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異世界へ  作者: 馬子友也
第2章 熱砂に浮かぶ孤島
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スィローフ・トルゼーデ

少年は昨日と同じ場所に立っていた。


「…来たか」

「ああ。いろいろと聞きたいこともあるしな」


少年がはたかれるところを目の当たりにしたギリーが静かに言った。


「レストリーは毎日あんな仕打ちを受けているのか?」


声のトーンは随分と低く、傍にいた二人が青年の内にある黒い感情を感じ取るには十分だった。

 

「ああ。呆れたよ。あいつら、あんたらが来てもちっとも隠す気すらねえ」


 レストリーは平然と言った。怒っているどころか、少し澄ました、どこか悟ったような口ぶりで言う。


 「だが、お陰で頼みやすくなった」


 少年は続ける。


 「頼み事の内容はこうだ。『俺をここから連れ出してくれ』」

 「そうか…」


 確かに分かりやすい。だが、二つ返事で答えるわけにもいかない。


 「分かった。だが返事をする前に、どうしてこうなったのかを教えてもらえないか?」


ギリーの問いを聞いて少年は頷く。彼は話を始めた。




すこし、昔語りをさせてくれ。


昔、トルゼーデという王国があった。緑豊かなその国で人々は皆、幸せに暮らしていたんだ。だが、王というのは不変ではない。代々受け継がれていく王位。そこに座すものというのは、皆が善人というわけではなかった。

そうして、ある一人の男が即位する。名はスィローフ・トルゼーデ。彼は自身の権力を用いて、悪政を敷いた。高い税で国民から金を絞りとり、思うが儘に豪遊。そして自身の意思に従わないものを次々と殺めていったんだ。だが、そうしたことを続けていると対立者というのも増えていく。


こうして悪政を敷いたものというのは、きっと勧善懲悪が好まれる物語の世界なら裁かれてるんだろうな。英雄みたいなやつが現れて、皆を苦しめていた王という”悪”が退治される。めでたし、めでたしと。


だが、そうはならなかった。

 

 権力を振りかざす人間の恐ろしいところは自身の権力というものを「理解して用いている」という点にある。どこまでが自分の権力で出来る範囲か、そしてどうすれば自身の持ちうる権能を広げることが出来るのか、それを踏まえたうえで行動をとるんだ。故に行われる粛清という名の虐殺は次々と対立者を減らしていき、たとえそれが目を覆いたくなるような巨悪の行動であったとしても、権力者が優位であるという状況が変わらない。


 さんざんやりたい放題やったその王と家臣たちは次第に齢を重ね、何事もなかったかのように天寿を全うする。

彼らは用心深かった。隠居後に命を狙われるかもしれない、と。

危険に備えて、遠くへ行こうとした。殺戮に次ぐ殺戮。そんな残虐なる王と家臣の顔は国中に知れ渡っている。だから、どこか遠くへ。


 彼らは各々の家族を連れて行った。それは家族を想ってのことか、自身の人物像を知る者を少しでも「こちら側」においておくためか、今となっては分からない。


 そうして、誰も通りはしない砂漠を渡り歩き、たどり着いたのがこの地だった。ここを「トルスパイツ」と名付け、安寧の地として過ごしていたんだ。



 ―――スィローフ・トルゼーデは俺の祖父だ



 この地にたどり着いたのは20年前。その時、俺はまだ生まれてなかった。王は山に囲まれたオアシスである、ここに村をつくらせた。皆一体となって取り組んだために、住まうに十分な場所となるのにはそうかからなかったそうだ。

そして15年前、俺はここで生を授かり、育っていった。最初の頃は皆、俺に対して優しくしていたんだ。


だが、そこから数年たつうちに王と家臣たちは次々に亡くなっていくんだ。大した理由じゃない、誰も彼もが老衰によって命を終えたんだ。人としては十分。やってきた悪逆非道の行為なんて何もなかったかのように安らかな寝顔をしてたさ。


そして、同時になぜか植物が育たなくなっていく。家族が亡くなっていく悲しみ、原因不明の植生の絶滅、さらにこの場所に何年もいると感じてくる閉塞感にさいなまれ、人々の心は次第にささくれ立っていく。村の活力となるはずの若者の顔は皆、沈んでいた。何人かはこの村から出ていこうとしたが消息不明。十と数日歩くことを要するこのだだっ広い砂漠を歩けるだけの装備はここにはもう残ってない。行きはよいよい、帰りは…なんて言ったがその通りで、この村から出ようとするのは至難の業だろうな。


ある日、誰が言いだしたか、こんな話が出た。

「スィローフ・トルゼーデがあのような政治をしなければ、こんなことにはならなかった」

ばかげた話だろう?その理屈で原因を探すなら、そんなクソみたいな王のおこぼれを頂戴しようと縋りついた家臣どもにある。憎むべきは王ではなく、そうしようとしたあんたらの親を憎めって話だ。

だが、この言葉が出た時、既に「当事者たちがいなかった」。はけ口のなくなった人間たちがやすやすと作り出した紛い物の道理に従って彼らは牙を剥く。家臣たちの内心はあくまでも「責任は全て王にある」と考えていた。それが顕現していったんだ。


そこから、彼らは自身のストレスのはけ口をトルゼーデの血族である俺と、両親に対して迫害を行うようになった。村という閉鎖された環境に法もクソもない。ただ耐え続ける俺の家族に奴らは暴言を、暴力を浴びせ続けた。

みるみるうちに両親は衰弱。あっけなく逝った。


そして、俺がただ一人、ここに残った―――


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