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異世界へ  作者: 馬子友也
第1章 鳥籠の世界 カフィッグ
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思案

 少女は手を口元にやった。ふわあと息を吸い込む音が聞こえる。

 「こうして、ボクは異世界にやってきたわけだ」

 少女は眠そうな声で言った。

 

既にうつらうつらとしている少女を見て、これ以上は止めておこうとギリーは判断する。

「ありがとな。教えてくれて」

「どういたしまして。おやすみ~」

「おやすみ」


少女は死を覚悟した。だが、目の前にあったのは異世界。夢だと疑ったのだろうか。彼女はどんな気持ちだったのだろう。再びの生を喜んだのだろうか。それとも、一人異なる世界に孤独を抱いたのだろうか。それは、彼女にしか分からない。

ギリーは考えるのをやめ、静かに眠りについた。


解放がなされたのちの、ここでの生活は3日目となる。皆、少し落ち着いたようで穏やかに日々を過ごす。

各々自身らの部屋で食事をとり、それぞれの家庭でルーティーンをなぞることが増える。少し違うのは洗濯や炊事、植物の世話といった欠かすことのできない用事の合間、自由時間となるときに他の家族と交流をしに行く、といったところだ。魔女である彼らにとってはやはり「もう数十年待てばいいだけ」という感覚らしい。


地上に出られるような新たな策は浮かばない。案が出ないわけではないが「安全に行使できる方法」というものがないのだ。

これまでの「人間を倒す」「鳥籠のロックを何とかする」という状況については、周囲の協力とルーチャの銃やスタンガンで対処できた。だが、今回は話が違う。


この問題を解決するための情報が事前にない、得られないため、推測でしか話が進まないのだ。タブレット端末にあったのはあくまで「日記」だ。「汚染の原因となった物質は○○のような性質をしており、○○することによって除去することが出来る・対抗することが出来る」と詳細に書いているわけではない。汚染された地上をきれいにするような装置を持っている訳ではないし、他の手段である火と水の魔法でどうこう出来るようにも感じない。


地上が汚染されているという根拠が日記と骸骨しかないというのも悪い点だ。邪推するなら「ネロが嘘をついており、こちらが鳥籠から出ても『迂闊に外に出られない情報』と『根拠に近しい偽装』をすることで心理的に出られなくした」とも考えられる。魔女である彼らの話を聞いたり、ネロが彼らのために機械を作り出していたという点から考えて、それはないとは思うのだが、この推論を覆す根拠もない。


時間がいくらでもあるように見えて、そうだと言い切ることもできない。ルーチャのことだ。あれ以降ゆっくりと楽しそうに過ごしているが、何日、何か月、何年と過ごして同じままでいられるのだろうか?一緒にいるオレだってそうだ。ルーチャ自身が平気だったとしても、オレが耐えられる自信はない。


思考を休めようと家の中に入り、テーブルについている少女に話しかける。

 「なあルーチャ」

 「ん?」

 「それ、なんて飲み物だ?」

 少女があおっていたグラスには薄紫の液体が入っている。

 「これはプレッグの実で作ったジュースだよ!ギリーも飲んでみる?」

 「へえ、もらおうか」

 ルーチャがコップを出してきてガラス瓶に入ったジュースを注いでいく。

コップを受け取り、ギリーは少し飲んでみる。

とても甘い。果実のもつ独特な酸味がほのかに感じられるが、何よりも甘みが突出している。オギニの実のジャムの甘味よりも強く感じるが、何か調味料でも入れたのだろうか。

「どう?甘いでしょ」

「ああ、甘すぎて好みが分かれそうなくらい振り切った味だな」

「そう?ギリーは苦手だった?」

「いや、十分おいしいと思う」

「それは良かった。レイシーのとこで摘み取ったものなんだ。ボクも手伝ったんだよ」

 ルーチャはレイシーのところへ時々行っている。手伝いをしていたらしい。彼女もここでの生活に随分と溶け込んでいるように感じる。


「結局、ルーチャの場合は『転生』だったりはしないのか?」

明確に死亡が確認され、動かなくなっていたギリーと違い、ルーチャの場合はあやふやだ。亡くなって異世界に『転生した』のか、はたまたは体が異世界に『転移した』際に異世界の環境や現象自体に治癒効果があったパターンも考えられる。


少女はジュースをあおりながら答える。

「多分『転移』だと思う。最初はボクもどっちかわからなかったんだけど、ギリーをみてそうかなと思ったんだ」

少女は続ける。

「ギリーはこの世界に来て、多分魔女の体に生まれ変わった。顔の形は元と変わらないけど、髪の色は赤で魔女の髪の色と変わりはなかった」

 「だが、魔法は使えなかったな」

 「確かにね。その辺はまあ…バーディは『赤子でも使える』って言ってたけど、実は胎児の時に使い方はお母さんのへその緒から伝導されてた、とか生まれる際に何かしらの儀式をやってるからそれで使えるようになってる、とかそもそも例え話だったとも言えるからね」

少女は再びジュースをあおる。かなり気に入っているようだ。

「なによりもギリーは兵士長の姿から元の姿に戻っていたんだ。それは『転生』以外の何物でもないだろう?」

「そうだな」

「となれば、ボクも転生してるならギリーの島に来たときは島の人たちみたいな黒髪か兵士たちの緑髪になってるはずなんだ。ここに来た時だってそう」

よってルーチャは転移。オレは転生というわけだ。

ルーチャからおかわりを少しもらったギリーは、しばしの間、休息したのであった。


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