フォレスティア森聖国8
ドキドキしながら朝食に向かったが、虫料理が無くて安心する。
他人が食べる事は否定しないが、自分が挑戦するのにはまだ早い。
採取に行くメンバーは僕、アコ、エレナ、ハクア、それにリリーだ。
朝食中に採取の話が上がった際、リリーも行くと言い出した。
一緒に来るのは良いのだが、エレナやハクアを傷つけてほしくない。
なので、ヒューマンやアラクネだからと、文句を言わない事は約束してもらった。
ニクスやジャックも一緒に来ると思っていたのだが、2人は別行動になった。
狩りに行きたいらしいので、ストレージからジャックの鎧を取り出す。
狩ってはいけない生物を狩ったらまずいので、ピエリスも一緒に行くようだ。
今日のエレナは、動きやすい格好でポニーテールにしている。
ここでは、瞳や髪を隠す必要が無いので、そこは安心できる。
なら、ここはエレナにとって安全で安心できる場所かと言えば、そうはならなかった。
ヒューマンだからと、無差別に襲うエルフはいないと思うが、頭と心で別々の判断をする事もある。
これまでの経緯で、ヒューマンに対して良くない感情を持つエルフは少なくない。
実際にヒューマンから被害を受けているので、偏見とは言えないだろう。
ヒューマン全てが悪いわけでは無いが、イメージを改善するには時間がかかりそうだ。
エレナは何一つ悪くは無いが、ヒューマンな事実は変わらない。
ここでも結局、エレナを1人で自由に行動させる事が出来ない事に悔しさを感じる。
頑張って僕の領地たるフェニックス領を、偏見や差別の無い場所にしたい。
肌が見えず動きやすい恰好に着替える。
肌を出していると、通気性は良くても、森の中では、葉や枝などで傷つくからだ。
肌が傷つけば、そこから菌が入る可能性だってある。
異世界だろうと、森をなめてはいけない。
準備を終えて部屋を出ようとした所で、アコがやってきた。
「ユーリオン様、お着替えをお持ちしました」
「着替えならもう………それは?」
「ぜひ、こちらに着替えて頂きたかったのですが」
アコが手に持っている服は、フリルのついた可愛らしい子供用のドレスだ。
とても森の中を移動するのには不向きだし、なにより女の子用の服だ。
「………お引き取りください」
「安心してください! これは私の御下がりなどでは無く、アメリア様の御下がりです!!」
「いや、そこは心配していないよ……」
というか、物持ち良いな!!
残念そうにするアコには悪いが、母様の御下がりを着る予定は無い。
すぐに出発の準備をするように指示を出す。
エレナの方を見ると、ちょっぴり残念そうな表情を浮かべていた。
………まさか、エレナも見て見たかったのか?
外に出ると、子供でも背負えるサイズの竹編みカゴを背負う。
今回は、ストレージには入れず、この竹編みカゴを使う。
ストレージは便利だが、ストレージに入れて行っては雰囲気を楽しめない。
重さを感じるし、不便なのだが、それも採取っぽくて良いと思う。
ハクアも背負いたいのか、自らの背に乗せるが、不安定で動くと落としてしまう。
(主様………)
(大丈夫、任せて)
ハクアの背に竹編みカゴを乗せた後、落ちないようにカゴの底とハクアを結ぶ。
ハクアの背中は平らじゃ無いので、多少揺れるが、暴れなければ大丈夫だろう。
(ありがとうございます。いっぱい運んでお役に立ちます)
(うん、でも無理しないでね)
アコとリリーも来たので、出発できそうだと思ったら、リリーがエレナに近づく。
「あんた名前は?」
「え、エレナです」
「ユーリオンの何?」
「ユーリオン様のメイド見習いです」
「……ふーん……ま、いいわ」
ヒューマンだからと、絡まれるかと警戒したが、約束は守ってくれるようだ。
アコを先頭に出発する。
リリーは先頭に立って色々言うタイプだと思っていた。
だが、意外にも文句も言わず、後ろから大人しく付いてくる。
時々、観察するような視線を向けてくるが、まあ、それくらいなら構わない。
欲しいと思った物は、アコに確認しながら採取をしていく。
料理用だけでなく、薬品に使えそうな物も採取する。
僕自身は、辛い物は好きでも得意でも無い。
でも、そのうち使うかもと、ハバネロを採取して良いか確認すると、慌てたアコに止められる。
「ユーリオン様! それに触れてはいけませんっ!!」
「え、採取しちゃダメなの?」
「それは毒が有り、危険なので絶対に素手で触れてはいけません」
………毒?
