今の自分にできること
屋敷の自分の部屋へ戻ると、先ほどルシウスに言われた芸について考える。
王族とはいえ3歳の子に対する期待はそれほど高くは無いはずだ。
とはいえ、1流の執事を目指す身ではあるし、生半可なものは見せたくない。
前世でならば、手品も勉強していたが、魔法のある世界では、魅力的では無いだろう。
自分のスキルを見ながら考えようとステータスを表示する。
「ステータス」
【名:ユーリオン】【種:ハーフエルフ】【性:男】【年:2】【レベル:1】
【魔法適正】『光/5』『闇/5』『火/5』『水/10』『土/5』『風/10』『無/20』
【称号】『王族(グランファーレル/フォレスティア)』
【加護】『???の加護』
【スキル】『魔力操作Lv4』『魔力具現化Lv4』『魔糸操術Lv4』『算術Lv6』
【EXスキル】『記憶継承』『言語理解Lv1』『ストレージLv1』『鑑定Lv3』『隠蔽』『???』『???』『???』
【魔法適正】とは以前にも触れたが、その属性が使用可能かの情報だ。
『0』の場合はレベルが上がっても数字が増える事は無く、最大値は『100』
『70』を超えれるかが1流の壁となっており、『90』を超えるような者は神の加護を持つか、神に創造された種族くらいだと言われている。
【称号】とは、勇者や聖女などの特別な存在か、王などの選ばれた者が得られる。
称号によっては恩恵もあるが、逆に魔法適正やスキルに損害を与えるものもあるそうだ。
【加護】神や一部の幻獣種に認められる事で、得られるもの。
基本的に恩恵しかないが、簡単に得られるものではない。
【スキル】には鍛錬で得た能力か、レベルアップ時に得た能力が表示される。
努力次第でレベルも上げる事が可能で、スキルの最大値は『10』である。
例えば剣術を学び最低限使えれば『剣術Lv1』がステータスに表示される。
スキルにもよるが『3』あれば役に立ち、『5』を超えれば優秀と言われる。
【EXスキル】とは生まれ持った資質が重要であり、後天的に得る事はほぼ無いそうだ。
通常のスキルのように努力次第で入手できるものとは違う。
なので、強力だったり、便利な能力が多い。
僕のステータスを見ると、名前や効果不明な『???』がいくつかある。
加護に関しては、転生させてくれた神様の加護だろうと考えている。
名前が分かれば『???』表示では無くなるはずだ。
スキルに関しては大分思うところがある。
赤子の頃から必死で鍛錬してる魔糸関連なのに、算術のスキルレベルの方が高い。
僕が『6』なのは地球で数学を学んで、それなりの知識があるからだろうか。
EXスキルにある複数の『???』については全くわからない。
僕自身のレベルが『1』だし、上がれば表示されるのか、条件を満たす事で表示されるのか。
考えても答えが出ないだろうし、今は分からないままにするしかない。
分かる部分は下記の通りである。
『記憶継承』:生まれ変わったとしても魂に学んだ経験や知識、記憶を刻み忘れない。
前世での経験や知識があるのにスキルが少ないと思うだろうが、これには理由がある。
例えば前世で学んだ格闘技「空手」「柔道」、家事で言えば「料理」「清掃」などがあるが、
3歳程度の肉体では再現できないからだ。成長すればスキルも増えるはずだ。
『言語理解』:言葉だけでなく文字も理解させてくれる。
このスキルのおかげで言語関連で苦労せずに済んだ。
レベルがあるという事は上がる事で会話可能な種族も増えるのだろうか。
『ストレージ』:亜空間に対象とした物を収納し、また取り出せる。
まだレベルが1なので、亜空間の大きさはスーパーの買い物カゴくらいで小さい。
『鑑定』:対象の情報を見る事ができるが、情報の内容はレベルに依存する。
最初はレベル『1』だったのだが、本などで知識を増やすうちに上がった。
