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異世界へ  作者: 馬子友也
第1章 鳥籠の世界 カフィッグ
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どのくらい経ったか

ギリーがルーチャについてさらに質問しようとしたが、ルーチャが再び記録に書かれた文を読みだしたので止めた。


10386年 8月12日

 やっとここにたどり着けた。徴兵期間中に戦争が勃発し、戦地に駆り出されて両足を負傷。切断する結果となった。命があっただけましだと考えていた矢先、テロリストによる全世界における遠隔核爆弾爆破。これを不運と呼ばずして何といえばいいのか。

 だが、彼らに会おうとこの近くに来ていたのは不幸中の幸いだ。何とかここにたどり着くことが出来た。親父の核シェルターは変な妄想の産物の隠れ蓑なだけだと思っていたが、まさかこんな形で役に立つとは。

 核爆弾によって地上は地獄と化した。焼けただれた皮膚を垂らしながら歩く人々。川に見える遺体の山。黒い雨。呻き声。あと200年ほどはこの汚染された地上は元に戻るまい。

残念ながらここにこれたのは事前じゃない。事後だ。被爆した。俺ももう長くはない。髪が抜け落ち、吐き気が止まらない。ともかく彼らを解放しなければ。

最後に、万が一私が彼らの元へたどり着くことが出来なかった時のため、ここに開放コードを記しておこう。『112357』だ。どうか、善なるものの手に渡ることを願う。


「あの骸骨は、ネロのものだったんだろうね」

地下通路にあった骸骨だ。両足を失った彼は、そのままではあの高さの機械に触れることが出来ない。彼はそのための椅子を引きずって、鳥かごの開放をしようとした。

だが、彼は道半ばで息絶えた。そうして百年と幾何か経ち、あのような姿となったのだろう。


「この記録が真実なら、だ」

ルーチャは言う。

「今が何年かが気になるところだね」

「そうだな。地上が汚染されてるのなら、その出来事から200年経っていなければ、オレたちは外に出ることが出来ない」

 「それに救援が来た様子も全く見られない。これ以上は…聞いてから考えよう」


ルーチャとギリーは日記にあった内容をかいつまんで話し、外に出てはならない、ということを中にいる人々に伝えた。実際、肝心の出口は認証コードが必要なようで、こじ開けられそうな様子はないが万が一、ということもある。

現在はみな、各々の住処だったところを行き来したり、集まって話をしていたりと退屈しているといった素振りは全く見られない。当面はこのままシェルター内で過ごすことが出来るだろう。


彼らの自給自足の能力には目を見張るものがある。魔法による水の生成と野菜の栽培によって、彼らの生活は成り立つ。ルーチャが「エイヨウカノカタヨリ」とか「ドジョウノヨウブン」、「セイチョウソクド」について気にしていたが、そう言った点も踏まえて「自身らの概念とは異なるもの」と感じる。やはりここは異世界なのだ、と。

考え出すと「魔女が人間とは違う生き物だから」というものから「この世界の理がずれているから」といったものまできりがない。ともかく今は出来ることをやっていくまでだ。


「魔女のみんなは覚えてるのかな」

ルーチャは近くにいたマドリーに話しかける。

「ねえ、マドリー」

「どうしたの?」

「ネロと会って、どのくらい経ったかって分かる?」

ネロの日記曰く、彼らと会って最期の日記を書くまでの期間は4年ほどだ。年数だけで言えば210年以上たっていれば大方安心して外に出られそうなのだが…

 「そうねえ。ちょっとみんなに聞いてくるわ」

 何気ない質問だが、これはこれからの自身らに関わる重大な話だ。

 これから外に出られるのか、数年間この中で過ごすのかが決定する。


帰ってきたマドリーは言った。

「大体150年ってとこかしら。みんなは143~155年とか言ってたし」

!!!

ギリーとルーチャは愕然とする。ここから出ることは数十年叶わない。魔女にとっては数年の感覚であっても、オレ達は外に出られるころには老人だ。老人に…

「ルーチャってどうなんだ?」

ルーチャもまた異世界人だ。どうなんだろう。

「ギリーと一緒さ。ボクも人間だよ。どっちも50年後には…」

ルーチャは複雑な表情を浮かべている。事実、オレ自身もこれをどう受け止めたらいいのか分からない。ある程度の自由はあるが、数十年間もここに住み続ける、というのはどうなのだろうか。


だが、魔女である彼らはその生活を耐えのびた。いったいどれほど悩んだんだろうか。オレ達の前ではなんともないようにしていたが、彼らの心は計り知れないものがある。

「なあ、バーディ」

ギリーは他の魔女の少年少女の相手をしていたバーディに話しかける。

「どうしました?」

「その…何十年、何百年と出られない場所で過ごし続けるのって…」

「ああ、そういうことですか」

バーディはにこやかに答える。

「たしかに窮屈さはありましたが、家族でいた分マシだったように感じますね。それとネロが来てくれたのが大きかったと思います。」

好青年は続ける。

「彼はいつも悩んでいるようでした。僕らを出すべきか、出さないべきか。その度に言っていたんです。外には親父なんかよりよっぽど恐ろしい奴らがいる、とね。実際、魔女の一族というのは迫害に遭ったりもしました。この軟禁なんかよりもよっぽど恐ろしい拷問にかけられたりした話だってあるんです。だからここは、身を守るための住処でもあったんですよ」

最後に彼は言った

「ただ一つ言うなら、いつでも僕らが操作できるように、とかはやってほしかったとは思います。それは残念ながら、彼がいなくなった後に思いついたんですけどね」

青年の笑顔は、愁いを纏っていた。


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