フォレスティアへの道中1
王都を発ってから1日が経過した。
流石に王都周辺は人通りが多い為、賊やモンスターは少ない。
絶対に安全という事は無いが、襲う側もひと気が無い方が都合が良い。
今の所、襲われる事も無く、安全に移動できている。
フォレスティアまでは、普通に移動すれば、馬車で4、5日の距離にある。
急ぐ理由も無いので、馬には無理をさせずに行く予定だ。
昨日の夜は、繊細そうな母様が野宿で眠れるか心配だった。
だが王族とはいえ、元々は森に住んでいたのだ。
虫を見ても悲鳴を上げる事は無いし、野宿でも、ちゃんと眠れたようだ。
昼食と休憩を兼ねて馬車を止める。
普通なら馬に水分を取らせる為、水場で休憩する必要がある。
だけど、魔法で水を用意できるので、場所に拘らずに休憩できるのは、この世界の利点だ。
知っている人は多いと思うが、馬は甘党だ。
与えすぎると糖尿病になるが、ご褒美にリンゴやニンジンを食べさせる。
そうやって休んでいると、微かに女性の悲鳴が聞こえてきた。
他人事だと放置する事はできない。
自分達の進行方向から聞こえてきたので、どのみち状況を確認する必要がある。
僕、ピエリス、ニクスで確認に向かう。
走りながら遠視の魔眼を使用すると、上半身裸の男達と、女性数人が見えた。
賊が女性を襲っているのだろう。
手遅れになる前にと、魔眼を切り、スピードを上げる。
現場に着くと、自分達に注意を向けさせる為、声を出す。
「大丈夫ですか!」
その場にいた全員がこちらに視線を向ける。
上半身裸で横一列に並んだ男が6人、杖や剣などの武器を持った女性が4人いた。
男達の年齢はバラバラで、下は10代後半から上は30前後。
女性の方は10代後半から20代前半くらいだろうか。
野菜を乗せた荷車と、それを引く牛もいるので、輸送中に襲われたのだろう。
「「た、助けてください!!」」
僕は、こけそうになった。
女性達の前に移動しようとしていたのに、何故か男性側から助けを求められたからだ。
「イケメンエルフに、可愛らしいショタまで来たよ」
「まさに、とっても気に入る夏と串だね」
「姉御、それを言うなら、飛んで火にいる夏の虫です」
「はいはい! あたし、ショタ君もらい!!」
……これ、どういう状況だ?
もしかして、襲っているのは男性側でなく、女性側?
「……女性の悲鳴が聞こえたのですが」
「俺達、突然襲われたんです。それで、なすすべもなく」
「上を脱ぐように指示されまして……その時の歓声かと」
上半身裸の男達だったので、賊と決めつけてしまっていた。
考えてみれば、魔法もある世界なので、女性でも男性より強くなれる。
男性を襲う女性がいても、おかしくは無いか……無いか?
「わざわざ来てくれてすまないね。すまないついでに、大人しく捕まってもらおうか」
「あたしが、たぁーっぷり可愛がってあげるわ♪」
「さあ、まずは武器を捨てて服を脱ぎな!」
女性に襲われるという初めての事態に、頭が混乱する。
彼女たちを捕まえるべきなんだろうが、女性と戦うのは紳士的にどうなんだろう。
敵意は感じても、殺意を感じないので、対応しづらい。
「……ユーリオン様、戻りましょうか」
「いや、そういう訳にも行かないでしょ……気持ちは分かるけど」
ピエリスが遠い目をしている。
性的に狙われる事に忌避感を抱くが、見なかった事にはできない。
……とりあえず、5歳の少年に発情している、あの女性の相手だけはピエリスに任せたい。
ピエリスが剣を抜くと、向こうも構える。
姉御と呼ばれている両手剣の女性がリーダーなのだろう。
後は片手剣が2人と、僕に熱烈な視線を送ってくる、杖を持つ女性の4人組だ。
「おいおい、まさか本気でアタイらと戦り合うつもりかい?」
「あんた等、あたし達が誰だか分かってんのか」
「ぼくぅ、こっちへおいで。ここは危ないから、あっちでお姉さんと楽しい事しよう♪」
「お前たちの事など知るか」
「良いねぇ、若くて生意気な男はタイプだよ」
「ピエリス、奥の杖使いをお願い。ニクスは母様達の所に戻って、問題ない事を伝えてくれる?」
(わかったわ。伝えたら戻ってきて、空から周囲の警戒をしとくわ)
さて、どうしよう。
首を絞めるのも、首や腹に一撃を入れるのも、気が引ける。
そもそも、首や腹に一撃を与えても、本当に気絶するのかは疑問に思うが。
剣士3人がこちら、というかピエリスの方に向かってくる。
ピエリスは3人とは斬り合わず、そのまま奥の杖使いに向かう。
3人は方向転換し、僕に背を向け、ピエリスを追おうとする。
まあ、見た目は子供なので、放置しても問題無いと判断されたのだろう。
こちらとしては、なめられている方が余計な怪我をさせずに済むので、ありがたい。
僕は背を向けた3人に両手を伸ばす。
両手の指から魔糸を伸ばし、それぞれの両足を縛る。
急に足を縛られたので、3人とも転んでしまうが、剣を地面に刺す事で、顔面着地を回避する。
次に両手の手首を縛ると、エビのようになりながら暴れまわる。
ギャーギャー文句を言ってくるので、防音の結界の中に閉じ込める。
ピエリスの方を確認すると、剣を地面に刺し、片膝をついていた。
まさか、一番の手練れは、あの杖使いの女性だったのか!?
