フォレスティア森聖国11
現在、走竜に乗りロックドラゴンに向かい移動している。
乗せてくれる事には感謝しているが、正直乗り心地は良くない。
馬とは違い2足歩行なので、安定せずかなり揺れるのだ。
馬よりも速いので、時間が無い今回は、お世話になるしかない。
『遠視の魔眼』が、歩みは遅くとも、こちらに向かうその姿を捉える。
情報にあった通り、1頭だけ他の個体よりも大きいのがいる。
前衛に4頭、中央に自分、後衛に4頭と、まるでボスを守る陣形を組んでいるようだ。
この事からも、ただの群れではなく、統制のとれた群れである事が分かる。
正面から対峙すると、止まってくれなかった時に危険なので、並走して横から声をかける。
ゆっくり近づいていくと、直接的な攻撃こそされないものの、威嚇の咆哮を上げられる。
耳の良いエルフからすれば、これだけでも耳と頭が痛くなり、少し辛い。
(……なんだお前は?)
(どうか、話を聞いてください)
(ん、我らの言葉が分かるのか?)
(はい。こちらは攻撃の意思も、敵対するつもりもありません)
(ならば、何をしに来た?)
(交渉に来ました。この先にエルフの国があります。進行方向を変えて頂けないでしょうか?)
ロックドラゴンは、止まりこそしないものの、会話には応じてくれる。
話を聞いてくれるなら、上手くいく可能性はある。
(なぜ我らが貴様らに配慮せねばならん)
(食料を渡す用意があります。不要な争いを避けて頂けないでしょうか?)
(同じ事を言わせるな。なぜ強者である我らが、貴様ら矮小なる人間に配慮する必要がある?
この先に国があろうと、我らの進む道の先にあるのが悪いのだ。)
……駄目だ。
言葉が通じて会話が出来ようと、相手がこちらの意見を聞いてくれない。
自分達の強さに余程自信があるのか、負けるという発想が無いようだ。
(戦いが始まれば、こちらは国を護る為、全力です。そちらにも甚大な被害が出る事になります)
(……なんだと!? 脆弱なる人種が、誇り高き我らドラゴンを愚弄するか!!)
ユーリオンの言葉は、群れのボスとして君臨する彼のプライドを傷つけてしまった。
実際に戦闘が始まれば、勝つのは当然エルフだ。
だが、これまで負け知らずだった彼は、その事が分からない。
そして、ユーリオンが彼を怒らせてしまったように、彼もまた、ユーリオンを怒らせる事になる。
(だいたい人種程度が我らの言葉を理解するなど、なんと身の程知らずで傲慢な行為か!!
そうだ、貴様を殺すのは最後にしてやろう。まずは目の前で仲間や家族を殺して喰ってやる。
貴様らが暮らす森も家も何もかもを、我ら全て悉く蹂躙してやろう!!!!)
………母様やエレナを殺す?
……………母様の大事な故郷で、エレナとの大切な思い出の場所を蹂躙?
………………こいつは……なにを………言っている?
食べる為に、生きる為に襲うと言うのなら、納得はできなくても理解はできる。
だが、こいつは嘲笑う為に、ただ愉悦を感じる為に襲うと言うのだ。
ならこいつらには、ただただ消えてもらおう。
【竜種:ロックドラゴン】【レベル:42】
【魔法適正】『光/0』『闇/0』『火/0』『水/0』『土/60』『風/0』『無/40』
【スキル】『土術Lv6』『硬化Lv6』『竜眼Lv3』『竜鱗Lv5』『威圧Lv4』『指揮Lv4』
『自己再生(中)Lv5』
偉そうに言う割には、レベルが50も越えていない。
他のロックドラゴンも28~36くらいだ。
元の防御力に加え、『硬化』や魔法を軽減する『竜鱗』、回復のスキルもある。
ただ、これまで死ににくかっただけで、最強を気取っているのだ。
「交渉は失敗した」
「……では、急ぎ撤退しましょう」
「いや、こいつらはここで殺す」
「ユーリオン様! 交渉が失敗した場合は、撤退する約束です」
「母様達を殺し、あの場所を蹂躙すると言ったんだ。こいつらが1分1秒でも生きているのが許せない」
「………ちょっと兄さん、ユーリオン様ブチ切れていらっしゃるんですが……」
「無理矢理にでも連れ帰るぞ」
ピエリスとアイリスがユーリオンに近づくよりも早く、ユーリオンは下がってしまう。
後列にいる一番レベルの低いロックドラゴンの背に飛び乗ると、走竜には離れるように指示する。
乗られたロックドラゴンは振り落とそうと、身体を揺らしながら暴れる。
