フォレスティア森聖国7
「フラれちゃいましたね」
「……おかげさまでね」
また強烈な一撃を貰った事は腑に落ちないが、元気になったので良しとしよう。
痛みも引いてきたので、僕達もそろそろ戻ろうかな。
アイスクリームが乗っていた器を回収し、精霊達にお別れを告げる。
(また来てね 約束 約束)
(アイス アイス アイス)
(ごめんね、アイスは材料が無くて作れないんだ。今度、代わりのお菓子を持って友達と来るよ)
(残念 残念 残念)
(友達 大事 友達)
(楽しみ 楽しい 嬉しい)
精霊達は光になると、僕の周りをグルっと回った後、離れて行った。
せっかく森に来たので、帰り道がてら採取もしておきたい。
しかし、この森はエルフのものなので、勝手に取るのは駄目だろう。
半分はエルフでも、もう半分はヒューマンなので、問題を起こしてはいけない。
なので、鑑定を使って確認し、調べるだけにしておく。
もしも許可が貰えたのなら、別の日に採取しよう。
紫のキノコや赤黒い花が食用可だったり、薬品に使えたりするので驚く。
なのに、食べられそうな植物に毒があったり、熱を加える事で有害になったりする。
安全第一で、鑑定を絶対に使ってから使用しよう。
城に着くと、アイリスはエレナ達の方に、僕は母様達の所へ戻る。
母様達はトランプで遊んでいたが、リリーの姿は見えない。
「リリーは戻っていないのですか?」
「いや、少し前に戻って来たよ。今は部屋に戻っているはずだ」
「そうですか」
「顔を赤くしながら戻ってきたが、何かあったのかい?」
「……今度は右頬をぶたれました」
「なんで!?」
………本当になんでだろうなぁ……。
前回はアコ、今回はアイリスが悪いと思うのだが、被害を受けたのは僕だ。
まぁ、僕は精神的には大人だし、子供のした事に怒るのも大人げない。
懐かない猫に引っ掻かれたとでも思っておこう。
「すまないね、まさか2度も。後で言い聞かせておくよ」
「また飛び出されてもアレなので、あまり強くは言わないでくださいね」
「……君は本当に良い子だね」
「母様の子ですから」
………ちょっとクサかったかな。
みんなが微笑ましいものを見る目で見てくる。
空気を変えようと、採取について相談する。
「取りすぎなければ、採取するのは構わん。ただ、貴重な物もあるので、それは控えてほしい」
「そうね、採取に詳しい者……アコニートゥムが一緒なら、採取に行っても良いわよ」
お爺様とお婆様に許可を貰えたので、これなら問題にはならないだろう。
それにアコも一緒に来てくれるなら、採取不可な物を取らずに済む。
後は、ハクアやジャック達も紹介しておかないと混乱を招く。
既に母様が話を通しておいてくれたようで、スムーズに進む。
エレナやニクス達を連れてきて紹介する。
「………ユーリオンは恐れ知らずだな」
「みんな良い子たちですよ?」
「偏見を持たず、相手を見て判断する………簡単なようで、とても難しい事だ。
それができるお前だからこそ、慕う者が集まってくるのだろうな」
ニクスや普段は縫いぐるみに入っているジャックは、見た目は誤魔化せる。
でも、ヒューマンのエレナやアラクネのハクアは、紹介しておかないと危ないかもしれない。
国王であるお爺様の方から、手を出さないよう、他のエルフ達に伝えてもらえる事になった。
これで、絶対では無いが、ある程度は安全だろう。
夕食の時間になると、グランファーレル王国では見かけない料理が多数並ぶ。
森の中という事もあり、木の実やキノコ、野草を使った料理が多い。
鹿の肉は初めて食べたが、エルフがエルフの為に作った物なので、美味しい。
血抜きをしっかりしていて、香草なども使っているので、臭みは感じない。
色は赤ではなく緑色だが、エビチリみたいな料理が目につく。
この世界に来てからは、1度もエビを食べていない。
ここから海は離れているし、川エビだろうか。
海外では、日本とは違い、魚介類を生で食べる事が少ないのは有名な話だと思う。
日本では普通でも、タコやイカなんかを食べるのは、気持ち悪いと思われていたりする。
逆に日本では、爬虫類や昆虫を食べる文化は少数だ。
ハブ酒やイナゴの佃煮、蜂の子くらいなら、聞いた事はあるかもしれない。
近年では、ネットやテレビの影響で、栄養価の高い昆虫食に注目されたりはしていた。
だが、興味本位やネタとして食べる事はあっても、定期的に食べる者は少数のハズだ。
『文化』とりわけ食事というものは、そう簡単に受け入れられるものではない。
サバイバル生活などの危機的状況でなければ、普段口にしない物は食べないだろう。
例え、頭では食べられると分かっていても、躊躇してしまうものだ。
そう、頭では分かっているのだ。
食べた事が無いので、味や食感は知識にしかないが、食べても問題は無い。
何が言いたいかと言うと………エビではなく、虫の幼虫だったのだ。
カブトムシの幼虫くらいのサイズだ。
日本にいた頃、芸能人がアフリカに行き、部族と一緒に昆虫を食べるシーンを見た事がある。
自分が食べたいとは思わないが、食べる部族に対して気持ち悪いとは思わなかった。
他者を害さない文化は、否定されるべきではないと思っている。
………実はドッキリで、エルフジョークって事に期待し、周囲を見る。
お爺様やお婆様、伯父様やリリーも当然のように食べている。
母様も普通に食べているので、残念ながらドッキリでもジョークでは無いようだ。
アレルギーは仕方ないが、そうでないなら食わず嫌いは良くないと思う。
食べてみたら意外と美味しかったなんて事は良くある。
子供の頃苦手だった野菜も、大人になれば食べられるなんて事も多い。
僕は目を閉じて精神を落ち着かせ、覚悟を決める。
ごちゃごちゃ考えるから、悩んで困ってしまうのだ。
目を開けたら思考するより早く、口に入れてしまえばいい。
目を開くと、フォークを右手に持ち、対象に狙いを定める。
………駄目だった……刺す前に、刺して汁が飛び出たらと、想像してしまったのだ。
どうしても食べる事ができなかった僕は、初めて料理を残した。
いつか強くなったら、再び挑戦しよう。




