サイドストーリー/エレナ
side:エレナ
今日は、ユーリオン様とアイリスさんと一緒に、モンスターと戦いに行きます。
元々はアイリスさんと2人の予定でしたが、魔石が欲しいユーリオン様も行く事になりました。
理由は何であれ、ユーリオン様と一緒にいられる時間が増えて嬉しいです。
これまでは、アイリスさんと時々ピエリスさんに、お庭で稽古をつけてもらってました。
私には剣と弓の才能が無いようで、身についたのは短剣と槍です。
短剣は軽くて使いやすいのに、剣は重くて振り回せません。
槍も重かったのですが、ユーリオン様が私用の槍を用意してくれました。
その槍は、市販の物より軽かったので、きっと良い物なのでしょう。
私の身体に合わせて作られていたので、長さも丁度良い感じです。
アイリスさん達に最初に覚えさせられたのは攻撃ではなく、防御でした。
攻撃はできるだけ避ける。
防ぐ場合も受け止めたり、押し返そうとせず、受け流す事。
攻撃の型もいくつか習っていますが、実戦となると、やはり不安です。
出発前にユーリオン様が髪を結ってくれます。
私は、大好きな人が髪に触れてくれる、この時間が一番好きです。
街の外まで行くと、ユーリオン様がニクスを飛ばします。
空からモンスターを捜してもらうみたいです。
ニクスが見つけたのは、熊とカマキリのモンスターです。
少し考え、私はカマキリの方を選びました。
力の強い熊の攻撃を受け流せるか、分かりません。
熊は脂肪も厚いので、槍を刺しても、なかなか致命傷にはならないと思います。
それなら、カマキリの方が戦いやすいはずです。
それから少し進むと、カマキリのモンスターが5匹もいました。
これから殺すか、殺されるのかと思うと、怖くて身体が震えます。
でも、アイリスさんに声をかけられた事で、気合いを入れ直します。
アイリスさんが2匹、ユーリオン様が2匹抑えてくれます。
これで残りは1匹となるので、私は目の前の1匹に集中できます。
戦う前は怖かったけど、戦っていると、もっと怖いです。
訓練と実戦の違いが、ようやく分かり、理解した事で動きが鈍くなってしまいます。
訓練では怪我をする事があっても、命を失う事はありません。
でも、実戦は殺し合いです。
私が相手を殺そうとするように、相手も私を殺そうとしています。
命を狙われた事で、両親と一緒に逃げた時の事を思い出してしまいます。
まだ戦い始めたばかりなのに、呼吸が乱れます。
呼吸が乱れる事で、余計に体力も消耗してしまう。
なぜか、カマキリの攻撃が急に激しくなりました。
さっきまでは反撃もできていたのに、今は防ぐので精一杯です。
私は仕切り直そうと、一旦下がり距離を取ります。
カマキリは追いかけてくる事をせず、その場で両手の鎌を振り上げました。
戦闘が始まる前、ユーリオン様が言っていた事を思い出し、私はとっさに横に転がります。
カマキリはユーリオン様が言っていたように、風の刃を飛ばしてきました。
もし聞いていなければ、何も知らない私に直撃していたかもしれません。
距離を離してしまった事で、私は益々防戦一方となってしまいました。
幸いにも風の刃は連続では撃てないようで、7秒ほどは飛んできません。
怖くて怖くて仕方ありません。
次に風の刃を避けたら、その間に逃げられるんじゃないかと考えてしまいます。
でも、ここで逃げたら、1度でも自分を甘やかしたら、もう戦えないかもしれない。
私はカマキリを睨み、その両手の鎌に注視し、タイミングを計ります。
風の刃が放たれる瞬間、下がるのでも、横に避けるのでもなく、前に進みます。
風の刃は速いけど、真っ直ぐにしか飛ばない事は、何度も撃たれて分かっています。
私は風の刃を掻い潜り、勢いに乗せた槍を突き刺します。
モンスターは生命力が強いので、簡単には死にません。
槍が首に刺さってもカマキリ死なず、両手の鎌を振り上げます。
私はそれが振り下ろされるより前に、全力で槍を振り切り、その場を離れます。
カマキリは首が落ちた後も、なかなか死にませんでした。
死ぬまで、見えない私を捜すように、両手の鎌を振り回していました。
動かなくなった途端に腰が抜けてしまい、その場に座り込んでしまいます。
まだ全部終わったわけじゃないのに、油断しちゃいけないのに、頭がボーっとします。
ユーリオン様は駆け寄って来てくれると、震える私を抱きしめてくれました。
頭を撫でて貰えたことで、落ち着きを取り戻し、震えが止まります。
これは頑張った私へのご褒美なのでしょうか。
それなら1秒でも長く、この時間を堪能したいです。
ですが、そうはいきませんでした。
ほとんど休む間も無く、アイリスさんが次の戦闘に行くように言います。
もっと抱きしめていて欲しかったけど、汗臭いと思われたら、ショックで死ぬかもしれません。
ユーリオン様との時間を邪魔された不満も力に変え、カマキリにぶつけます。
カマキリが全滅した所で、ハクアを残し、ユーリオン様が王都へと戻りました。
私達は次のモンスターを捜して移動します。
その間にハクアは魔石を食べています。
……食べる気にはなれませんが、美味しいのでしょうか?