レベル『3』だと、魔力を持つ生物を鑑定しても、重要な情報は得られない。
『隠蔽』:ステータスにある情報を任意で隠す事ができる。
このスキルはかなり重要だと思う。
鑑定された時にEXスキルを見られれば、一発で転生者とバレる。
現在は全てのEXスキルを隠している。
誰かに鑑定される可能性もあるし、手札は隠しておいた方が良さそうだ。
うーん、自分のステータスを見ながら色々考えてみたが、今の身体でできる事は少ない。
やはり魔糸関連で何とかするしかないだろう。
参加者全員を楽しませるのは無理でも、子供にターゲットを絞れば何とかなる気がする。
子供が喜べば釣られて、連れてきた大人も喜んでくれるはずだ。
今では、魔糸をシンプルな色になら変えられるし、性質を毛糸にして何か編もうか。
手のひらに乗るような小さな「あみぐるみ」を用意すれば子供にはウケるはず。
実際に毛糸で「あみぐるみ」を作ろうとすれば大変だろう。
でも魔法で作るのだから必要なのは集中力とイメージ、それに魔力だけである。
頭の中では作れると確信しているが、ぶっつけ本番で失敗はしたくない。
何か作ろうと思ったが、せっかくなので母の元へ向かう。
「お母様、少しいいですか」
「ええ、大丈夫よ」
「なにか好きな動物はいますか?」
「……鳥……かしら?」
「わかりました。少々お待ちください」
そう言って僕は集中する。
この世界でも鳥とはいっても様々な種類が存在する。
「あみぐるみ」だし、そこまで精巧に作る必要性も無い。
翼を広げた鳥も考えたが、それより止まって休んでいる小鳥の方が可愛いだろう。
僕は毛糸をイメージしながら魔糸を出し、時に色を変えながら小鳥の形を編んでいく。
実際に編んでいるのではなくイメージなので、3分ほどで小鳥の形にできた。
「よろしければどうぞ」
「……くれるの?」
「はい、気にいってくれ」
言葉の途中で母が抱きしめてくれた。
普段はあまり感情を表さない母だが、これは喜んでくれたようで僕も嬉しい。
「うれしいわ。ありがとう」
「明日のパーティーで披露しようと思うのですが、喜ばれるでしょうか?」
「……ええ、みんな驚くと思うわ」
「ありがとうございます。自信が付きました」
用意しておくよりも、リクエストを聞いてから作る方が喜ばれると思う。
なので、部屋に戻り動物の図鑑を見直す事にする。
「それでは部屋に戻ります」
「……ええ、無理はしないでね」
「はい、わかりました」
そして僕は自分の部屋へ戻った。
side:アメリア
「……なぜ急に見世物など?」
ユーリオンが、ルシウスに余計な事を言われた事を知らないアメリアは疑問に思う。
あの子は優秀だけど、目立ちたがり屋ではない。
……向こうで何か言われた?
少し苛立ったが、手の平にある小鳥を見ると、心が落ち着いていく。
あの子からの初めてのプレゼントだ。
嬉しくないはずがない。
私たちエルフは長命種だからか、他種に比べると、感情の起伏が少ない者が多い。
だけど小鳥を貰った時、言葉の途中だったのに我慢できず、抱きしめてしまった。
「……何か言われていたとしても、きっと大丈夫ね」
おそらく前日に見世物を用意させる事で、あの子に恥をかかそうとしたのだろう。
アリアノールか、その子供か、誰が言ったのかは分からない。
でも、先ほどの光景を見れば何の心配もない。
あれと同じ事をできる者が、この世界にどれだけいるだろうか。
ユーリオンの誕生日を祝いたい気持ちは誰よりもある。
でも、人前に立たされる、あの子の気持ちを考えると、少し憂鬱なパーティーだった。
だけど今は違う。
大勢の者に評価される、あの子の姿を見れると思えば、むしろ楽しみになった。
小鳥を撫でると、ふわふわの触り心地に顔がほころぶ。
そして子供からの初めてのプレゼントを自慢したくなったアメリアは
嫁入りする時に使用人として付いてきてくれた友人の元へ向かうのであった。