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異世界へ  作者: 馬子友也
第1章 鳥籠の世界 カフィッグ
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ここは芝の上。毎夜毎夜寝ていた土の上とはモノが違う。自然の織り成す最高級の寝床だ。


見知らぬ土地に訪れ、新たな景色を、人を見ていた二人の興奮はただならぬものだった。しかしそれを上回る疲労。彼らが眠りにつくまでに、数分とはかからなかった。




 「うう…ん」

 少女が目を覚ます。見える景色は土瀝青。朝か夜かもわからない。ここに住み、魔法とともに生きてきた彼らはずっとこんな生活をしているのだ。

 

 「おや、二人とも外で寝ていたんですか?!言ってくれれば寝床の用意もしたのに!」

 家から出たばかりのバーディが慌てて駆け寄ってくる。右手にはハサミを持っている。これから剪定をするのだろうか?「異世界から来た」といった時よりよほど慌てているように見える。魔女とは不思議な生き物だ。

 「ありがとう。大丈夫だよ」

 「でも今度から寝るときは言ってくださいね」

 「はぁい」

 「む…」


 二人がやり取りをするなか、我関せずといびきをかいていた男が声を発する。

 それを見た好青年は声を潜めた。


 「…寝てるんですかね」

 「だと思う。もうちょっと、そっとしといてあげて」

 少女のお願いに、バーディは頷く。

 「分かりました。ルーチャさんはどうします?」

 「もうちょっとここにいるよ。ギリーが起きたらそっちに行くね」

 「そうですか。では彼が起きたらご飯にしましょう」


 そう言って彼は噴水の方へ向かっていく。慣れた手つきでスプリンクラーを開き、植物たちに鋏を入れていく。鉄が弾けあい、生み出されるリズミカルな音を聞きながら、少女はじっと、ただ見つめていた。


 いびきが鳴りやみ、ギリーは目覚める。

 やはり見えるは無骨な灰色。と桜色。

 

「おはよう」

 「ああ、おはよう。どのくらい寝てた?」

 「どうだろう、ここじゃ分からないね」


 少女が首を傾げた。

 庭で作業をしていた青年もギリーの目覚めに気が付く。


「おや、おはようございます」

「おはよう。なあ、バーディ」

 

目をこすりながら、ギリーが聞いた。

 

「ここって正確な時計とかあるのか?」

 「ああ、ありますよ。これからご飯ですし、ついでに案内しましょう」

 

そういって3人は家に入っていった。




 「こっちです」

 

バーディは玄関に入ってすぐ見える鉄でできた方のドアを開けた。中には大きな機械と、それに付随したスイッチ、様々な数値が刻まれた電子パネルが見える。人一人しか入れるほどの余裕はないため、案内される二人はドアの外から内を覗く。

 

「へえ、こんなになってるんだ。魔女の家にこういうものがあるのは意外だね」

 「そうですかね?こんなものですよ」

 

二人がやり取りしているが、ギリーには分からない。彼の家についての知識は、村の簡素なキッチン、テーブル、寝床等が確保されたものと屋敷の部屋程度ぐらいしかないので、こうして人の家を見るたび、様々なものがあるのだなと目をみはるばかりだ。

 

「時間はこれです」

 

示された時間は9時10分を示していた。

 

「電子時計というそうで、正確に時間を示してくれてるはずです」


 これもやはりネロという人物のつくったものなのだろう。「はず」という言葉は、ずれていることも確認はできず、数十年、数百年ここで過ごしてきていたことを物語っている。




 「さて、朝食にしましょうか」


 金属の扉が閉まる重い音を聞きながら、バーディは隣のドアを示した。

 扉を開けば、すでに食事の準備は整っているようだった。

 テーブルには透き通るような透明色のガラスコップと、植物を模した文様の描かれている小さな皿が人数分置かれている。皿の上には、こんがりと焼き色のついた3つの食パンが重ねられている。以前言っていた「トースター」なるものを用いて焼いたらしい。同じパンでもあの頃食べていた小さなパンとはわけが違う。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。それともう一つ、テーブルの中央には薄黄色の物体の入った大きなガラス瓶がある。

 母子はガラス瓶のふたを開け、うちに入っているものを塗り付けていた。


 「それは?」


 マドリーが顔を上げ、にこやかに答える。


 「オギニの実からつくったジャムよ。あなたも食べてみるといいわ」


 そういって、ギリーにジャムの瓶を渡す。瓶の中からふわっと甘い香りがあふれ出す。彼らに倣ってジャムを塗り付けてみる。


 ルーチャが食べる直前に手を合わせ、ぽつりとつぶやく。


 「いただきます」


 皆がそれぞれに食物を口にする。ギリーもパンを一口。

 サクサクッと、焦げ目の付いたパンが心地の良い音を立てて割れる。


 「う、うまい」


 焼きたての、少し触れると熱を感じるパンに、ひんやりとしたジャムがのることでちょうど心地の良い温度で口の中に運ばれる。一口噛めば、歯ごたえのある触感にパンの甘みが駆け抜け、そこに果実の甘みが駆け込んでくる。ただ、おいしい。


 「でしょ?ジャムはパンに欠かせないわ」


 次いでコップに入っている濃茶の液体を飲んでみる。

 苦い。この苦みこそ、甘みとともに立てる味だろう。


 「うっ…砂糖ってある?」


 ルーチャはこの苦みがニガテらしい。確かに、人によって好き嫌いの分かれそうな味だ。

 そうして、4人は朝の食事を終えたのだった。


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