その後は、犬の魔獣と植物系の魔物と戦いました。
ハクアも手伝ってくれたので、戦いやすかったです。
「そろそろ戻ろうと思うのだけど、エレナ、レベルは上がった?」
「確認してみます」
戦いに集中していて、ステータスを確認していませんでした。
今日は頑張ったので、きっとレベルも上がっているはずです。
【名:エレナ】【種:ヒューマン】【性:女】【年:5】【レベル:8】
【魔法適正】『光/15』『闇/0』『火/15』『水/0』『土/0』『風/0』『無/20』
【スキル】『短剣術Lv.2』『槍術Lv.3』『算術Lv.2』『家事技能Lv.1』
レベルが1から8まで上がっている。
魔法適正も上がっているので、魔法も学べば使えるようになるはず。
「レベルは8まで上がって、魔法適正も伸びました」
「おめでとう、頑張ったもんね。適性は?」
「光と火です」
「どちらも私では教えられないわね。基礎は教えるから、後は独学になるかしら」
「頑張ります!」
魔法を教えて貰えないのは少し不安だけど、それ以上に嬉しさが勝ります。
アイリスさんが使えない魔法を私が使えれば、きっとユーリオン様のお役に立てる。
「それじゃ、帰りましょうか」
「はい」
帰りの馬車でも、ハクアに魔石を食べさせます。
朝に比べると、少し大きくなったので、ユーリオン様喜んでくれるかな。
王都へ戻ると、ユーリオン様が待っていました。
用事は済んだようで、一緒に屋敷へと戻ります。
車内という同じ空間にいる事で、自分の汚れや汗の匂いが気になります。
しかし、私が御者台に行って目立つわけにもいきません。
できるだけ、隅の方に行く事で、ユーリオン様が不快な思いをしないように願います。
屋敷へと戻ると、ユーリオン様が先にお風呂を使うように勧めてきます。
……臭っていたのでしょうか……だとしたら、恥ずかしくて耐えられません。
アイリスさんと一緒にお風呂へ行くと、私はいつも以上に丁寧に洗います。
身分は低くても私だって女の子です。
ユーリオン様の前では、いつだって清潔な姿でいたいのです。
夕食を食べ終えると、ユーリオン様に部屋へ来るように呼ばれます。
お話でもあるのでしょうか?
なぜか、アイリスさんに、もう一度お風呂へ行くように言われます。
……まだ洗い足りて無かったのでしょうか……ショックです……。
ユーリオン様がご褒美だと言って、プレゼントをくれました。
頑張った事を認められた事が、すごく嬉しくて、泣きそうになります。
箱を開けてみると、中には、奇麗な銀色の花が入っていました。
それは、どうやら髪飾りのようです。
はしゃぎたくなる程の嬉しさと、髪に対するコンプレックスが同時に押し寄せてきます。
私なんかが使うには、それはあまりにも奇麗すぎました。
せっかく贈って頂いた物ですが、私は触れる事すら躊躇してしまいます。
なんと、その奇麗な髪飾りは、ユーリオン様が作ったとの事でした。
色々できるユーリオン様ですが、装飾品まで作れるなんて。
私の為に作ったなんて言われれば、もう遠慮も我慢もできません。
髪飾りを付けてもらえるように甘えます。
自分からは見えませんが、みんな褒めてくれました。
我慢できなかった私は、立場を弁えず、ユーリオン様に抱きついてしまいます。
自分から抱きついておいてなんですが、恥ずかしくなってきました。
うるさいくらいに高鳴る心臓の音を聞かれてしまうんじゃないか。
もしかしたら嬉しすぎて、変な顔になっているかもしれません。
私は言い訳をすると、はしたないけど、急いで自分の部屋に向かうのでした。




