サイドストーリー/アリアノール
side:アリアノール
ユリウスが今日は久しぶりにゆっくりできると、言っていた。
重要な案件は午後に1件あるだけらしい。
内容までは聞かなかったが、そろそろ終わっただろうかと様子を見に行く。
今日は天気も良く暖かいし、もし終わっているようなら、庭で一緒にお茶を楽しみたい。
部屋に入ると、ユリウスはセバスチャンとチェスを指していた。
形勢が不利なのか、子供のように夢中になっている姿が愛おしい。
ユリウスはチェスが好きだが、得意というわけではない。
いや、正直に言うと、控えめに言っても下手だと思う。
私もルールは分かるのだが、相手に合わせて手加減できる程上手くはない。
ユリウスにレベルを合わせ、一緒に楽しめるセバスチャンが羨ましい。
頭を悩ませているユリウスではなく、セバスチャンに確認する。
どうやら大事な用件は済んでいて、後は数件書類の確認作業が残っているだけらしい。
ならば問題無いと、お茶に誘うが、チェスを続けたいらしく、渋られる。
確かにユリウスが遊んでいられる時間なんて、滅多にない。
今回は引き下がろうと思ったが、セバスチャンが助け舟を出してくれる。
「たまには外でチェスを指すのも一興ですし、良い手が浮かぶかもしれませんよ」
「……そうだな、今日は暖かいし、ずっと部屋に閉じこもっているのも不健康か」
「それでは、お茶の準備をしてきますので、先にお庭の方へどうぞ」
セバスチャンにお礼を言うと、彼は静かに微笑み、部屋から出ていく、
「この時間だと、フローラもお散歩中かしら」
「なら、フローラが起きているようなら、一緒に過ごそうか」
「それはあの子も喜びますね。ちょっと確認してきます」
第4子であり、次女になるフローラは、乳母をしている侍女が預かっている。
庭の方へ向かうと、フローラの泣き声が聞こえてきた。
どうやら、起きてはいるが、ぐずっているようだ。
私がフローラに近づこうとするより先に、反対側からユーリオンが来た。
顔を合わせづらいという事もあり、とっさに隠れてしまう。
気づかれないように、そっと陰から覗くと、フローラを抱いた侍女と何か話している。
フローラは泣き続けているし、どういう状況なのだろうか?
まさか、フローラに何かするつもりじゃと不安に感じてしまう。
いざという時には飛び出せるように、警戒心を強める。
ユーリオンは誕生日パーティーでも見せたように、何かを作っているようだ。
その不思議な光景に興味を惹かれたのか、フローラが泣き止んだ。
あの技術は何なのだろう。
魔力を火や水に変換するのではなく、盾や剣などの形にする魔法は見た事がある。
だが、糸のように細長い物に変換し、それを編む魔法など帝国でも聞いた事が無い。
剣や盾に変換しても、それは一時的なモノでしかない。
鍛冶師が鉄を使って作った物より脆く、形を保てるのも術者にも依るが、そう長くは持たない。
私が頭を悩ませている間に、以前見た物より大きい縫いぐるみが完成していた。
……あれは蝶かしら?
その縫いぐるみをフローラに渡すと、ユーリオンは去っていく。
私は遠く離れたのを確認すると、フローラの元へ向かう。
「彼とは何を話していたの?」
「フローラ様の泣き声が聞こえて、様子を見に来たそうです」
フローラは、よほど蝶の縫いぐるみを気に入ったのか、嬉しそうだ。
でも、その縫いぐるみが安全かどうかを、確かめる必要がある。
私が縫いぐるみを取り上げると、フローラが泣き出してしまうが許してほしい。
表面に何か塗られていないか、中に何か仕込まれていないか確かめる。
どうやら私の心配は杞憂であり、普通の縫いぐるみのようだ。
いや、普通の物より肌触りも良く、かなり質の良い出来だと思う。
とりあえず安全を確認できたので、縫いぐるみをフローラに返す。
すると泣き止んでくれたが、もう取られまいと強く抱きしめ、不機嫌そうにこちらを睨む。
「フローラ様が口に入れても大丈夫なよう、大きめに作ってくれたそうです」
「……そう、この子がフローラ、私の子だと知っていたのかしら」
「いえ、ユーリオン殿下の様子だと、誰の子かは知らなそうでした」
誰の子かも分からないのに、わざわざ縫いぐるみを?
それとも私の子だと知っていたら、優しくは、してくれなかったのかしら。
私はフローラを抱いた侍女を連れ、ユリウスの待つ庭へ向かう。
もう縫いぐるみを取り上げないから、実の母をそんなに睨まないでほしい。
ユリウスの元へ行くと、セバスチャンがお茶を用意している所だった。
「おや、蝶の縫いぐるみなんて珍しい」
「……ユーリオンが、泣いてたフローラにプレゼントしてくれたそうよ」
「……そうか、あの子が……どれ私にも見せてくれ」
「あ」
フローラが再び泣き出す。
縫いぐるみを取り上げると泣く事を、伝える前にユリウスが取ってしまった。
縫いぐるみを返すと泣き止むが、ユリウスもフローラに睨まれ、少しへこんでいる。
チェスを指すユリウスとセバスチャン。
時々アドバイスをしながら、お茶を楽しむ私。
縫いぐるみを使って遊ぶフローラと侍女。
その日はとても穏やかな時間を過ごした。