鑑定を使って食用可である事を確認してから、アコに聞いている。
確かにハバネロを素手で触るのは危険だが、毒は無い筈だ。
「エルフは、ハバネロを食べないの?」
「え……ヒューマンはこれを食べるのですか?……イカれてますね」
調理方法が分からなければ、素手で触るのも危険な植物を食べようとは思わないか。
王都でもハバネロは見た事が無いので、一般的には毒と認識されているのかもしれない。
エルフも野生動物も食べていないので、たくさん収穫できた。
アコは引いているが、ハバネロだって立派な食材だ。
何か作って毒という認識を変えよう。
と言っても、基本的にメインとして使う食材ではない。
ソースを作るか、細かく刻んで味のアクセントにするかかな。
変わった物はハバネロくらいで、後は普通にハーブや木の実、果実や野草を採取した。
カゴが半分くらい埋まった所で、シートをひいて休憩する。
ストレージから冷えた果実水とお茶も取り出し、好きな方を渡す。
新鮮で瑞々しい果実を森の中で食べていると、癒される気がしてくる。
半分はエルフだからか、森の中はとても居心地が良い。
けっこう歩いたので、エレナの奇麗な髪が乱れていた。
1度目に入ると気になってしまう。
「エレナ、おいで」
「? はい」
「髪が乱れちゃってるから、整えるね」
「あ、ありがとうございます」
ストレージから櫛を取り出して、丁寧に髪を梳く。
人前だからか、エレナが少し恥ずかしそうだ。
「あ、あんた何してんのよ!?」
「え? 見ての通り、髪を整えているだけだよ」
「レディの髪に男が触るなんて、イヤらしい!!」
まあ、年頃のレディに同じ事はできないだろうが、僕らは子供だ。
……そんな過剰に反応する事だろうか?
リリーの事は一旦置いておいて、エレナの髪を梳く。
せっかくなので、リリーと同じツインテールにしてみる。
可能性は低いが、これをきっかけにエレナと仲良くなってくれないかなぁ。
残念ながら、へそを曲げたリリーは、そっぽを向いてしまう。
エレナには女の子の友達ができて欲しいのだが、リリーとは立場も違うし、難しいか。
もう少し休もうと、仰向けになる。
すると、エレナが僕の頭を持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。
「……ちょっと恥ずかしいな」
「私もです。でも、してみたくて……お嫌でしたか?」
「………嫌では無いよ」
「でしたら、このまま休んでください♪」
「でも、これじゃエレナが休まらないよ」
「そんな事はありません! 一生このままでも良いくらいです」
一生このままは、僕も困るなぁ。
でも、せっかくのエレナの好意だし、少し甘えさせてもらおうかな。
「あ、あ、あんた達なにしてんのよ!?」
「ズルいです! 羨ましいです! 代わってください!」
「そう、ズルって違うわ!! 女の子の足を枕にするなんて、イヤらしいわ、変態よ!!」
またリリーが騒ぎ出す。
まあ、膝枕はちょっと反応するのは分かるが、アグレッシブな割に意外と潔癖だな。
あと、アコは遥かに年下のエレナに嫉妬を向けるのは、どうかと思う。
「ユーリオン様はイヤらしくも、変態でもありません! 訂正してください!!」
「女の子にベタベタして、変態よ変態だわ」
「また言いましたね! ユーリオン様を悪く言わないでください!!」
「なによ!?」
「なんですか!!」
エレナが本当に珍しく声を荒げて怒る。
仲良くは無理そうだが、対等な喧嘩友達になってくれたら良いなぁ。
2人の喧騒を横に、休みながら思うのであった。