揺れる中、ユーリオンはロープにした魔糸を使い、前足、後足を縛って転ばす。
ユーリオンは飛び上がり、普段は自らの身体のサイズに合わせているソウルイーターを大きくする。
重力が加わり、縦回転しながら落下する大鎌は、まさに首を狩るギロチンのようだ。
あるいはボスであれば耐えられた可能性はあった。
しかし、このロックドラゴンでは耐えられず、首を狩られ、あえなく絶命した。
仲間のロックドラゴンが1頭殺された事で、ようやく他のロックドラゴンの足が止まった。
ロックドラゴン達は怒り、ボスも『殺せ!』と命じる。
ユーリオンはロックドラゴンの死体に隠れ、『召喚術』を使いジャックを呼ぶ。
「お呼びでしょうか、主殿」
「ロックドラゴンを全て殺す。手伝ってほしい」
「ご命令承りました」
ジャックは指示に対し、疑問を挟む事をしなかった。
普段は温厚なユーリオンが、ここまで怒りを露にしているのだ。
ロックドラゴンがユーリオンの逆鱗に触れたのだと察した。
ジャックは、縫いぐるみから死体となったロックドラゴンに憑依する。
首の無いロックドラゴンが動き、元は仲間だった者に襲い掛かる。
憑依しても、ほとんどのスキルは使えないが、十分な戦力になっていた。
ピエリスにアイリス、そしてニクスも戦闘には反対だったが、もう手遅れだろう。
足の遅いロックドラゴンから逃げる事は難しくないが、ユーリオンが止まらない。
覚悟を決め、参戦する事になった。
ニクスは身体を大きくすると、最も遠くにいるロックドラゴンに戦いを仕掛けた。
火魔法を放つが、岩石の鱗に『竜鱗』の効果も加わり、効き目はイマイチだ。
一方、ニクスと戦うロックドラゴンも困っていた。
相手の火魔法は耐えられるが、こちらの攻撃がヒラリと空中でかわされ、当たらないのだ。
持久戦になるかと思われたが、ニクスは燃え上がると、ロックドラゴンに突撃した。
ロックドラゴンは捨て身の一撃かと判断したが、それは大きな間違いだった。
ニクスはロックドラゴンの頭に張り付くと、どこまでも燃え上がる。
岩石にも依るが、岩石の融ける温度は1000℃前後だ。
ロックドラゴンは1300℃までならギリギリ耐えられただろう。
だが、幻獣種のフェニックスであり、燃え続ける今のニクスは1500℃だ。
ロックドラゴンの頭は融けて無くなった。
余談だが、この光景を冒険者ギルドの関係者が見たら、勿体無いと嘆く事だろう。
ドラゴンの素材は高級品で、瞳に牙どちらも需要が有るからだ。
しかし今回の戦いは、何かを得る為の狩猟ではなく、ただ殺す事が目的の戦いだ。
この場にいる誰も、素材の事など気にしてはいなかった。
ピエリスとアイリスは、2人で2頭を相手にしていたが、苦戦していた。
ロックドラゴンの攻撃は身軽に避け、鱗の隙間などの柔らかい部分に攻撃を加えていく。
順調なように見えるかもしれないが、動き回り、避けるのにも体力を使う。
一方的にダメージを与えているが、このままでは倒す前に疲れ切ってしまうだろう。
「しかし本当に硬いな、刃毀れしてきたぞ」
「か弱い私は、手も痺れてきました」
「なにが、か弱いだ……」
「どうします? ちょっと危険だけど手はありますよ」
「乗った」
「あら、珍しい」
「ユーリオン様が心配だからな、無理でも無茶でもやるさ」
「では、やりますか」
2人は作戦を決めると、早速実行する。
アイリスが水魔法で霧を発生させ、ピエリスが風魔法で調整し、2頭の視界を奪う。
2頭は邪魔な霧を吹き飛ばそうとするが、なかなか晴れない。
前足や尻尾を振るのでは霧が晴れそうにないと、口を大きく開け吸いこもうとする。
そして大口を開けた2頭の口の中に、ピエリスとアイリスがそれぞれ溜めた魔法を放つ。
身体の外は硬くても、中は違う。
体内をボロボロにされた2頭は絶命した。
「良かったですね、攻撃が飛んでこなくて」
「そうだな、目の良いエルフでも、霧の中では見えないからな」
「じゃあ、他を手伝いに行きますか」
「ああ」
耳の良い2人は音を聞いて避けていたが、霧の中で見えないのはお互い様だった。
体内に放つ為の魔法を溜め始めてからは、霧を維持する余裕も無い。
もしも、別のロックドラゴンから攻撃が来ていたら、結果は違ったかもしれない。
皆が善戦している中、ユーリオンも更に1頭殺していた。
ジャックも1頭殺したので、これで残りはボスを含め3頭になった。




