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異世界へ  作者: 馬子友也
第3章 緑の大地に生きるもの
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交換札

老人はただじっと座っているだけだが、禿げあがった頭にしわが寄っており、金色の太い眉、落ちくぼんだ眼の奥に見える青色の眼光は鋭い。静かに座っているだけだが、なんとも話しかけづらい威圧感というものを感じる。が、レストリーは臆することなく、店主であろう老人に話しかける。


「ここの本、見ていっていいですか?」

「…勝手にせい」


 そう言われ、レストリーは目の前にある本を片っ端から目を通していく。レストリーに倣って二人も辺りの本に手を伸ばした。ギリーの手に取った本の背表紙には「緑祖の息吹」とある。

内容に少し目を通すと、どのようにしてエルフや植物が生まれたのかが書かれていた。いたるところに「神」という存在が出てきており、ほとんどの事象が「神によって創られた」「神が起こした」と記されている。どうやらこの本は神話に当たるもののようだ。


 ちなみに本屋とは別に図書館も存在する。こことは少し離れた場所にあり、図書館では野草の見分け方から料理の仕方までの「生活に欠かすことのできない本」があり「娯楽・その他」に当たるものがこちらの方に置かれているそうだ。物々交換でやっているシステム上どの本をもらうかによって要求されるものが違っており、大体は食べ物が多い。「食っていくために書いている」の究極体みたいなシステムだ。

ペンネームなどを使って匿名にしたのち、店主を媒介して売り買いをするということもしている。そういった意味では口を割る可能性が皆無に等しそうなあの店主はここでの商売に適しているのかもしれない。

本の中に何と交換できるかが書いてある交換札が馳せられており、それが値札代わりとなっている。そのため、ツケ払いのできる服屋とはまた異なったシステムで買い物をすることになってはいるが、自身らについては特に物も持っていない現状、何も交換出来はしない。


「これ、なんだろ…」


 ルーチャが手に取ったのは、本棚の奥の方に隠れていた、茶の装丁がなされた一冊。年季を感じさせるほどに所々がボロボロになっているその表紙には「慟哭」と書かれてある。両脇に少し大きい本が置いてあることでそのままでは見つけづらいような配置のなされたその本は、重々しい雰囲気を纏っている。

 ルーチャはごくりと唾をのみ、恐る恐るその本のページに手をかける。すると…


「お止め下さいませ!主人が見ていますわ!…」


 男性が女性の上にまたがっており、なかなかの山場だ。ルーチャはなんとも言えない顔をしながらパラパラとめくる。あちらこちらに情事のシーンが詰め込まれており、傍から見ていても恥ずかしくなりそうだ。

しかしルーチャは閉じる様子がない。少女の意図は読めないままに、ギリーの目はその内容にくぎ付けになっていた。女性の艶めかしい様が主体にかかれており、そもそも小説ではない。絵で構成された本だ。それがゆえにストレートに内容が伝わってくる。


「漫画もあるんだ」


 内容には言及せず、ルーチャはぽつりとつぶやく。…内容についてこちらに振られてもこまるのだが。


「マンガってこういう…過激なもののことか?」

「ううん、こうやってコマ割りされた絵が主体になってる本のこと。過激なものもあるけど、基本的には老若男女問わずに見れるものが多いと思うよ」


 改めて最初の方のページをみると「禁断の甘味」とある。表紙だけ差し替えられた別モノのようだ。そのくせ、終盤のシーンである浮気に気づき、嘆き悲しむ旦那の姿が「慟哭」というタイトル通りになっているのは狙ってやっているのだろうか。

情欲が掻き立てられるような作品だが、浮気によって夫婦が引き裂かれ、互いの心がすれ違っていくという内容を見ているとどうにも悲しい気持ちにさせられる。

 ルーチャはそっと本を閉じ、元の場所に戻す。


「見なかったことにしよう」


 ルーチャがギリーにだけ聞こえる程度の小さな声で言った。ギリーは頷く。いったい誰がここに置いたのか、そして誰が見ているのか。詮索するのは気が引ける。交換札を見ても著者は「セイヨクノゴンゲ」とかいう明らかなペンネームで書かれており、要求する品も例のブツと書かれており、何と交換すればいいのかもわからない。

 エルピアンタのお盛んな若者が書いたものなのだろうか。ペンネームを使っている手前誰に対してもこれの作者ではないかという可能性が出てくる。絵の腕は確かであり、一目でうまいと思うほどだ。漫画についての造詣がないギリーでも一目でわかるというのはなかなかの腕前であり、きっとこれを書くためにかなりの経験を積んできたのだろう。


 後で一人の時、見に行こうとギリーは思った。


 兎にも角にも、要求されている「例のブツ」がまともなものであることを願うだけだ。もし本当に危険物だったら、エロ本と交換しているという状況だとシュールなことこの上ないのだが…そう思いながらも、店主に念のため確認を取る。


「あの…ここの交換札って、店主さんが確認されてるんですよね?」

「ああ?」


しかめっ面のままこちらを見た店主が、ルーチャの持っている本を目にした瞬間、反応した。ほんのわずかだが、目が大きく開いた。が、こちらには悟られまいとしたのかすぐに元の表情に戻る。


「ああ。わけのわからん交換札をつくられても困るからな」

「そうですか。ありがとうございます」


とりあえず本を戻す。あの店主が確認しているというのなら、ひとまずは信頼してみてもいいのだろうか。

 少し悩みながらも、まだまだ居座ろうとするレストリーを引っ張りながらも、次の場所へと歩みを進めていくのだった。


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