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異世界へ  作者: 馬子友也
第1章 鳥籠の世界 カフィッグ
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たった一人の人間

一通り食べたり騒いだりしたのちパーティーはお開きとなり、後片付けも終わった。


 皆が掃除したことによって、長年放置されボロボロだったシェルターの中身はかなりきれいになっていた。すべての連絡通路となっているシェルター内も元々生活のできる構造だったがゆえに、整えられれば十分に住める。


ギリーとルーチャは、シェルター内に二人、2つあった2段ベッドの下にそれぞれ座っている。

 各々の部屋において、魔女の人数に合わせたベッド数となっていたため、ギリーとルーチャの分はない。そのため、二人は彼らの部屋から布団をもらい、シェルター内のベッドに敷いて眠ることとなった。


 島の奪還から鳥籠の脱出に至るまで事を成しとげ、やっと落ち着くことが出来た。

 これまでは寝床につくたび、疲労困憊で眠りに落ちていた。次へ、次へと進むため。

だが、今は違う。指先に灯る、魔法で作り出された小さな火を見ながら少女は座り込んでいる。

「どうすればいいんだろう」

ルーチャがぽつりと零した。


鳥籠を出て、そこで見つけたタブレットによってこの世界の状況というものを知った。

嘘であってほしかった。

だが、そうであればこのシェルターに、あそこにネロの骸骨が存在するはずがない。彼は日記に記した通り、体に限界がきて、道半ばで途絶えたのだろう。

地上は汚染され、出ることは叶わない。ラジオを使って人間の生存を確認するが、何一つ反応はない。


ルーチャの脳裏によぎった不安は「人類は絶滅したのではないか」ということ。あとから押し寄せる真実はそれを否定してはくれない。150年も経っていれば、白黒ははっきりとつく。人類はもう生きてはいない。希望的に見積もったとしても、地上の汚染を取り除けるような状態には至っていない。


外には出られない。そうなるとここで数十年間過ごすしかないのだろうか。


目の前にあることを成し遂げ、成し遂げてたどり着いた先は人類の滅んだ異世界。魔女とともに限られた空間で余生を過ごす。これがすべての先にある「結果」なのだろうか。

きっと合理的に考えれば、選択肢はそれしかない。だが、それをすぐに受け入れるとなると話が違う。少女はそれを受け入れられずにいる。

「そうだな…」

ギリーがそのつぶやきに答える。

「何日か待って、ゆっくり考えてみるべきじゃないか?」

少女はそれを聞いて悲しげな顔を浮かべた。

「ギリーはいいよ。きっとその体なら、数十年経っても問題はないんだろう?」

しまった。ギリーは自身の発言を後悔する。


オレは今、ルーチャと同じ「人間」ではないのだ。

この小さな世界の中で、彼女だけが人間だ。今はまだいい。だが10年たてばどうだ?20年、30年。彼女だけがほかの者と違い、大きく変化し、老けてゆく。それはどれほどに残酷だろうか。


人間は他の生物に比べ、知能を発達させてきた。だが未来予知をも可能とさせうるそれは、時として自身に牙をむく。未来を想像し、絶望する。よりよい未来へと歩んでいこうとする人間がそうなる様というのは皮肉めいた恐ろしさを感じる。


「ごめん」

「いや、謝るのはこっちの方だ。今の発言は無神経だった」

二人の間に気まずい空気が流れる。

「うん。ひとまず何日かゆっくり過ごしてみよう」

そうしてルーチャは体を布団に潜り込ませる。

これ以上、彼女に声をかけるのは逆効果だろう。そう考え、ギリーも眠りについた。


「おはよう!ルーチャ!」

甲高く、元気な女の子の声が聞こえる。

「ん…おはよう」

隣のベッドでルーチャが目覚めたようだ。

 「ムム…」

 ギリーも目を覚ます。

 「あ、ギリーも起きたのね!二人ともマドリーが呼んでるわ」

 この子の名前は…確か

「そうか。ありがとう、レイシー」

小さな女の子はニコッと笑った。


地下通路を歩きながら、ギリーは言う。

「ルーチャ、昨日はごめんな。一緒に考えてこう」

「うん。そうだね。時間はいっぱいあるんだ」

二人はマドリーたちの元へ歩いて行った。


「おはよう。二人とも」

「おはよう」

「おはよう!」

マドリーと二人は挨拶を交わす。

ルーチャの表情に陰りはもう見えない。それを見たギリーは胸をなでおろす。

既に朝食のパンとジャムは用意されている。

「あれ、ジャム変えたの?」

「そうなの。レイシーのとこと交換したのよ」

ジャムの色は薄黄色ではなく、紫色。口にすると、以前のものより酸味が弱めで甘みが強い。特にルーチャが気に入ったようだった。


こうして、鳥かごから解放された翌日は皆、それぞれの部屋へのぞきに行ったり、ギリーやルーチャはこれまでの冒険の話を皆に語ったりと、何事もなく過ごしていった。

鳥籠は世帯ごとにつくられており、1つ1つに家族が暮らしていた。そのため、それぞれの部屋にある一軒家は家族の人数によって大小があった。ネロによってつくられていた機器も見られ、彼は6つの場を回って交流していたことも分かった。育てている植物も異なっていたり、部屋の温度が少し違ったりと、人同士の関わり合いだけでなく、そうした環境の違いも味わいながら楽しんだ。昼食、夕食は家族がバラバラになってそれぞれ好きな場所で食べ、その日は皆楽しく過ごしたのだった。


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