「加齢臭キツイおっさんが近寄ってくんじゃねーよ。臭すぎて死んだら、どーすんだよ。
だいたい女の子に剣を向けるとか、サイテーすぎてマジ論外。お前モテねーだろ。
1人であたしん所向かって来るとかさぁ、なに、あたしの身体狙ってんの?ほんと無理。
ずっとだんまりだけど、もしかして、クール気取り?寡黙な男がカッコいいとか思ってんの?
それ勘違いだから。まともにお喋りもできない男とか、ただのコミュ障だから死んどけよ」
ピエリスがあまりにも酷い攻撃、いや口撃を受けていた。
真面目なピエリスは聞き流したり、暴力で解決する事もできず、言われるがままだ。
もう止めて! ピエリスのライフは『0』よ!?
こちらに気づいた杖使いが口撃を中断する。
「あれ、みんな負けて縛られちゃってんじゃん」
「降参してください」
「なぁに、その年でもう縛りプレイに興味があるの?……いけない子ね。
仕方ないから、お姉さんが付き合ってア・ゲ・ル♡」
ピエリスに対する辛辣さとは違い、ねっとりとした微笑みを向けてくる。
ヒィー! ショタコン怖い。
「待て、ユーリオン様に近づくな!」
「うるせー喋んな! 口臭きついんだよ、ドブ沼で口洗ってこい!
美少年は世界最大の宝なんだよ! 戦場に連れてきやがって、傷でも付いたらどーすんだ!?
ふふふ、ユーリオン君って言うんだね。こんなドブ男置いて、お姉さんと行きましょ。
大丈夫、何も心配いらないわ。成人するまで、お姉さんが養ってあげる♪」
ヒィー!……名前を覚えられてしまった……。
ただでさえ、精神的にボロボロにされていたピエリスは、真っ白に燃え尽きている。
オーバーキル、死体蹴り、ダメ絶対。
身の危険を感じてしまい、最速で厳重に縛って捕らえる。
これ以上彼女を喋らせると、色々危険なので、結界の中に急いで入れる。
「……ピエリス、大丈夫?」
「臭いが移りますので、離れた方が良いですよ……」
「滅茶苦茶気にしてる!?」
早くピエリスを休ませてあげなければ!
男たちも戦闘が終わった事に安堵し、ようやく服を着る。
「この度は助けて頂き、真にありがとうございました!」
「ぜひ、お礼をしたいので、村に寄って行ってください」
「……逆レ……ゴクリ……」
村の場所を聞くと、進行方向からはズレていたので、今回は遠慮させてもらう。
1人少しだけ残念そうにしている男がいたが、聞かなかった事にする。
「あのー、逃げられてますよ」
「え?」
結界の中には既に誰もいない。
ショタコンに対する恐怖心から、適切な対処ができていなかった。
手足を縛っていた糸を燃やされ、逃げられたようだ。
空を飛んでいるニクスから追跡するか聞かれるが、もう関わりたくない。
今後、一生出会いたくないし、なんなら今日の事を忘れたいし、無かった事にしたい。
せめてものお礼にと、積んでいた野菜を渡されたので、ありがたく頂く。
彼らと別れ、傷心中のピエリスを連れて戻る。
「お帰りなさい、ケガは無いようね」
「外傷は無いのですが、精神的ダメージを受けました。特にピエリスがボロボロです」
「兄さんったら、だらしないわね」
「……俺なんか……」
「兄さんも護衛なんだからしっかりしてよね、めんどくさい」
「!……くさい……そうか……妹にまで……」
「駄目だよアイリス、『くさい』は今、禁句なんだ」
「んもう何があったんですか?」
重症のピエリスを休ませた後、何があったのか説明した。
そう、ある意味これまでで最も恐ろしかった敵について。




