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異世界へ  作者: 馬子友也
第2章 熱砂に浮かぶ孤島
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少年の頼み

「てな訳だ」

「それって…」


二人は何も言えずにいる。少年の話に嘘を言っている様子は感じられない。何より、今朝の子供たちの態度、そしてそれを見て何も言ってない親たちを見れば十分信じるに値するものを見せられているギリーにとっては彼の話を疑う余地すらなかった。


嘘であってほしかった話だ。村にいる人間が、ある日から自身に対して祖父の過去を理由に虐げはじめ、閉鎖された空間で誰の助けもなく耐え続ける。自身が何かを彼らにしたわけでもない。村という法無き世界で、ゆがんだ理由のために毎日、毎日村の者たちから罵詈雑言を浴びせられ、殴られる。どれほどまでにつらいことだったのか。


「だけど…」


ルーチャは返答に困っている。それは自身らに起こっている転移が理由だ。連れ出すとは言っても、この世界にずっといられるとは限らない。それどころか、道中で彼のみを置き去りにして二人が消えるという可能性すら考えられる。


「ボク達は自身の意思でここに来たわけじゃないんだ。ボク達の身に起こっている異世界転移はいつ起こるのか分からない。法則性も何も分かってない。キミをここから連れ出していくとしても、突然ボク達だけが異世界へ消えて、キミを置き去りにするって可能性だってあるかもしれない。だから…」

「だからここで待てってか?」


ルーチャの言葉を遮り、レストリーは続ける。


「なんで、なってもいない悲観的な未来に賭けなきゃなんないんだ?異世界転移が起こることなく、無事新たな場所へ辿り着けるかもしれない。はたまたはアンタらと一緒に異世界へ行けるかもしれない。俺はアンタらに賭けようって決めたんだ。だから、教えてくれ」


 レストリーは二人の目を見据える。


「俺を仲間に入れてくれないか?」


 しばしの沈黙ののち、答えが返って来る。


「分かった。共に行こう」

ギリーは言った。


少年は安堵したような表情を浮かべ、静かに頭を下げる。そしてゆっくりと顔を上げ、二人を見た。これまでよりも少しだけ瞼が開き、少年の目には光が宿ったように見える。


少年の頼みを聞き入れたのち、聞こうと思っていたと青年が口を開く。


「ここに文字を書き連ねたのは…?」

「ここから出られるよう知識をつけるためだ。無策でここから出て野垂れ死ぬのは御免だからな。人は何日間水を飲まなければ、食料を得なければ死ぬのか。外にはどんな生物がいて、どのような特徴を持っているのか。何を食べることが出来、何を食べてはいけないのか。この村の景色しか知らない俺にとって、両親の持ってきたこの本には村なんてちゃちなもんじゃない『世界』が記されてた」


改めて周囲を見渡す。ここから出たいという少年の思いがいくつもいくつも刻まれている。所々に文字になっていない傷が見えているのは気のせいではないだろう。怒りに任せ、殴りつけたような跡が見える。孤独と理不尽と戦い抜いてきた証もまた、ここにある。


「十数年…耐え続けてきたのか?」


今朝、レストリーは殴られてもただ耐えていた。反撃するでもなく、ただじっと。それを小さなころからずっと…続けてきたっていうのか?


「ああ、あいつらにかまってる時間なんてない。貶しあうなんてのは人生において最も無駄な時間だ。俺にとって必要なのは人をねじ伏せる怪力とか、権力なんてもんじゃない。生き抜くための知識だ。知識こそが本当の力だ」

 

それが、彼の出した結論なのだろう。岩を見ると、今つけられた傷に比べ、薄まって読めなくなっている文字も見える。歪な環境に生まれ、小さなころからただここから抜け出すという執念にとりつかれた姿がそこに浮かぶ。


「皆には見られたくないから、夜決行がいい。行けるか?」

少年の問いにギリーが答える。


「分かった」

「それと、もう一つ頼みたいことがあるんだが…」




 人けのない村はずれの川べりで野郎が二人、全身を様々な布で覆い、立っている。傍から見れば怪しい人間であるのは一目瞭然。

「がんばって~」

ルーチャはその場に座り込んで二人の様子を眺めている。どうしてこうなったのか…



数分前――


「一つ、気になる場所がある」


レストリーは石で地面の岩をひっかき、簡単な図形を描き始める。随分となれた手つきで手を動かし、絵はあっという間に完成した。描かれたのは手のひら程度の小さな二重の楕円形。外側にいくつかの三角形、内側には家を描く。ここにある村と山とで挟まれている川を描いているようだ。


「今いるのがこの辺りなんだが」


そういいながら楕円形の外側に丸印をつける。村からはちょうど見ることのできない、岩の裏でこうした話し合いをするには格好の場所だ。


「この辺りの川底に穴がある。その先には洞窟があるんだ」


印から少し近い部分にバツ印を描いた。ここから歩いて数分とかからないだろう。少年の言ったあたりの方角に目を向けるが、ここが隠れ家的な場所になっているだけあって、岩が邪魔をしていて奥を見ることは出来ない。


「洞窟?」

「ああ。あんたらの火の魔法、照明に使うことってできるよな?その明かりを使って中を調べたいんだ」

「構わないが…」

 「うーん…」


軽く答えるギリーに対して、ルーチャの返答は曖昧。彼の頼みは近くにある洞穴の調査だ。洞窟といったって、どうせ人が通れる程度の穴があるという程度。何も地の底に通じるような地下深くまで潜るわけではない。いったい何が彼女を引き留める要因なのかと、青年は首をかしげている少女に問う。


「なにかあるのか?」


何気なく投げかけられる質問に少女は困り顔で言った。


「洞窟ってことは虫とかいるよね…」

「いるだろうな」


そういうことか。確かに洞窟で見る虫というのはなかなかに心臓に悪い場合があったりする。


「ギリーにお願いしていいかな?」

「分かった」


頷いたのちレストリーに尋ねる。


「着替えとかは用意してもらっていいか?」


異世界から来た二人の身につけているものはここに来た時の服装、バーディとマドリーにもらった彼らの普段着、白シャツとベストのまま。ろくに旅立てるような装備を持っていなかった二人にとっては水着どころか替えの衣服すら持って来れてはいない。


「着替えはこっちで用意する。ウチにあるものでよければ何なりと使ってくれていい」


 レストリーの家には未だに家族の着ていたものがあるらしい。それを使ってくれていいとの提案だった。ギリーはレストリーの提案を受ける。



そうして男二人が探検に行くことになったのだった。


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