フォレスティア森聖国10
朝食も食べ終え、今日は何をしようかと部屋で考えていたのだが、外が騒がしい事に気づく。
窓から外を覗くと、慌てて走り回るエルフが多い。
何かあったのだろうか?
ニクスに外の様子を確認してきてもらい、僕は母様の部屋へ向かう。
廊下を歩いていると、母様も僕の部屋に向かっていたようで、合流する。
母様も事態を把握していないようで、2人でお爺様の所へ向かう。
途中ですれ違った者に確認すると、お爺様は会議室にいるようだ。
この国の主だった人物が集まっているらしい。
会議室の前まで来たが、入っても良いのだろうか?
扉の前に立っているエルフに母様が確認する。
母様の席もあるようで通してくれた。
……僕まで入れてくれたし、そこまで悪い事態では無いのだろうか。
中に入ると室内は広く、中央に大きくて長い机と、10人ほどが座れる椅子が用意されていた。
上座にお爺様とお婆様、その最も近くに伯父様と宰相が座っている。
後は知らない者ばかりだが、集められるだけあって偉い者達なのだろう。
母様は、元はこの国の王女でも、現在は他国に嫁いでいる。
なので自分から下座に座り、お爺様とお婆様と向き合う位置になる。
僕は母様の後ろに立とうとしたのだが、母様が僕を膝に乗せる。
準備をしている者が、椅子を追加するか母様に確認するが、母様は不要だと言ってしまう。
この緊迫した空気の中、僕と母様は酷く異物感がある。
現にチラチラと、周囲の者が訝し気に見て来るので少し恥ずかしい。
最後に2人のエルフが入室し、1人が座り、もう1人が背後に立った事で席が埋まる。
これで会議が始まるのかと思ったら、最後に来て座った方のエルフが発言する。
「あ~待ってくれ、これは国家に係わる大事な会議なんだろ? なぜ、アメリア様がいる?」
「貴様それはどういう意味だ!? アメリア様は我が国の王女殿下であらせられるのだぞ!!」
「今は他国の人間だ。国家に係わる事なら、席を外して頂いた方が良いかもしれんだろ?
何の為に集められたのかまでは聞いていないが、他国に漏らされては敵わんからな」
この意見にざわめきが大きくなるが、その音もどこか遠くに聞こえる。
………こいつは何を言っているんだ?
母様がどんな想いで、何のために他国に行ったと思っているんだ。
「大丈夫よ、嫌味くらい気にしないわ」
僕が動くより先に、母様が僕を抱きしめる手を強める。
あいつの発言は許せないが、ここは1度だけ我慢しよう。
「静まれ!! あまり時間が無いのだ。その時を無駄にする事は許さん」
「恐れながら国王陛下、まんぎゃぐぇ」
お爺様が黙れと言っているのに、まだグダグダ言おうとしたので、我慢するのを止めた。
誰にも気づかれないように、透明な魔糸で首を絞めて落とし、強制的に黙らせた。
お爺様がこちらを見て来るので、僕はニッコリ笑う事で答える。
「………どうやら急に倒れるほど疲れていたようだ。誰か運んでやれ」
どう考えても不自然ではあったが、不快に感じていた者は多く、そのまま運ばれていく。
「では、会議を始める。進行してくれ」
「はい、では私から説明させて頂きます」
ようやく会議が始まるが、またすぐにざわつく事になった。
「森の外で偵察している者達が、我が国に向かうロックドラゴンの群れを発見しました」
「ロックドラゴンの群れだと!?」
「数は9頭で、1頭大きい個体がいるらしく、群れのボスかと」
「進路がズレる可能性は?」
「最新の情報でも、真っ直ぐ我が国に向かっており、おそらく3時間もあれば辿り着くでしょう」
「………3時間……」
ロックドラゴンは10mほどの大きさで雑食性だ。
そんなものが森を通れば、人も森も被害が甚大なものになる。
「時間が無いな、方針を決めよう」
「可能なら全て討伐、最低でも森には入れず、撃退する」
「しかし、よりによってロックドラゴンか……」
「ああ、奴らは速さこそ無いが、鱗が硬く普通の矢を通さないからな」
これで慌ただしかった理由が分かった。
会議が終わると、森の外で戦う為、準備するべく僕らを残し部屋を出て行く。
残ったのはお爺様とお婆様、伯父様、そして僕と母様だ。
「まずはユーリオンよ、よくやってくれた」
「……?」
「どうやったのか不明だが、お前が意識を奪った奴の事さ」
「アイツは、アレでも戦闘に関しては実力者でね。ロックドラゴンとの戦闘を考えると、
こちらから注意して、変にへそを曲げられる訳には行かなかったのさ。
私からもお礼を言わせてくれ。ありがとう、スッキリしたよ」
僕がムカついてやった事なので、お礼を言われると落ち着かない。
でも、お爺様達も僕と同じ気持ちだった事に安心する。
「勝てるんですよね?」
「勝利の定義にも寄るがね。少なくとも国が亡ぶような事は無いさ。
数が数だけに、人や森に多少被害も出るだろうが、何とかするさ」
ロックドラゴンはエルフにとって、相性が良くない。
得意な弓矢では傷つかず、効かなくは無いが、水や風の魔法も硬さの前にはイマイチだ。
ハンマーで砕いたり、大斧で切断が効果的だろうが、エルフには向かない戦法だろう。
もしも戦闘が避けられるなら、それに越した事は無い。
一応、提案するだけしてみるか。
「母様」
「駄目よ」
「………」
「……………」
母様が珍しく話も聞いてくれない。
いや、これまでの経験から僕が何を言いたいのか察したのだろう。
「ドラゴン、それも群れよ? 危険すぎるわ」
「戦いに行くのではなく、交渉に行くんです」
「……交渉?」
「はい、もしも食べ物を渡す事で戦闘を避けられるなら、その方が良いはずです」
「もし、話を聞いてくれなかったら?」
「その時は逃げ帰ります。でも、1度くらい交渉の場を設けても良いのでは?」
「…………」
母様が判断に悩むが、戦いになると決まった訳では無い。
居付かれる様なら、結局の所戦うしか無いが、そうならない可能性だってある。
「ユーリオンよ、可能なのか?」
「正直言えば分かりません。あくまでも、会話ができて、交渉のスキルもあるだけなので」
「……それでも、可能性があるなら頼みたい」
「お父様……」
「アメリアもユーリオンも客人だ。本来なら、こんな事を頼むべきではない。
しかし、人と森に被害を出さずに済む可能性があるのなら、それに賭けたい」
お爺様が家族ではなく、国王としての判断をする。
危険が無いとは言えないが、動きの遅いロックドラゴンから、逃げるくらいなら可能だろう。
「承りました、国王陛下」
「……少しでも危険を感じたなら、交渉など放棄して直ぐに逃げ帰るのだぞ」
「分かっていますよ、お爺様。無理も無茶もしません」
どのくらいまでなら食料を出せるかを確認し、出発の準備をする。
僕とニクス、ピエリスとアイリスで向かう。
2人は、戦いになりそうだったら、無理矢理にでも僕を連れ帰るように指示されていた。
スピードが大事なので、エルフが飼っている走竜を借りる。
走竜の見た目はヴェロキラプトルに似ていて、草食らしい。
交渉が上手く行く事を願い、ロックドラゴンの元へ向かった。




