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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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食堂

次にギリーが寄ろうとしたのは訓練場だ。しかし、もうすぐ着くという矢先に笛の音が聞こえる。オカリナだろうか。高い音でありながら、耳に障ることの無い、美しい音色が森に響く。


「これでバームル来ました、とかないよな?」

「さすがにそんなことはないだろ。食事の度にあいつも呼んでるっていうのなら随分なお笑いだ。死者も出てるって話だったから、そんな危険なことはしないだろうさ」


それもそうかと話しながら、三人は食堂へ向かっていくのだった。


 食堂に近づくたび、エルフたちの往来にすれ違う頻度が増える。こちらにおびえて避けている者もいれば「よお」と気さくに話しかけてくるものもいる。各々、突然の来訪者に対してどう思っているのかというのはバラバラらしい。少なくとも好意的に接してくれるものが数人でもいるという状況は、レストリーのいたあの村よりは居心地が良いというのが本音だ。


食堂では列が出来ていた。野菜特有の青臭いにおいと共に、酸っぱさの混じった独特なにおいが漂ってくる。食堂から出てくるものは皆包みを抱えており、それぞれの家に向かって持って行っている。何だろうと思って食堂の中に入っていくと、料理が配給されていた。


 列の目の前にいるエルフの三人家族、髭面でにっこりと自身の子供と話している男にギリーが話しかける。


「あの…」

「おお、どうした?」


 強面だが人当たりのいい親父、といったところか。声も高めで、多くの人と話をさせれば「口を開いてみると怖くなかった」というエピソードを量産しそうな朗らかさを持っている。


「ご飯って配給制なんですか?」

「いや、バームルって怪物が出てくるまではみんなで食べてたんだ。兄ちゃんはバームルについては知ってるか?」

「ええ、聞きました」

「そうか。そう、それであの食堂で食べてると万が一に対応できないだろ?俺たちの家は基本的に樹上にあるからバームルが来ても大丈夫なんだ。だから配給制にして、家に持って帰って食べる。そういう形をとっているんだ」

「へえ。ありがとうございます」

「いいってことよ!というか、兄ちゃんたちの家ってあるのか?ないなら泊まってくか?」

「いえ、あるので大丈夫です!ありがとうございます!」


 やはりいい人だ。多分正直にあそこの牢屋に住まわせてもらうことになりました、とか言ったらお世話になる可能性がある。それはさすがに、という判断で嘘をつく。

というか人…呼び方ってエルフ、なのか?いや、いいエルフ、悪いエルフ、1エルフ、2エルフだとくどい気がするな…人で統一してしまおう。


ともかく、食堂で受け取って家に帰って食べるというシステムのようだ。みんなで集まってがやがやと食べるというのもいいが、来たばかりで見知った者が少ないという現状、帰って食べるほうが落ち着いて食べられる分、良いのかもしれない。


 皆自身の木箱と風呂敷を渡し、料理をついで貰っている。三人の順番が回り、つい前にあったおばちゃんと目があう。


「ああ、君らかい。箱や風呂敷はこっちで用意するからそのままあっちの方で受け取りな」


 そう言って奥の方を示す。受け取り口になっているようだ。三つの料理と飲み物の入った水筒を風呂敷に包んだものが受け取り口で渡される。さっきよりも強い香りだけが伝わってきており、中身は見えない。後の楽しみにしようと三人はお礼を言って風呂敷を受け取り、食堂を後にした。


「何が入ってるんだろ!待ちきれないや」


 言葉を裏付けるように少女の腹が鳴る。恥ずかしそうに身をよじるが、場所を移すたびに彼女の腹の音を聞いている気がする。食べる量においても、ギリーやレストリーに比べて多い。その小さな体の一体どこに入っていくのだろうか。


 牢の方へと辿り着く。風呂敷を担いで登ろうとすると、レストリーが言った。


「これ、使えるんじゃないか?」


 木の裏側に人が二人は入れそうなほどの籠があり、蔓が垂れ下がっている。風呂敷を乗せて蔦を引っ張ってみると、するすると上へと上がっていく。


「もしかして!ねえギリー、乗ってみて!」


 ルーチャに促されるままにギリーも籠の中へ入っていく。レストリーがさっきと同様に蔦を引っ張ると、さっきよりは動きが鈍くなったものの、ちゃんと籠が浮き上がった。


「おお!これはすごいな」


 上方に何らかの仕掛けが施されてありそうだったが、辺りが暗くなってきているのと木の陰になっていることから下から眺めることは出来ない。

 人がのれるとは言われていないので念のためギリーは降りて、梯子でルーチャとともに登ろうとする。


「あ、お先にどうぞ」


 ルーチャがギリーに先に行くよう促す。一瞬ギリーはなぜかと首をかしげるが、すぐに合点がいく。


「分かった。先に行こう」

「うん」


 頷いて、ルーチャは木の裏で蔦を引っ張り続けている少年に向かって言う。


「レストリー!代わるよ!」

「…いいのか?」

「大丈夫。ほら、行った行った!」


 頭に疑問符が浮かんだままのレストリーから半ば強引に蔦を取る。よく分からないままにレストリーは梯子に手をかける。先に上っているギリーとは2メートルほど距離があるものの、素早く上ってギリーに追いつきかけるほどの速度で移動してくる。登りきったところでふとひらめいたかのように、レストリーの目が一段と開く。


「『見える』からか!」

「ご名答」


ギリーが部屋の向こうで風呂敷を受け取りながら言った。


「…聞こえてたんだけど」


 その後、しばらくして上ってきたルーチャが言ったのだった。ここに来た当初と違い、現在ルーチャは服が異なるものになっているため、下からのぞくと見えるのだ。

 

そうして三人は鍵のかかっていない牢の中に入っていった。


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