま蓋に水筒の中身を注いでみる。中からクリーム色をした液体が出てきて、辺りにほんのりと甘い香りが漂う。


「これは美味しそうだな」


 ルーチャが注いだのを見て、二人もコップにワソーを注いでみる。机の上に三つのコップが並ぶ。


「あ、乾杯とかしてみる?」

「でもそれって食べる前にやったりするんじゃないのか?」

「全部食べ終わった後にする場合もあるし、関係ないよ!それにこういう時は礼儀云々は抜いて自由にやってみるほうがよくない?」

「それもそうかもな」


 そういってルーチャがコップを持ち上げ、二人もそれに従う。


「ギリー、よろしく」

「え、オレなのか?」

「そりゃまあ、この中で一番年長っぽいし」

「なら…」


 即興なので、浮かんだのはシンプルな言葉。


「新たな世界に、乾杯!」

「「乾杯!」」


 三人はコップを合わせる。こつんと控えめな音が立つ。

 みな、一気にワソーをあおって飲む。ドロッとしていて柑橘系のさわやかな香りにまろやかな酸味が混じっており、非常に飲みやすい。


「美味しいな」

「美味い!」


 皆の好みに合っていたようで、各々ごくごくと飲んでいく。食事に合わせた飲み物というよりは個別で飲みたい一品。味もボリュームもあり、飲んでいくとどんどんと腹にたまっていく感覚と体の底から元気が湧いてくるような感覚を覚える。


「パワードリンクって感じだね。これさえ飲んでればなんでもできそう」


 ルーチャの感想に他二人も頷く。エルフたちの活力の源となっているのは間違いないだろう。このような飲み物があれば、あの砂漠ももう少し楽に抜けられたのだろうか…と思い返す。

 砂漠では毎夜毎夜隣のテントからルーチャの腹の音が聞こえていた。お陰で大抵の音がある環境においても眠れるようにはなったが、今後はなるべくそのような状況に陥ることは避けたい。




 ひとしきり料理を食べ終えて、ギリーは外の景色を見に行く。それを見たほかの二人もついてくる。


「わあ、きれい…」


 空には満天の星空、正確には葉の光なのだろうが、ギリーのいた島と変わりのない澄んだきれいな明かりが見える。視線を下ろし周囲を見渡すと、木の幹がほんのりと灯っている。エルフたちの住処である場所で小さく灯がともっているのが分かる。森の中に浮かぶ小さな灯は温かみがあり、その景色はどこか幻想的だ


ふと自身の部屋を見ると、ちょうど明かりが灯った。明かりの元は部屋の天井から出ている木の幹のようなものだ。円柱形に形作られた木の幹の中にひときわ太い幹があり、そこが光り輝いている。タイミング的にサボっていたのがばれて、慌てて仕事をちゃんとしている様を醸し出しているような感じがしたのは気のせいだろうか。


「へえ、こんな便利な植物があるんだ」


 そう言いながらルーチャは木で形作られたランプのつくりをじっと見上げている。


「どうした?」

「ううん。スイッチとかないのかなって」

「スイッチ?」

「うん。確かに暗くなったのを感知して明かりを灯すっていうのは良いんだけど、またいつ暗くなるのか分からないし、ずっと夜が明けるまでこのままだと眠れないよね」

「確かにそうだな…」


 なにか触って明暗を変更できるものがないのか探してみるが見当たらない。三人がかりであたりをくまなく見てみるが、それらしきものはどこにも見当たらなかった。


「声を感知するとか?」

「そんなまさか…」

「暗くしてくれ」


 レストリーがランプに向かって指示を出してみる、が。


「…何も起こらないな」

「これじゃあ俺が恥ずかしいだけじゃないか…」

「まあまあ。でもとにかくいろいろやってみるしかないのかな」


 そう言いながらルーチャは木の壁をトントンとノックする。すると…


「消えた!」

「何やったんだ?ルーチャ」

「壁だ!壁を叩いたら真っ暗になった!」


 ルーチャが再びノックすると明かりが元に戻る。ルーチャに倣ってギリーとレストリーがほぼ同時に壁をノックし、ついたり消えたりと点滅する。


「ちょ、ちょっと!一斉にやったら壊れるかもしれないよ?!」

「すまん…」


 二人が手を止める。ランプは複数の命令から解放され、再び安定した明かりを部屋にいきわたらせた。

ここで照明が壊れるというのはなかなかに危ない。もし壊れてしまえば、手探りで把握もままならない部屋をほっつき歩いたのち眠りにつくか、外に出て真っ暗な中梯子を下り、どこかしらの家に言いに行ったりしなければならない。ここにあるものはなるべく丁重に扱わねばならないというのを実感する。


 食べ終えた三人はエルフの森の夜を見ているのだった。


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