フォレスティア森聖国9
あの休憩の後、採取を再開し、カゴを一杯にしてから戻ってきた。
あれからもリリーとエレナは、取っ組み合いにこそならないものの、
口論したり睨み合ったりと、見ているとハラハラさせられる事が何回かあった。
だけど、リリーの存在は、エレナに良い影響を与えていると思う。
グランファーレル王国にいた頃のエレナは、誰かと口論する事など無かったからだ。
もちろん周囲に同年代の者が、僕しかいない事が原因でもある。
実際エレナが何か言うとしても、アイリスくらいだ。
その特殊な生い立ちのせいで、エレナは他者と揉める事を避けたがる。
もちろん絶対に譲らないタイプは、揉める機会が増えるので問題だ。
だが、自分が悪くない場合でも、譲ってしまうのも同じくらい問題だと思う。
前者に比べれば、後者の方が争いにならない為、賢い生き方に見えるかもしれない。
穏やかな人だと、優しい人だと、良い人だと思われるかもしれない。
だけど、それでは他者に都合の良い様に利用されてしまう。
子供の時からそんな生き方をしてしまえば、歪んだ大人になってしまう。
間違ったって、失敗したって、怒られて反省して、そこから学ぶのが健全な生き方だ。
僕はエレナの主だ。
エレナが何かやってしまったなら、僕が責任を取ればいい。
それくらいの覚悟はある。
今回のリリーとの口論だって、本来なら重大な問題だ。
相手は王女様で、エレナはメイドみたいなもので、立場が違い過ぎる。
もしもリリーがその気になれば、責任を追及できる。
それでも、エレナを止める気にはならなかった。
アコも、そんな僕を察してか、あえて2人を止める事はしなかった。
エレナは気づいていないだろうが、とても生き生きとしている。
………やっぱり、同年代の女の子がいた方が良いな。
何かしら考えておこう。
部屋に戻ると、ハクアのカゴを外してあげる。
小型犬くらいのハクアだが、意外にも力が有り、しっかりと運んでくれた。
撫でながら褒めてあげると、嬉しそうに身体を擦りつけてくる。
成長したが、こういう所はまだまだ子供っぽくて可愛い。
ハクアにおやつ代わりのお肉をあげて、僕は簡単なデザートを作る。
牛乳が無いので、アイスクリームは作れないが、シャーベットは作れる。
わざわざ調理場を借りるほどでもない為、このまま部屋で作ってしまおう。
今回は、果汁の多い柑橘類で作る。
鍋に果汁を絞って温め、そこに砂糖を加えて溶かし、味の調整を行う。
常温になったらストレージにいれて冷やし、40分おきに混ぜるだけ。
ストレージが冷蔵庫と電子レンジ代わりになってくれているので、ほんと助かる。
夕食の前には、ニクスやピエリスも戻ってきた。
結果から言えば、あまり上手くは行かなかったらしい。
ニクスは森の中で火を放つ訳には行かず、鎧姿のジャックも動きづらい。
こっちの採取に付き合えば良かったと、ニクスに愚痴られた。
夕食のデザートに出したシャーベットは好評だった。
作り方は簡単でも、実際に作るとなると普通は難しい。
日本の冷蔵庫ほど高性能では無いからだ。
凍らせる事はできず、冷やして保存する事を目的としている。
魔法を使っても再現は可能かもしれないが、手動で調整しながら冷やすなど面倒すぎる。
温度調整可能なストレージ様様だし、そのスキルをくれた神様にも感謝だ。
夕食の後、母様に許可を貰ってエレナと外に出る。
精霊達に会いに行くためだ。
ニクス達にも声をかけたが、部屋で休むと言われた。
なので、夜というに早く、だけど暗い森の中をエレナと2人で歩く。
状況が少し似ているからか、ふいにヘンゼルとグレーテルの物語を思い出した。
雑談代わりに、エレナに物語を話しながら前回精霊達に会った場所まで進む。
精霊達に声をかけると、小さな光が集まってくれる。
前に来た時よりも暗い為、精霊達がより美しく光って見える。
(来た 来た 来た)
(友達? 友達 友達!)
(約束 約束 約束)
精霊達の声は、エレナには聞こえないが、その美しさは見えている。
「わぁぁ………奇麗ですね」
「うん、この光景を見せたかったんだ」
「……ありがとうございます………時々怖くなるんです……今が幸せすぎて……。
本当は願望で、妄想で、夢なんじゃないか。目覚めた時、辛い現実が待っているんじゃないかって」
僕は右手で、震えるエレナの左手を取り、しっかりと手を繋ぐ。
今が現実だと、目の前の美しい光景が幻想なんかじゃないんだと、伝わって欲しい。
エレナも僕の右手を握り返してくれて、震えが止まったのが分かった。
集まってくれた精霊達に、約束したお菓子として、シャーベットを渡す。
アイスクリームの時と同じく、喜んでくれる。
遠い夜空には輝く星、触れられるほど近くにはフワフワと揺れる優しい光。
僕も、きっとエレナも、この光景を忘れないだろう。




