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異世界へ  作者: 馬子友也
第2章 熱砂に浮かぶ孤島
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交渉もどき

 ルーチャが高々と宣言する。


「ウォル!」


突如現れる大きな水球。物理法則を無視し、宙に浮く水は幻想。そんな思いを粉々にする現実。


「う、嘘だろ」


少年は動揺を隠せない。体がのけぞっている。


「嘘なもんか。ほれほれ、触ってみるがいい」


少し調子に乗っているルーチャなどお構いなしに少年が水に触れる。確かにここまでちゃんと驚いてくれると、調子に乗りたくなる気持ちもわかる。


「触れられる…」

「飲むことだってできるんだよ」

「いや、それはいい…」

「えっ?!」


少年が手を受け皿にするものだと思っていたルーチャは驚く。


「ならもらうぞ」


ギリーが代わりに受け取った。のどを潤し、至福に浸る。


「お前ら、よくそんな訳わかんないものを飲めるな…」


少年は若干引き気味だ。まあ、とりあえずは話が出来るだろう。




「ボクが異世界人のルーチャ・クロウだ。ルーチャでいいよ」


そのままの勢いでルーチャが説明する。


「で、こっちの訳わかんないものを飲めるのがギリー・ティグケット」

「よろしく」

「レストリー・トルゼーデだ」


一通りの自己紹介が終わり本題に入ろうとしたが、レストリーが先に口を開く。


「なあ、魔法ってあんたらしか使えないもんなのか?」

「ううん。多分キミもやり方さえ分かればできるようになると思うよ」

「へえ、なら教えてくれよ」

「そうだね…分かった」


少女はレストリーへ魔法の使い方を教える。


「意識することは3つ。『魔素を集めること』と『体全体の力を手のひらに流すこと』、それと『へそのあたりから特別な力を流し込むこと』だ」

「体全体とへそのって何が違うんだ?」

「体全体の力はボクたちが普段意識してるものと思ってもらって大丈夫だ。右腕にこぶをつくろうとするときみたいな『力』。へそのあたりから流す力は、ひんやりとした体の底にある別の『力』を意識してみるんだ」

「で、魔素ってのは?」

「空気とそう変わらない。それを集めるイメージで大丈夫だ」

「…まあ、とりあえずやってみるか」

「魔法を出すときは魔法名を言うんだ。こんな感じ」


軽く手の平を上に向け、ルーチャが言った。


「ウォル」


再び現れた水球に少年が目を見張る。

そうして、少年が魔法を使おうと試み始めた。

ギリーがそんな少年に話しかける。


「この場所について教えてくれないか?」

「ああ。あんたらの教えたことが嘘じゃないって分かったらな」


少年はギリーの反応など意にも介さず、再び手を掲げる。


「それはないんじゃないか?」


ギリーが声を上げる。不服だ。


「なら、そうだな。魔法を普通の人間が使いこなすのには、どれくらいの時間がかかるのか言ってないがいいのか?数年間修業が必要かもしれないぞ?ここの土地について教えてくれるなら、交換条件として教えてやるんだがなあ」


ギリーが大げさに話しかける。さて、効くかどうか…


「チッ。分かったよ」


交渉成立。少年は不服そうに話し始める。


「この山を登った先には窪地がある」


山の上方を親指で示しながら、少年は続けた。


「窪地を円状に囲むようにこの岩は存在してんだ。それ以外は砂漠。窪地にはトルスパイツっていう村がある」

「そこがキミの住んでる村ってわけだね」

「ああ。さあ、話したぞ。教えろ」

「よし、分かった」


頷き、ギリーが答える。


「さっきのヒントなしでやれば、60年ぐらいかかる。だが、さっきの話さえ知っていれば人間のオレ達でも数分から数十分で出来た」

「そうか」

「なあ、レストリー」

「なんだよ」

「オレは、お前の敵じゃない。だからこんな交渉じみたことは止めないか?」

「なら教えてくれ」

少年はギリーの担いでいる黒い鞄を指さした。


「その中には、何が入ってるんだ?」

「ああ…」


ふと言いかけ、ギリーは鞄にかけていた手を止める。中に入っているのは銃だ。スタンガンはともかく、これを持っていると安易に示すのはどうなんだろうか?そんな逡巡をするギリーにかまわず、ルーチャが近づき、鞄を開けた。


「これは…」

「銃だよ。但し実弾を撃つものじゃない」

「ジュウ?」


彼はこの兵器を知らないようだった。変に疑いをかけられては困るとルーチャが嘘の説明をした。


「動物避けのために大きな音を放つものなんだよ」

「大きな音、か。分かった。ともかく、俺を殺したりはしないわけだ」


 レストリーが物騒なことを呟く。こちらにかけられた疑いはとりあえず晴れたようだった。


その後、数分でも魔法を身につけることは可能という話を聞いたレストリーは魔法の練習を始める。

レストリーが魔法を使うのに夢中になっている間、二人は壁一面に描かれた文字や絵を見ていた。数式を書き連ねるのかと思えば、文字をびっしり書いたり、はたまたは絵で埋まっている岩もあったりと一様に文字、というわけではない。


「これ、カメロンじゃないか?」


ふと見覚えのある植物を見かけ、ギリーが言った。それを聞いたルーチャが視線を移す。


「だね。そう書いてあるよ」


ギリーの島に生えていた、黒色の果汁を持つ実。そういえばルーチャもこの実を知っていたということは


「これってルーチャのいた世界にも生えてたのか?」

「うん。染料として使われてたよ」

「これ、割とどこにでもあるんだな…」


そうして話している二人の元に、少年がやってくる。


「なあ、おい。全然できる気配がないんだが、嘘言ってんじゃねえだろうな」

「いいや、嘘はついてない」


少年は訝しげに二人を見たのち、再び練習を始めようとする。そんな少年をギリーが呼び止める。


「なあレストリー。これって全部お前が書いたのか?」

「ああ、村の連中はこんなところになんか来ないからな」


発言に少し含みを感じる。レストリーの腕や足に青痣が見えるのは決して無関係なものではないのだろう。彼と村の間に何があったのかを聞きたいところだが、むやみに触れられるものでもない。


「そうか…」


そうして、ギリーとルーチャの二人は当面の間、少年の描いた文字や絵を見ていたのだった。やたらと植物の絵が多いような気がするが、この辺りでは一切の植物は見当たらない。ギリーとルーチャは疑問に思うのだった。



そして、そんなことなどお構いなしに、少年はただ空想の産物であったはずの魔法を目の前に具現化させようと打ち込んでいた。


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