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異世界へ  作者: 馬子友也
序章 小さな島 アルジャフ
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約束と建国

島のみんなは鉄の筒―銃を持った兵士たちの監視下に置かれ、つくられた粗末な動物小屋に押し込められた。そうして俺たちの収容所がつくられたんだ。兵士たちはこの島を「アルジャフ」と名付け、上陸の日を「建国記念日」とした。そして島民は命を保証する代わりに働けるものは彼らの労働力として働くという「約束」を結ばされたんだ。断れば断ったもの自身でなく、他の島民の命がとぶ。そんな人質条件を突き付けられたオレ達に、拒否権はなかった。


ひとところに集められた島の人々のうち、働けそうな男とその他の人間に分けられた。男たちは日が出ると木を切り倒したり、建築作業をさせられた。大きな外壁をつくらせ大きな屋敷のようなものをつくらせていた。収容所の女子供を人質に取られた男たちは従うしかなかった。そんな生活をつづけながらも、オレと親父はなんとしても島の民全員で生き延びようと、みんなを励まし続けた。そして期を見計らってこの島を取り返してやろうと。それに従って、みんなそれぞれ頑張っていたんだ。


それを見て何を思ったのか、兵士たちはある日、オレと親父を呼び出した。殴られでもするのかと思っていたら、笑顔であの小屋に案内されたんだ。「ここで農作業をしろ」と指示され、困惑しながらもオレと親父はそれに従った。気味の悪いことに兵士もそれを手伝いだした。そして日暮れになると収容所ではなく「ここに泊まれ」と小屋に案内された。小屋に泊まれるなら収容所よりも快適に過ごせる。だから余計に混乱したんだ。奴らの機嫌がいいだけか?そんなはずはない。嫌な予感がしたんだ。だが、指示を無視して収容所に帰ろうとすると止められる。その日から、オレと親父は島の男たちが建築作業をしている中、兵士とともに農作業をするようになったんだ。


 これは罠だった。島民の頭であるオレと親父を他の民と切り離す。それによって、島民の士気を下げた。加えて、こうして少しいい待遇を与えられたオレ達を見て、他の島民は多少なりともうらやましいと感じるような環境を作った。そうして島民の怒りや恨みの矛先をオレと親父にも向けさせて、兵士に対する反逆の芽が育たないように仕向けたんだ。

 耐えしのぐしかなくなった俺たちは数年働いた。そして高い石壁が完成した。オレと親父、島の男たちは互いの姿が見えなくなった。それを皮切りに兵士たちの態度が一変した。オレたちに向けられていた薄気味悪い笑顔は消え、オレと親父はたった二人で過酷な条件の元、農作業をすることになった。


 島民はオレと親父、働ける島の男、他の島民の3つに分断され、10年間後の「建国記念日」まで働き続けることを余儀なくされた。

だがその約束は…あとは知っての通りだ。


一通り話し終えたギリーはふうと息をつく。ルーチャは話を一通り聞き終え、少し考えてから口を開いた。


「大変だったね、で済ませられる話ではないね。何も言葉が出ないよ」

「ああ、全く。散々だ」

「キミたちだけなら船に乗って逃げるということも考えられるんだけど」


レザフが答える。


「島のみんなを見捨てるという選択肢はないな。もしやったとしても、船に乗ってやり過ごし続けられる可能性、上陸した場所が安住の地である可能性を考えると絶望的、最悪の選択だ」

「そうなると今、僕らには逃げるという選択肢がないわけだ」

「そうだな。島から出る方法はない。兵士どもにばれて死ぬか、一か八かで戦うかだ」


目の前にある2つの選択肢はあってないようなものだった。


「無論、後者だね。この島をどう取り返すかを考えよう」


二人がうなずいたのを見て、ルーチャは続ける。


「この島にはどこに何があるのか、わかる限りで書いてくれないかい?」


ルーチャがバッグから紙束のようなものを取り出し、一枚ちぎってペンとともに二人に差し出す。親子が紙に形を描き出した。


「こんな感じだ」


四角く描かれた小さな島には北西、北東、南西、南東にそれぞれ形の異なる丸が描いてあった。


「丸を書いた部分には建物がある。ほかはすべて森として見て結構だ。今ワシらがいるのはこのあたりだ」


レザフが四角の真西部分を指す。


「そしてこの下の丸がさっきワシらのいた村跡、このまま北に進めば収容所があるはずだ」


南西部の小さな丸から指を動かし北西部の中ぐらいの丸を指す。


「この北東部の一番大きな丸と南東部の端っこにした小さな丸は?」

「それぞれ『町』、『港』だ。石壁に囲まれた町には屋敷と4つの家がある」

「この地図があってるとすると『町』の屋敷が敵の本拠地とみてよさそうだね。」


ルーチャが北東部の大きな丸を指さして言った。


「ああ、兵士たちとは身なりの違う、不思議な服装をした男が奴らの長のはずだ。あっちで働いている際に何度も兵士たちに指示を出していたのを見たからな」

「不思議な服装をした、ね。『頭』とでも呼ぼうか」

「カシラ?」

「ああ、いちいち不思議な~と呼ぶのも面倒だろう?これからそいつをやっつける作戦を立てる訳だから呼び名があったほうがいい」


ギリーがそれを聞いて返す。


「ああ、分かった。だがその頭をやっつけるしかないのだろうが…勝算はあるのか?」

ルーチャは穏やかに、力強く言葉を放った。

「ある」


ルーチャは続ける。


「もし無いにしたって命をかけて戦うんだ。負けるかもと思って戦うのは悪足掻きでしかない」


二人は静かにうなずいた。


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